第三話 圧倒的な力

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「こっちだ」  言いながら先行するガーランドを、ネメシスとシーマが追いかけていく。  シーマと共にガーランドを追いかけつつ、ネメシスは周囲を見た。  三人が先ほどから歩いているのは、岩石地帯だ。  岩石が点在し、足元は分厚い岩盤で覆われている。  草一本も生えていない不毛の土地。  とても人が住んでいるようには見えない。 (この岩石地帯にブラッドソードのアジトがあるらしいが、それも疑わしくなってきたな……)  そう思い、ネメシスはガーランドに問いかけることにした。 「隊長。本当に、この辺にブラッドソードのアジトがあるんですか?」 「諜報部隊の情報が確かなら、な」  ガーランドは出発前に持ち出した剣を右肩に担ぎ、答える。  彼は超一流の剣士であり、ネメシスでは歯が立たないほど強い。  ネメシスより数段上の剣士であるシーマも、ガーランドには勝てない。  それほどの技量を備えているからこそ、ガーランドは安全管理部隊隊長になれたのだ。  ネメシスがそんなことを考えていると、不意にガーランドは足を止め、素早く岩陰に隠れた。  それを見て、ネメシスとシーマも反射的に岩陰へ隠れる。 「見ろ。あそこだ」  そう言ってガーランドが指差した方向には、周囲に転がっているものよりも二回りほど大きい岩石があった。  見たところ大きい以外に特徴はなく、単なる岩石としか思えなかった。  だが、次の瞬間。  表面が左右に開き、中から十数人の男性が出てきた。  岩石の扉だったのだ。  男性は全員が斧と鎧で武装し、岩石の周囲を歩き回りつつ、周囲を見渡している。 「あ……あんな所に入口が……」 「珍しいことじゃないわ。強盗団のアジトは大抵ああいうふうに擬装されているものよ」  驚愕するネメシスに、シーマが冷静な口調で言った。  彼女は安全管理部隊隊員として活動してきた時間が、ネメシスよりも遥かに長い。  あのように擬装されたアジトなど、何十回も見てきているのだろう。 「で……どうしますか、隊長。全員を殺すだけなら簡単ですが」  シーマは腰の鞘から剣を引き抜き、恐ろしい言葉を平然と口にした。  殺人に対する『ためらい』というものが、シーマには少しもない。  いや、正確には悪党に対する慈悲などない、と言うべきか。  ブラッドソードの対応次第、あるいはガーランドの命令次第で、彼女は本当に全員を殺す。  それを可能とするだけの技量が、シーマにはある。 (どうするんですか、隊長……)  ネメシスが心の中で問いかけると、まるで聞こえているかのようにガーランドは言った。 「先に団長を逮捕し、団員達に投降を促すという方法も考えていたんだが……この状況では無理だな」  ガーランドの言葉に、シーマは無言で頷いた。  ネメシスも同じだ。  あれほど警戒されていては、潜入して団長を逮捕し、団員達に投降を促すなど不可能だろう。 「それに全員を逮捕できたとしても、どうせ死刑台送り決定です。見逃せば、今まで通りに破壊と殺戮を繰り返すのみでしょう」  剣を軽く振りつつ、シーマは淡々と言った。  完全に殺す気満々である。  ガーランドも止めるつもりはないようだ。  ブラッドソードの団員達は全員が大量殺人、金品強奪、婦女暴行の現行犯であり、少なくとも五百人以上の人間が彼らに殺されている。  見逃す理由など一つもない。 「……」  岩陰から飛び出そうとしている二人を見ながら、ネメシスは思った。  もしかすると、殺さずに逮捕する方法はあるかもしれない。  しかしそれを考えている間に、新たな犠牲者が出たら最悪だ。 (殺すべきなのか……?)  生かしておく理由はない。  確かに人の命は尊いだろう。  大切にするべきものだ。  だが、ブラッドソードの団員達の命が尊いとは思わない。  