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赤道ツンドラに存在するドーム都市。 かつて、理想郷時代には高温湿潤な気候環境における効率的なエネルギー運用のモデル都市であったそこは、大災厄時にその「効率性」の全てが破綻したことにより廃墟化、以後そのまま放置されていた場所であった。 …今はそうではない。 エデン直轄第3総合サプライ供給プラント。無機質な命名は星の天使ヴァージル・ベルナルドゥスによるコールドスリーププランの特徴だ。 そう改名され、居住用設備も含めた全設備を全て生産設備に改装されたこのプラントは、天使の管理下で物資供給の拠点の一つとなっている。 そう、コールドスリープ中とはいえ、何も消費しないわけではない。経年劣化によって機械は壊れるし、人体の構成物質も損傷する。 コールドスリープ前に比べれば遥かに消費物質量が低下するとはいえ、それらを回復するための物資は必要であった。 この2500年間、生産計画はヴァージルの予測よりずっとうまく稼動している。単に予測が悲観的なものであるだけであるのだが。 そうして、もし理想郷時代であれば一年、いやもっと短いスパンで消費されるような量であったとしても、この世界に久方ぶりに「備蓄」というものが再び現れてきたのであった。 そんなプラントの整備通路を月の大天使リュンヌが行く。 完全無人化されたプラントであるから、保守の必要性はほとんどない。 物資を必要なときに取りにいき、プラントのメンテナンスは一年に一回チェックするような使い方で充分だとヴァージルは言う。 更に言えば、メインコントロールパネルは物資搬出口と直結しているから、内部に見に行く必要はまるでない。 整備通路の中に入っていく必要があるのは、コントロールが何らかの警告を発したときだけで、そのような事態は今日までついぞなかった。 それでもこの整備通路をリュンヌが行くのは、物資を取りに来た際、あることに気付いたからだった。 「ああ、いたいた。リグレット」 整備通路の行き止まり。 霊子工学区画の片隅で、リュンヌは予想していた通りの人物に出会った。 「ここのプラントから、各コールドスリープセンターやライブラリーの記憶媒体の予備部品が生産されているんですね」 呼びかけが聞こえているのかいないのか、リグレットは呟く。 そうしてこちらに気付いたのか最初から気付いていたのか振り向き、返事を返してくる。 「…リュンヌ様。お久しぶりです」 リグレット・ミィル・シンドレッテ。月と優雅の天使。元堕天使の、美しい、けれども自我薄弱な天使。 稼働中はプラン全体の責任者として自ら様々なタスクをこなすヴァージルも、友人として彼女を気にはかけているようで、合間を縫っては彼女の話を聞いたりしていた。 「我らが策士さんは、例の場所に?」 「はい。オディールの言うには、既にいつ起きてもおかしくはない、と」 「なるほど」 リグレットはその場でくるりと一回りしながら、巨大なプラントの全体を見渡し、言った。 「このシステムを作ってから、もう2500年も経っているなんて」 その時リグレットの頭の中にあった感情は懐古か、追憶か、懺悔か、悲観か、無力感か。リュンヌにはどれも 「ヴァージルは言っていました。これ以上悪くなることはないって。私はそれを聞いて、とても嬉しかった。もう悲しまなければならないことも、後悔しなければならないこともないんだって。ただ待っているだけでいいんだって。…でも」 「でも?」 「待っているのが最善、というのも、辛いものなんだなって」 「何かせずにはいられない、というのは、わかるけれども」 「…でも、ヴァージルのプランに予定されている以外のことで、できることは何もない」 惑星環境の回復は大崩壊と同等の劇的な変動を意味する。 その後にもたらされるのが広大な人類の可住域であろうとも、一時的なカタストロフであることに変わりはない。 現在ある生産プラントも当然そういった激変を被ることになるから、回復が近づけば解体して資材にして運び出すことになる。 そこからの回復は宇宙植民に近い挑戦になるだろう。 コールドスリーププラントはどんな場合であれその影響が最小限に抑えられる場所にしてある。 高緯度の、本来言うところのツンドラだ。 そして、その付近は環境回復後の最初のコロニーということになるだろう。 が、環境が安定しているということは、回復後には惑星上で最も生産力の低い地域の一つであるということ。 次のステップのコロニーは、回復した世界の温帯に、ずっと立派な都市を、ということになる。 …結局、プラン以上に施設を整備しようと、過剰な備蓄を積み上げようと、無駄。 