詩百篇第9巻43番


原文

Proche à descendre l'armee1 Crucigere2
Sera guettee3 par les Ismaëlites4
De tous cottez5 batus6 par nef Rauiere7,
Prompt8 assaillis9 de dix galeres10 eslites.

異文

(1) l'armee : l'Armée 1672Ga
(2) Crucigere : crucigere 1653AB 1665Ba 1720To, Grucigere 1667Wi
(3) guettee : guetté 1665Ba 1668A 1720To 1840, guettées 1716PRc
(4) Ismaëlites : Ismaelites 1603Mo 1650Mo
(5) cottez 1568X 1568A 1591BR 1597Br 1603Mo 1611B 1772Ri : costez 1568C 1590Ro 1605sn 1606PR 1607PR 1610Po 1627Ma 1627Di 1628dR 1644Hu 1649Ca 1649Xa 1650Ri 1650Le 1653AB 1665Ba 1667Wi 1668 1672Ga 1716PR 1840 1981EB, cotez 1611A, contrez 1650Mo, côtez 1720To
(6) batus/battus : bastus 1627Di 1650Ri
(7) Rauiere : rauiere 1627Ma 1627Di, Rauier 1605sn 1611 1628dR 1649Ca 1649Xa
(8) Prompt : Pront 1627Di, Prompr 1650Mo
(9) assaillis : assailles 1605sn 1649Xa
(10) galeres : galere 1627Ma 1627Di

日本語訳

進攻が近い十字架を持つ軍隊は、
イシュマエルの末裔達に監視されるだろう。
あらゆる側から逸る船に攻撃され、
瞬く間に選り抜きのガレー船十隻に襲撃される。

訳について

 既存の訳について、山根訳は問題ない。

 大乗訳1行目「十字軍が国のまわりに」*1は誤訳。ヘンリー・C・ロバーツの英訳 The crusading army being about the land を参照したのだろうが、この英訳はテオフィル・ド・ガランシエールの英訳 ...being about to land (上陸しようとしている)の写し間違いである。
 同3行目「八方うたれて船はもちさられる」も誤訳。これもまたロバーツの英訳の直訳だが、ロバーツがどういう根拠で raviere を「もちさられる」と訳したのか分からない。おそらく ravisseur (強奪する者)とでも結びつけたのだろうが、不適切だろう(ガランシエールはこの語はそのまま Raviere としていた)。

 なお、加治木義博はこの Raviere を「とても嬉しいだろう」と訳しているが*2、これも根拠がよく分からない。おそらく ravi(e) (非常に喜んでいる)からの連想だろう。

信奉者側の解釈

 この詩はフェリペ2世のアルジェ攻略と関連付けたテオフィル・ド・ガランシエール以外には、19世紀末までに解釈した論者がいなかったようである。

 マックス・ド・フォンブリュヌ(未作成)は、将来起こるヨーロッパ勢力によるイスラーム圏への侵攻を描いたもので、nef Raviere の Raviere は rare vie (稀な生命)のアナグラムで、nef Raviere は「不滅のキリスト教会」を指すと解釈した*3

 エリカ・チータムは、レパントの海戦の予言と解釈した前の詩(未作成)の続きの可能性があるとした*4

 セルジュ・ユタンは、イスラエルとアラブの紛争としたが、時期は明記していなかった*5

 五島勉は1990年の湾岸危機の際に、現在進行形の情勢を的確に言い当てている詩だとしていた*6
 加治木義博は湾岸戦争時の多国籍軍のイラク攻撃を描いているとした*7

同時代的な視点

 ピーター・ラメジャラーは、1535年にカール5世がチュニスを攻略したことがモデルになっていると推測した*8


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詩百篇第9巻
最終更新:2020年02月21日 01:59

*1 大乗 [1975] p.269

*2 加治木『人類最終戦争・第三次欧州大戦』p.84

*3 Fontbrune [1939] p.245

*4 Cheetham [1973/1990]

*5 Hutin [1978/2002]

*6 五島『ノストラダムスの大予言・中東編』pp.82-95

*7 加治木『人類最終戦争・第三次欧州大戦』p.84

*8 Lemesurier [2003b]