『
ノストラダムスの未刊の予言集』 (
Nostradamus' Unpublished Prophecies) は、
アーサー・クロケットが1983年にインナーライト出版 (Inner Light Publications) から出版した著書。
新発見の百詩篇第12巻と称する四行詩を発表したことに最大の特色があるが、明らかに偽作である。
【画像】初版及び各国語版
内容
初版の章立ては以下の通りである(原書では章番号は付いていないが、便宜的につけた)。
- (1) かつて生きていた最も神秘的な人物 (The most mysterious man who ever lived.)
- (2) 偉大な予言者の恐るべき予言 (The great seer's frightening prediction)
- (3) 彼は別の時代から来たのか? (Was he from another era ?)
- (4) ノストラダムスの偽作 (Nostradamus forgeries)
- (5) 三人の不吉なる反キリストと核戦争 (Three ominous Antichrists and nuclear war)
- (6) ケネディ兄弟の暗殺 (Assassination of Kennedy brothers)
- (7) ノストラダムスの出版されなかった四行詩群 (Nostradamus' Unpublished Quatrains)
第1章から第6章ではノストラダムスの伝記を紹介するとともに、過去の的中例を挙げている。なお、第4章の「偽作」というのは、反マザランの偽の詩篇やオリヴァリウスの予言を扱ったものである。
第7章では、ノストラダムスが晩年を過ごした家の地下室で見付かったという新発見の予言詩を紹介している。
コメント
ロベール・ブナズラは伝記的事実に関する基本的な誤りの数々を指摘し、酷評していた。実際、ノストラダムスが生まれたころの
サン=レミ上空に見知らぬ光が現れたことが公文書に記録されているなどといった、実証的に全く確認できない与太話のたぐいが出てくるように、全体的に信頼性は高くない。
新発見の四行詩についてもブナズラが「インチキ」と一蹴しているように、偽物なのは言わずもがなである(
クロケットの四行詩参照)。
ほかにもアンリ3世の死を予言した「三行詩」なるものを持ち出しているが、それは
予兆詩第63番を改変したものに過ぎず、事件の35年前(つまり1554年)に発表されたというのも嘘である。
出版年と出版地
五島勉は『
ノストラダムスの大予言・中東編』において、クロケットのこの本が1989年にニューヨークの小さな出版社から出されたと主張していたが、インナーライト出版はニューブランズウィック(ニュージャージー州)の出版社で、出版年、出版地とも間違っている。
ただ、
ロベール・ブナズラはこの本が1981年にニューヨークのグローバル・コミュニケーションズ社から出版されたと述べているので、大元の本がニューヨークで出された可能性はある(これは後述のフランス語訳版に基づくと思われるが、当「大事典」では未確認)。どちらにせよ、「新発見予言はフランスの秘密結社が1986年に発見した」とする五島の説明は成り立たない。
初版と改訂版
初版の題名は前述のように『ノストラダムスの未刊の予言集』 (Nostradamus' Unpublished Prophecies) である。表紙にはその題名の上に「語られざる物語」 (The Untold Story) とあるが、1ページ目の著作権表示部分にはこの言葉はない。
A4版とほぼ同じサイズでホチキス留めの簡素な製本である。オレンジ色の厚紙の表紙が付いており、黒の一色刷りでノストラダムスの似顔絵が大きく掲げられている。
他方で、同じように1983年刊行とする全く別の版が存在していることが報告されている。そちらはリング製本で紫の表紙を持つ。表紙には何のイラストもなく、『ノストラダムスの予言集、語られざる物語』 (Nostradamus' Prophecies The untold story)という題名が記載されている。本来の題名に比べると、Unpublished が脱落している点で異なっている。
どちらがオリジナルなのかは断言しかねるが、リング製本版の場合、著作権表示ページの出版社名が消されている点も特徴的である。アメリカの場合、ヘルス・リサーチ社のように他社の出版物をリング製本で復刻する出版社もあるので、そういった業者による複製の可能性もあるのかもしれない。実際、インターネットで検索をかけると、この本の版元を Health Research としているサイトが複数ヒットする(ただし、現在のヘルス・リサーチ社の公式サイトではヒットしない)。
1991年には、当時の湾岸情勢に便乗した増補版 『ノストラダムスの未刊の予言集。ペルシャ湾岸情勢更新分を含む』 (Nostradamus' Unpublished Prophecies. Including Persian Gulf Update) が出版された。
この時点で、「新発見予言」から2篇が除かれ、「暗黒予言」を掲載した別添えの紙も消えたようである。
2001年9月11日にアメリカ同時多発テロが起こると、その年の内に新たな増補版 『ノストラダムスの未刊の予言集。テロリストたちがアメリカを攻撃』 (Nostradamus' Unpublished Prophecies. Terrorists attack America) が出版された。
2001年版の著作権表示は1991 & 2001 となっており、1983年版への言及はない。また、編者としてUFO関連の著作もあるティモシー・グリーン・ベクリーの名がある一方、クロケットの位置づけは「相談役、書き直し」(Consultation & rewriting)となっている。
しかし、初版との違いは、冒頭に3ページ分の「ノストラダムスは世界貿易センターの惨事を予言したのか」(Did Nostradamus predict the World Trade Center Disaster ?) と題する増補が行なわれたことと、「新発見予言」のうち(すでに1991年版で省かれていた)2篇が収録されていないこと、イラストの掲載位置が異なることくらいで、大きな変更は見られない。
なお、サイズは初版(ホチキス製本版)と同じだが、白地の厚紙にピンクと青のカラー印刷をほどこした表紙を本体に糊付けする形の製本に変更されている(初版の表紙を飾っていた肖像画は10ページに掲載されている)。
【画像】2001年版の表紙
当「大事典」が捕捉しているのは以上4版だが、上記以外の版が存在している可能性も否定できない。
日本では後述する寺島研次による抄訳によって、その内容が初めて知られるようになった。その著作権表示では、『ノストラダムスの語られざる物語、未刊の予言集』(Nostradamus' Untold Story, His Unpublished Prophecies) という、初版の題名とは微妙に異なる原題が掲げられ、刊行年は1989年とされていた。
また、南山宏の訳書の著作権表示でも同じ原題になっているが、そちらの刊行年は初版と同じ1983年となっていた。
ブナズラが指摘する1981年版の存在を確認できないこともあり、この辺りの事情については、まだよく分からないことが多い。
なお、五島は前掲書で陰謀的背景をほのめかすかのように、クロケットの本は人目につきにくいように小さな出版社からひっそり出されたと述べていたが、湾岸戦争やアメリカ同時多発テロのようなブームに便乗するかのように再版されている事実とは矛盾する。また、後述するフランス語訳版にしても、何度もフランスの雑誌に派手な広告を載せていたらしい。
他言語版
日本語版、フランス語版、スペイン語版、ポーランド語版が存在する。この場合のフランス語版は英語版からの訳であって、オリジナルのフランス語原文が載っているわけではない。
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最終更新:2021年09月03日 15:18