百詩篇第2巻92番

原文

Feu couleur 1 d'or du ciel 2 en terre 3 veu:
Frappé 4 du hault, nay 5 , fait cas merueilleuz:
Grand meurtre 6 humain : prins 7 du grand 8 le nepueu 9 ,
Morts 10 d'expectacles 11 eschappé 12 l'orguilleux 13 .

異文

(1) couleur : coleur 1557B, couleurs 1660
(2) ciel : Ciel 1672 1712Guy
(3) en terre : enterre 1590Ro
(4) Frappé : Frappe 1653 1665
(5) nay : n'ay 1649Ca 1650Le 1668P
(6) Grand meurtre : Vn murte 1557B
(7) prins 1555 1557U 1557B 1568A 1588-89 1589PV 1590Ro 1627 1644 1650Ri 1653 1665 1840 : prinse T.A.Eds.
(8) du grand : de grand 1588-89
(9) le nepueu : neueu 1568 1590Ro 1597 1600 1605 1610 1611 1628 1649Xa 1649Ca 1650Le 1660 1668 1712Guy 1716 1772Ri, Neveu 1672
(10) Morts : Mort 1665
(11) d'expectacles : d'espectacles 1568B 1568I 1597 1610 1611 1627 1644 1660 1716 1772Ri, d'expectacle 1590Ro, d'espactacles 1600, despectacles 1605 1628 1649Xa, de spectacles 1650Ri 1650Le 1653 1665 1668 1672, des spectacles 1712Guy
(12) eschappé : eschappe 1589Rg
(13) l'orguilleux 1555 1557B 1568A 1590Ro 1772Ri 1840 : lorguilleux 1557U, lorgueilleux 1611A 1672, l'Orgueilleux 1627 1644 1650Ri, l'orgueilleux T.A.Eds.

(注記)1712Guy はバルタザール・ギノーの異文。

校訂

 エヴリット・ブライラーは2行目の nay fait cas は nefaste(凶兆)と読むべきではないかとしていた *1 。一応文脈には当てはまるが、支持する者はいないようである。

 加治木義博が紹介した原文では3行目の最後の単語が nequen になっているが、調査の範囲ではこのような異文はない *2

 4行目 l'orguilleux は l'orgueilleux の方が良いが、中期フランス語ではどちらの綴りも通用した *3

日本語訳

天の金色の火が地上で目撃される。
高みから打たれる。赤子によってなされた驚異の事件。
人類の大虐殺。偉大な者の甥は捕らわれる。
見世物の間に死ぬ者たちが出るものの、高慢な者は逃れる。

訳について

 山根訳は、2行目「高貴の生れの者に撃たれ 驚異の突発事」 *4 も3行目「人類の大虐殺、実力者から奪われる甥」も、区切り方によってはそういう訳し方も可能である。

 大乗訳には問題が多い。1行目「金色の光が天から地にまでとどき」 *5 は、veu (見られる)の意味合いが訳されていない。
 2行目「驚くべきことが打たれるように起こり」は、du haut (高みから)が訳に反映されていない。また「打たれるように」という訳し方も疑問である。
 3行目「人類に大殺りくがあり 幼児をなくし」の前半はともかく、後半が誤訳。du grand (偉大な者の/偉大な者によって)が訳にない上、nepueu (neveu) は「幼児」ではなく「甥」または「孫」の意味 *6 (「甥」や「孫」は「偉大な者」との続柄を示すに過ぎず、幼いとは限らない)。
 4行目「あるものは死んだようになり 知恵ある人は逃れるだろう」は、expectacleの訳がなぜ「あるもの」になるのか不明。後半 l'orgueilleux は「知恵ある人」などという良いニュアンスではないだろう。高田勇伊藤進訳でも「倣岸な者」と訳されている *7

信奉者側の見解

 テオフィル・ド・ガランシエールは、前の詩の続きで様々な驚異が起こることの予言とした *8
 バルタザール・ギノーは、非常に高貴な生まれの男子が天からの火で傷つけられることなどの予言としたが、時期も場所も明記していないので、単に詩の内容をそのままなぞったような解釈になっている *9


 ヴライク・イオネスクは、第二次世界大戦中の原爆投下と、戦後に天皇が戦争責任追及を逃れることの予言と解釈した *10セルジュ・ユタンボードワン・ボンセルジャンも広島、長崎への原爆投下の詩とした *11