「できることを全てして、しても無駄なことはしない」という、実にヴァージルらしいプランだ。 けれども、リグレットは、元々感受性の高い「月」と「優雅」という組み合わせの天使の中でも、群を抜いて内省的で情緒的な天使だ。その性質の強さは全ての天使の中でも一二を争うだろう。 恐らく、これについてヴァージルは諦めているのだろう、彼女にはこの大崩壊後の世界で辛い思いをせずにいることはできないと。 そして、その間彼女だけを眠りに就かせて過ごすというようなことをする理由は、ついぞ見つけられなかった、理由なしの行動はヴァージル自身にも耐えられず、また、そうしたならばリグレットは後で苦しまなければならない、と。 …けれども、 「…行かなきゃ。次の見回りの予定時刻に遅れる。こういうのも、仕事をしていれば忘れられるし。それに、こうしてお話をしているだけでも、少し楽になった。ありがとう、リュンヌ様」 微笑むリグレットをリュンヌは手を振って送る。 そうして整備通路の出入り口に消えていったリグレットを見届けた後、リュンヌは呟いた。 (ヴァージルは灼熱の地獄を消して、ぬるま湯に変えてくれたけれど、それでもここは終わりの見えない永遠の煉獄。もう誰も死ななくていいし、滅びなくていい場所、私たち天使にとって楽園であっても、多分、彼女と、………彼にとっては、永遠の煉獄。…これを終わらせられるのは、多分みゅーちゃんだけ、なんだろうなあ) *背景設定案断章 (コメントアウト参照) #co(){ 「」 生産プラントも赤道ツンドラよりは極地のほうがいいか? リグレットはペイシェンス個人に対しては特に思うところないだろうが、そうであれ、この状況下では同僚の天使がどのようにしているかは気になるだろう。守るべき人類が眠りについていれば、互い 棺桶であるか箱舟であるかは重要な問題ではない。何かを保存していることは、どちらも同じだ。 持たないものに意味はない 起こる確率が低いのは、シミュレーションから明らかだ。 しかし、どの見積もりもゼロではない。 起こる確率の低い事象は、無限の時間を与えられたとき、必ず起こる。 あとは、天使の精神が無限の時間に耐えられるか、人間の肉体が無限の時間に耐えられるか、それだけだ。 (リグレットと彼女の周囲のキャラ(フローラ・ヴァージル・リュンヌあたり)を通じて安眠の時代の天使たちを描こうと思ったけど、とりあえず書きかけ) }
赤道ツンドラに存在するドーム都市。 かつて、理想郷時代には高温湿潤な気候環境における効率的なエネルギー運用のモデル都市であったそこは、大災厄時にその「効率性」の全てが破綻したことにより廃墟化、以後そのまま放置されていた場所であった。 …今はそうではない。 エデン直轄第3総合サプライ供給プラント。無機質な命名は星の天使ヴァージル・ベルナルドゥスによるコールドスリーププランの特徴だ。 そう改名され、居住用設備も含めた全設備を全て生産設備に改装されたこのプラントは、天使の管理下で物資供給の拠点の一つとなっている。 そう、コールドスリープ中とはいえ、何も消費しないわけではない。経年劣化によって機械は壊れるし、人体の構成物質も損傷する。 コールドスリープ前に比べれば遥かに消費物質量が低下するとはいえ、それらを回復するための物資は必要であった。 この2500年間、生産計画はヴァージルの予測よりずっとうまく稼動している。単に予測が悲観的なものであるだけであるのだが。 そうして、もし理想郷時代であれば一年、いやもっと短いスパンで消費されるような量であったとしても、この世界に久方ぶりに「備蓄」というものが再び現れてきたのであった。 そんなプラントの整備通路を月の大天使リュンヌが行く。 完全無人化されたプラントであるから、保守の必要性はほとんどない。 物資を必要なときに取りにいき、プラントのメンテナンスは一年に一回チェックするような使い方で充分だとヴァージルは言う。 更に言えば、メインコントロールパネルは物資搬出口と直結しているから、内部に見に行く必要はまるでない。 整備通路の中に入っていく必要があるのは、コントロールが何らかの警告を発したときだけで、そのような事態は今日までついぞなかった。 それでもこの整備通路をリュンヌが行くのは、物資を取りに来た際、あることに気付いたからだった。 「ああ、いたいた。リグレット」 整備通路の行き止まり。 霊子工学区画の片隅で、リュンヌは予想していた通りの人物に出会った。 「ここのプラントから、各コールドスリープセンターやライブラリーの記憶媒体の予備部品が生産されているんですね」 呼びかけが聞こえているのかいないのか、リグレットは呟く。 そうしてこちらに気付いたのか最初から気付いていたのか振り向き、返事を返してくる。 「…リュンヌ様。