こんな考え方をするのは、シーマの影響を受けているからだろうか。  かと言って、団員達を殺せるかというと、そんなことはない。  むしろ、何のためらいもなく人を斬り殺せるシーマが、不思議でならない。  と、その時。 『殺せ』  どこからか、声が聞こえてきた。  男性の声だ。  耳からではなく、直接脳内に聞こえてくる。 (今の声は……?)  ガーランドの声ではない。  シーマの声でもない。  では、誰の声なのか。 『殺せ』  再び聞こえてきた。 (お前は誰だ……!?)  ネメシスは反射的に頭を両手で押さえ、呻き声を上げる。  その声を聞き、ガーランドとシーマが心配そうな視線を向けてきた。 「ネメシス……どうしたの?」  シーマの問いかけも、今のネメシスにはほとんど聞こえていない。  先ほどから男性の声が直接脳内に響き渡り、頭が痛くなってきた。 「うう……」  やがて、体内から力が込み上げてくる感覚に襲われた。  凄まじい力が全身に満ちていく。 「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉおぉぉ!!」  訳も分からずに叫んだ。  何が起こったのか、ネメシス自身にも分からない。  雄叫びを上げると共に、ネメシスは岩陰から飛び出し、駆け出した。  慌てて止めようとするガーランド達を無視して、ネメシスはブラッドソードの団員達に襲いかかる。  いきなり大声で叫びながら飛び出してきたネメシスに、一瞬だけ怯む団員達。  その隙に、ネメシスは拳を振るった。  一呼吸する間に、左右の拳が高速で交互に突き出され、二人の団員が殴り倒される。  続けて全身を反転させ、遠心力も加えて裏拳を放ち、背後から襲いかかろうとした団員を殴り倒す。  一瞬で三人も殴り倒され、驚愕する団員達。  長い鎖を構え、投げつける者達もいた。  鎖でネメシスは両手両足を縛り上げられ、動きが止まる。  団員達は一斉に鎖を引き、ネメシスを引き千切ろうとした。  しかしネメシスは微動だにせず力を込め、全ての鎖を引き千切った。  人間の力では考えられない行為だ。 「なっ……」  戦慄しながらも、別の武器を構えて襲いかかる団員達。  ネメシスは高速で彼らの間をすり抜けながら、拳を全員のみぞおちに次々と叩き込んだ。  恐るべき早業だ。  防御も回避もできず、団員達は地面に倒れ込んでいく。  十分ほど経過する頃には、全ての団員が殴り倒され、地面に横たわっていた。  一人も死んではいない。  腕や足、肋骨が折れている者は何人もいるが、誰も命に別状はない。  信じられない光景だった。  団員達にとって、だけではない。  ガーランドにとっても、シーマにとっても。  そして、ネメシス本人にとっても、だ。 「何だ……何なんだ、これは……」  ネメシスは周囲を見渡し、震えながら言った。  ブラッドソードの団員三十人を、単独で生かさず殺さず叩きのめすなど、ガーランドにも不可能だ。  その不可能なことを、自分は簡単に実行した。  おかしい。  おかし過ぎる。  一体自分の肉体に何が起こったのだろうか。  明らかに普通ではない。  鋼鉄の鎖の束を力任せに引き千切るなど、人間には不可能のはず。  それほどの怪力を発揮していながら、ネメシスの肉体に少しも損傷がないこともおかしい。 「俺は……一体……」  ネメシスは呟きつつ、ガーランド達の所へ戻ろうとした。  だが、そこで彼は力を失い、倒れ込んだ。  目の前が真っ暗になり、全身が動かなくなったのだ。 「な……何が……」  呟きながら、ネメシスは目を閉じた。  誰かに名前を呼ばれた気がしたが、返事をする力は残っていなかった。  第二話 終了  第三話へ  トップページへ
「こっちだ」  

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