sedifrague

 sedifrague詩百篇第6巻94番にのみ登場する語。

 古くから二通りの読み方の可能性が指摘されてきた。

 一つ目はラテン語 sedem frangere のフランス語化で、「椅子(座、地位)の破壊者」とする読み方である。
 これはアナトール・ル・ペルチエが最初に提起した読み方だが、エドガー・レオニマリニー・ローズピーター・ラメジャラーブリューノ・プテ=ジラールといった学識ある研究者たちからも支持されている*1

 もう一つが「誓い(約束)を破る者」とする読み方である。
 この最初の例は、Covenant-Breakers と訳していたテオフィル・ド・ガランシエールの英訳であろう。ただし、彼は語源的根拠を挙げていなかった*2
 エヴリット・ブライラーは fidefragues と読み換えて「誓いを破る者」と読んだ*3
 ジャン=ポール・クレベールは1555年向けの暦書に登場していた foedifraga という表現と関連付け、fedifragues の誤植ではないかとした。 foedifraga はラテン語の foedi-fragus をイタリア語化したもので、「協約を破る者」の意味である*4
 現代のイタリア語にも「誓いを破る者、裏切り者」の意味の fedifrago という語が存在している。

補論

 加治木義博は、スディフラグの語源を「サデム・フレンジェ=縁どりを壊す」だとし、湾岸戦争で国境を破壊した 「サダム・フセインのフランス語発音『サデム・フジェ』に非常に近い」 と主張していたが*5、明らかに誤り。

 sedem (sedes) に 「縁どり」 の意味はない。

 読みも不適切で、sedem frangere をそのままラテン語読みすれば 「セデム・フランゲレ」、フランス語読みすれば 「スダン・フランジュル」(普通こういう綴りの場合 frangère となるはずなので「フランジェル」と読めるか)で、どちらも「サデム・フレンジェ」にはならない。
 また、サダム・フセイン (Saddam Hussein) を標準的なフランス語読みすれば 「サダン・ユサン」 で、「サデム・フジェ」 にはならない。

 後に加治木は sedifragues を 「サダフレジュ」 と読んで 「サダム・フセインのラテン語読みに近い」 と修正したが *6、sedifragues も sedem frangere も「サダフレジュ」とは読めない。
(フランス語の場合 gue は「グ」、ge は「ジュ」である。加治木の著書ではこの点がしばしば混同されている)
 また、Saddam Hussein はラテン語読みしても「サダム・フセイン」とほとんど変わらないので、結局のところ不適切なことにかわりはない。

 本来詳しく検証する必要のない珍説だが、一応「言語学者」を名乗る人物の主張なので、フランス語・ラテン語のどちらの面からも支持できない主張である点を確認しておく。


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最終更新:2011年02月04日 22:22

*1 Le Pelletier [1867b], Leoni [1961], Rose [2002c], Lemesurier [2003b/2010], Petey-Girard [2003]

*2 Garencieres [1672]

*3 LeVert [1979]

*4 Clébert [2003]

*5 加治木『真説ノストラダムスの大予言』 p.185

*6 加治木『新たなる時代への序曲 真説ノストラダムスの大予言』[2002] p.190