お久しぶりです」 リグレット・ミィル・シンドレッテ。月と優雅の天使。元堕天使の、美しい、けれども自我薄弱な天使。 稼働中はプラン全体の責任者として自ら様々なタスクをこなすヴァージルも、友人として彼女を気にはかけているようで、合間を縫っては彼女の話を聞いたりしていた。 「我らが策士さんは、例の場所に?」 「はい。オディールの言うには、既にいつ起きてもおかしくはない、と」 「なるほど」 リグレットはその場でくるりと一回りしながら、巨大なプラントの全体を見渡し、言った。 「このシステムを作ってから、もう2500年も経っているなんて」 その時リグレットの頭の中にあった感情は懐古か、追憶か、懺悔か、悲観か、無力感か。 「ヴァージルは言っていました。これ以上悪くなることはないって。私はそれを聞いて、とても嬉しかった。もう悲しまなければならないことも、後悔しなければならないこともないんだって。ただ待っているだけでいいんだって。…でも」 「でも?」 「待っているのが最善、というのも、辛いものなんだなって」 「何かせずにはいられない、というのは、わかるけれども」 「…でも、ヴァージルのプランに予定されている以外のことで、できることは何もない」 惑星環境の回復は大崩壊と同等の劇的な変動を意味する。 その後にもたらされるのが広大な人類の可住域であろうとも、一時的なカタストロフであることに変わりはない。 現在ある生産プラントも当然そういった激変を被ることになるから、回復が近づけば解体して資材にして運び出すことになる。 そこからの回復は宇宙植民に近い挑戦になるだろう。 コールドスリーププラントはどんな場合であれその影響が最小限に抑えられる場所にしてある。 高緯度の、本来言うところのツンドラだ。 そして、その付近は環境回復後の最初のコロニーということになるだろう。 が、環境が安定しているということは、回復後には惑星上で最も生産力の低い地域の一つであるということ。 次のステップのコロニーは、回復した世界の温帯に、ずっと立派な都市を、ということになる。 …結局、プラン以上に施設を整備しようと、過剰な備蓄を積み上げようと、無駄。 「できることを全てして、しても無駄なことはしない」という、実にヴァージルらしいプランだ。 けれども、リグレットは、元々感受性の高い「月」と「優雅」という組み合わせの天使の中でも、群を抜いて内省的で情緒的な天使だ。その性質の強さは全ての天使の中でも一二を争うだろう。 恐らく、これについてヴァージルは諦めているのだろう、彼女にはこの大崩壊後の世界で辛い思いをせずにいることはできないと。 そして、その間彼女だけを眠りに就かせて過ごすというようなことをする理由は、ついぞ見つけられなかった、理由なしの行動はヴァージル自身にも耐えられず、また、そうしたならばリグレットは後で苦しまなければならない、と。 …けれども、 「…行かなきゃ。次の見回りの予定時刻に遅れる。こういうのも、仕事をしていれば忘れられるし。それに、こうしてお話をしているだけでも、少し楽になった。ありがとう、リュンヌ様」 微笑むリグレットをリュンヌは手を振って送る。 そうして整備通路の出入り口に消えていったリグレットを見届けた後、リュンヌは呟いた。 (ヴァージルは灼熱の地獄を消して、ぬるま湯に変えてくれたけれど、それでもここは終わりの見えない永遠の煉獄。もう誰も死ななくていいし、滅びなくていい場所、私たち天使にとって楽園であっても、多分、彼女と、………彼にとっては、永遠の煉獄。…これを終わらせられるのは、多分みゅーちゃんだけ、なんだろうなあ) *背景設定案断章 (コメントアウト参照) #co(){ 「」 生産プラントも赤道ツンドラよりは極地のほうがいいか? リグレットはペイシェンス個人に対しては特に思うところないだろうが、そうであれ、この状況下では同僚の天使がどのようにしているかは気になるだろう。守るべき人類が眠りについていれば、互い 棺桶であるか箱舟であるかは重要な問題ではない。何かを保存していることは、どちらも同じだ。 持たないものに意味はない 起こる確率が低いのは、シミュレーションから明らかだ。 しかし、どの見積もりもゼロではない。 起こる確率の低い事象は、無限の時間を与えられたとき、必ず起こる。 あとは、天使の精神が無限の時間に耐えられるか、人間の肉体が無限の時間に耐えられるか、それだけだ。 (リグレットと彼女の周囲のキャラ(フローラ・ヴァージル・リュンヌあたり)を通じて安眠の時代の天使たちを描こうと思ったけど、とりあえず書きかけ) }

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