 エリカ・チータムは「甥」をナポレオンの甥ナポレオン3世とし、普仏戦争や彼が暗殺計画から逃れたことの描写とした *12エドガー・レオニによると、こうした解釈を最初に展開したのは、アンリ・トルネ=シャヴィニーだったらしく、スダンの戦いでナポレオン3世が敗北したあとに言い出したようである。
 ただし、チータムの著書の日本語版『ノストラダムス全予言』では、その解釈は詩のスケールの大きさに合わないとして、近未来に宇宙の悪の種族が UFO で攻めてきて地上にレーザー光線のようなものを放つ詩とする流智明(未作成)の解釈に差し替えられている *13
 五島勉は、近未来の戦争において高空から光線兵器が使われることになる予言と解釈した *14

 加治木義博は1993年の時点では、近未来に政治上の大改革が行われるのに伴って、フランス革命やロシア革命のような流血沙汰があることの予言と解釈していた。その後、アメリカ同時多発テロ事件が起こると、旅客機が世界貿易センタービルに激突したときの情景と解釈した *15

 飛鳥昭雄は、かつて大乗訳に引きずられたのか、「火」を「光の柱」、「甥」を「幼児」と訳すなどした上で、イエス・キリストの降臨と、それを信じて集う者たちの組織に加えられる迫害の様子と解釈していた *16 。のちに、アメリカ軍が高周波施設ハープ (HAARP) の本格実験を開始したことと関連付けるようになった *17

同時代的な視点

 前半は彗星 (または流星) の観測、落雷による被害、奇妙な赤子の誕生という3種の驚異(未作成)の報告になっている *18 。1行目は彗星の観測でなく落雷の描写で、そのまま2行目とつながっているとする読み方もある *19
 それらが後半に語られている大惨事の凶兆と位置付けられているという読み方には、おおむね異論はない。

 ピーター・ラメジャラーは、前半の驚異をユリウス・オブセクエンスが報告している紀元前91年の出来事と関連付けた。それによれば、スポレティヌム (Spoletinum) で金色の火球が地上に落ちるのが目撃されたという。同じ年には神殿の囲いが落雷で破壊されたという *20

 ピエール・ブランダムール百詩篇第3巻40番百詩篇第6巻51番など劇場の破壊によって見物人に被害が出るモチーフが他にもあることを指摘した *21

 ロジェ・プレヴォは、赤子の驚異を1556年にカルダーノやリュコステネスが報告した犬の頭と人の体を持って生まれた子供の話とした。
 それはサン=カンタンの戦いでフランス軍が大敗し、市民が多く虐殺される前の年のことだった。その戦いではモンモランシー大元帥の甥に当たる軍人ダンドロがスペイン軍に捕らわれた。
 4行目をプレヴォは「見世物から外れて傲慢な者が死ぬ」というような意味に捉えており、1557年に神からの使者だと嘯いてアンリ2世の暗殺を企て、非公開の絞首刑に処せられた若者カボシュ (Caboche) と解釈した *22
 この解釈は細部に至るまで良くできているが、この詩の初出は1555年のことなので支持することはできないだろう。


コメントらん
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  • 開発されたばかりの「少年」の意味を持つ原爆を広島に投下した爆撃機「エノラ ゲイ」は機長の母親の名前だから、原爆を赤子と表現した。東京裁判の起訴は昭和天皇誕生日(4月29日)に行われた。“死ぬ者たち”は、判決前に病死した者が二名でたこと。その一人は外交官の松岡洋右。その一度の出席での罪状認否では無罪を全被告人中ただ一人、英語で主張している。傲慢な者は彼ではないだろうか。 -- とある信奉者 (2013-03-05 21:37:27)

  • この詩のモデルになったのは聖書だろう。天の火でソドムとゴモラは滅びたが、その前にアブラハムの甥であるロトに二人の天使が訪れ、逃げるように警告した。しかし、ロトの妻は後ろを振り返って見てしまい、塩の柱になった。アブラハムの子孫イエスが生まれたとき、ヘロデ大王が2歳以下の幼児を虐殺したという(マタイ2章16~18)しかし、マリアとヨセフは天使の警告で、エジプトに逃れることができた。 -- とある信奉者 (2013-03-06 21:48:36)
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