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帝都ヴェリテの都市圏の外、小高い丘に霊園が存在する。 そのとある墓の前で手を合わせ、故人を偲ぶ人が一人。彼の名をギョーム・オライリーという。空軍大尉だ。 彼の妻は実家に里帰りした帰りの空路、乗っていた飛空艇が空賊に襲われて撃沈し、帰らぬ人となった。そうしてこの霊園の墓に葬られているのだ。 「…いよいよだ」 あれからしばらく時が経った。彼はただひたすら軍人としての職務に専念した。事前の調査では徹底した執念で空賊を追い、一度交戦するとなれば土地勘のある空賊相手にすら一枚上手を行く彼は、やがて軍の中で空賊狩りの人として知られるようになったが、彼にとってはそれはどうでもよかった。 彼にとって何よりも重要なのは、あの空賊団のアジトがついに発見されたということだ。 彼は復讐のため、ひたすらに空賊を撃滅してきた。しかしそれらは真の敵ではなかった。本当の仇は、まさに次の作戦で撃滅せんとしている空賊団だ。 そんな思いをぼんやりと考えていると、しかしどこかで彼女が少し困った顔をした気がした。 そうだろう、復讐に狂った夫の姿など、彼女は望んでいないのかもしれない。しかし、復讐を終えることなしには彼にはどこに行くこともできないのだ。 …復讐を終えれば、どこかへ行けるのか?いや…それを深く考えることすら、今は出来ないのだ。 必ずや奴らを討たねばならない。 ただ、それだけだ。 何日か後のこと。 「…終わったよ」 ギョーム・オライリーは自らの頭の上にあった帽子を墓の上に乗せる。その肩にかかる階級章は彼が少佐であることを示している。 完全勝利だった。空賊船は一隻も逃がさず徹底的に殲滅され、アジトに残っていた構成員は全員逮捕。 それを思い返しながらも墓前に花を手向けて手を合わせ、一通り彼女の慰霊を祈った彼は、つぶやくように語り掛ける。 「教えてくれ、私はこの後、一体何をすれば良い?私は一体何のために生きれば良い?」 そうすると、ふっと一陣の風が吹き、墓の上に置いた帽子が宙に舞い上がる。 飛んでいく前につかもうと彼が手を伸ばそうとした一瞬、風が止み、そうして帽子はあるべき場所に―オライリーの頭上に戻ってきた。 「…そうか。これが、君の答えだというのか」 なんという不合理。くだらない…世俗的な軍人である彼の思考は一瞬そう否定しようとしたが、彼はすぐにそういうことを考えるのはやめた。 姿勢を正し、墓に向かって敬礼。 「ギョーム・オライリー大尉改め少佐、引き続き精進してまいります」 遠くで、妻が少し笑っているような気がした。 それだけで、彼には充分だったのだ。
帝都ヴェリテの都市圏の外、小高い丘に霊園が存在する。 そのとある墓の前で手を合わせ、故人を偲ぶ人が一人。彼の名をギョーム・オライリーという。空軍大尉だ。 彼の妻は実家に里帰りした帰りの空路、乗っていた飛空艇が空賊に襲われて撃沈し、帰らぬ人となった。そうしてこの霊園の墓に葬られているのだ。 「…いよいよだ」 あれからしばらく時が経った。彼はただひたすら軍人としての職務に専念した。事前の調査では徹底した執念で空賊を追い、一度交戦するとなれば土地勘のある空賊相手にすら一枚上手を行く彼は、やがて軍の中で空賊狩りの人として知られるようになったが、彼にとってはそれはどうでもよかった。 彼にとって何よりも重要なのは、あの空賊団のアジトがついに発見されたということだ。 彼は復讐のため、ひたすらに空賊を撃滅してきた。しかしそれらは真の敵ではなかった。本当の仇は、まさに次の作戦で撃滅せんとしている空賊団だ。 そんな思いをぼんやりと考えていると、しかしどこかで彼女が少し困った顔をした気がした。 そうだろう、復讐に狂った夫の姿など、彼女は望んでいないのかもしれない。しかし、復讐を終えることなしには彼にはどこに行くこともできないのだ。 …復讐を終えれば、どこかへ行けるのか?いや…それを深く考えることすら、今は出来ないのだ。 必ずや奴らを討たねばならない。 ただ、それだけだ。 何日か後のこと。 「…終わったよ」 ギョーム・オライリーは自らの頭の上にあった帽子を墓の上に乗せる。その肩にかかる階級章は彼が少佐であることを示している。 完全勝利だった。空賊船は一隻も逃がさず徹底的に殲滅され、アジトに残っていた構成員は全員逮捕。 それを思い返しながらも墓前に花を手向けて手を合わせ、一通り彼女の慰霊を祈った彼は、つぶやくように語り掛ける。 「教えてくれ、カタリナ。私はこの後、一体何をすれば良い?私は一体何のために生きれば良い?」 そうすると、ふっと一陣の風が吹き、墓の上に置いた帽子が宙に舞い上がる。 飛んでいく前につかもうと彼が手を伸ばそうとした一瞬、風が止み、そうして帽子はあるべき場所に―オライリーの頭上に戻ってきた。 「…そうか。これが、君の答えだというのか」 なんという不合理。くだらない…世俗的な軍人である彼の思考は一瞬そう否定しようとしたが、彼はすぐにそういうことを考えるのはやめた。 姿勢を正し、墓に向かって敬礼。 「ギョーム・オライリー大尉改め少佐、引き続き精進してまいります」 遠くで、妻が少し笑っているような気がした。 それだけで、彼には充分だったのだ。

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