百詩篇第9巻37番

原文

Pont & molins 1 en Decembre 2 versez,
En si haut lieu montera la Garonne :
Murs 3 , edifices 4 , Tholose renuersez,
Qu'on 5 ne sçaura son lieu autant 6 matronne.

異文

(1) molins : moulins 1590Ro 1597 1600 1610 1611 1627 1644 1650Ri 1653 1660 1665 1716 1840, Molins 1672
(2) Decembre : December 1672
(3) Murs : Meurs 1600 1610 1716
(4) edifices : Edifices 1672
(5) Qu'on : Quon 1628
(6) autant : courant 1672

校訂

 1行目 molins は異文にあるように moulins となっているべきだが、当時は o と ou が交換可能であったため、誤りというわけではない。
 4行目 matronne は Matrone という固有名詞として理解すべき。詳しくはmatronneを参照。

日本語訳

橋と水車小屋が十二月に覆される。
ガロンヌ川はかなり高い場所にも押し寄せるだろう。
トゥールーズの壁や建物は滅茶苦茶にされる。
それで、マトロナ川と同じようにその場所が分からなくなるだろう。

訳について

 4行目の訳し方はマリニー・ローズピーター・ラメジャラーに従った *1

 山根訳1行目「橋と牛乳が十二月にひっくり返る」 *2 は「牛乳」が完全に誤訳。元になったエリカ・チータムの英訳で Bridges and milk と書かれているので転訳としては正しいが、moulins(水車、風車)に牛乳の意味などない。milk は mill の誤植だろう。ちなみに、後に出されたチータムの決定版では mild と誤植されている。
 3行目「壁 建物 トゥールーズが転覆する」は直訳として正しい。当「大事典」では若干言葉を補っている。
 4行目「だからマトロンヌの前の彼の場所を知る者はひとりもいないだろう」は、1行目と同じでチータムからの転訳としては正しいが、不適切である。「マトロンヌの前の」は、チータムが autant を avant に改変していることによる。

 大乗訳はおおむね許容範囲内だが、1行目「風車」は微妙。トゥールーズのガロンヌ川流域が対象となっていることを考えれば、百詩篇第8巻30番で言及されていたバザクルの水車が想定されているはずだからである。
 また、4行目「そのためだれも場所がわからず 多くのマトロンで」 *3 は誤訳。ヘンリー・C・ロバーツの英訳も似たようなものだが、「同じくらい」を意味する autant と、程度が多いことを意味する tant を混同したのではないだろうか。

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは matronne の部分を不明としつつも、12月にガロンヌ川で大氾濫が起こることの予言と解釈した。ヘンリー・C・ロバーツセルジュ・ユタンも同じような解釈である(ロバーツの日本語版で「反乱」とあるのは「氾濫」の誤植だろう)。

 エリカ・チータムは matronne がキーワードだろうとしつつも、解読できないとしていた。

同時代的な視点

 マトロナ川は北フランスを蛇行しているマルヌ川の古称で、古来氾濫の多さで知られている。
 つまりこの詩は、12月にトゥールーズのそばを流れるガロンヌ川で、元々どこを流れていたのかが分からなくなるほどの大氾濫が起こり、町に甚大な被害をもたらすことが描写されている。

 ロジェ・プレヴォは、当時のトゥールーズでまとめられていた市当局の年報を引き合いに出している。プレヴォはその1536年12月5日の項目から、次のように引用している。
 「(ガロンヌ川が)町全体を水浸しにしたと思えた。バザクルの水車小屋の土手は破壊され、小麦がすっかりだめになってしまった。」 *4

 情景はまさにそのままで、この事件がモデルになった可能性が高いだろう。ピーター・ラメジャラージャン=ポール・クレベールも大筋で支持している *5


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