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*我らが主を呼びに ([[モーリス老あとがき>light novel/異伝記録/やど箱]]の数時間後) どこであるのかも、いつのことであるのかも分からない場所。 狭間の世界の一つ、アンゼロット記念大学。 その主だった施設は集中して存在しているが、少し離れた高台に離れのようなものが存在する。 「マスター」 その扉を叩く者が一人。 それに答えて、中から人が現れる。 「待たせましたね、ミリティー。…ユーシスは何と?」 「記念碑石の断片の解析結果は、予想通りに。なお、モーリスのいた世界自体はその後、管理者を失い、不安定化したようです」 「そうですか」 アンゼロットはそのまま扉を閉め、ミリティーと共に離れの小屋を後にする。 離れの周りは高地特有の高山植物の群生地で、花の混じった草原が広がる。 アンゼロットとミリティーはそのお花畑を静かに歩く。 ここは、プランクの中央高地の写し画。彼女が千年を過ごした世界だ。 と、本館のほうから駆けてくる女性が一人。アンゼロットはそれを見て呼びかける。 「どうかしましたか、テレーズ?」 「やはりこちらでしたか、アンゼロットさま、ミリティーさま」 「マスターを迎えに離れに行くとフィリオリには伝えておいたはずですが…」 「えっと、モーリスが持ち帰った食材を使って色々試しているんですが、そのフィリオリがいろいろ試食させられすぎてダウンしているみたいで。ただ料理自体は美味しいので、アンゼロットさまとミリティーさまにも手伝っていただければと」 「いいですよ。ね、ミリティー」 「はい、それは構わないのですが…」 「ユーシスも呼んできましょう。そろそろ解析も自動システム任せにできるころでしょう」 そうして三人はまた、本館に向かって歩き出す。 これが擬天使の日常。何もない静かな日々だ。 *暇つぶしのお話 アンゼロット記念大学本館。 その一室に食堂がある。 モーリス「…少々作りすぎましたかな」 アンゼロット「構いませんよ、モーリス。余った分は時間凍結しておきますから」 実際、時間の流れを遅くするくらいのことならそれほど難しいことではない。 フィリオリ「それより、ユーシスはまだなんですか?」 アンゼロット「ちょうど行ったときに面白い解析結果が出ましてね。ちょっと追加のシミュレーションを頼んでありまして」 モーリス「わしのデータを使った、アレか」 ミリティー「なかなか興味深いものでしたよ。ヤーディシアという世界の在り様を規定するものがうかがい知れますね」 テレーズ「…とはいえ、そのユーシスが来ないことには晩餐も始められんのだが…」 モーリス「長命種が、細かい時間のことを気にするとはのう?」 アンゼロット「時間に対する正確さは、近代人の特性ですから。テレーズが実業家なのも、そのあたりに成功の鍵があるんでしょう」 フィリオリ「出版業者なんだから、作家を待ってあげることも多いんじゃないですか?」 テレーズ「だからといっていつまでも出版を遅らせることはできん。出版物にも旬があるのだ。…だいたい、モーリスとてレストラン経営者であろう」 モーリス「わしはファストフードを営んでいるつもりなどないのう。少しはお待ちいただいたほうが、味わうときの楽しみもひとしおじゃ」 アンゼロット「…そういいつつも、割と時間に正確で勤勉ですよね、モーリスは」 テレーズ「そもそも、長命種だからと言って時間にルーズであるという相関などあるまい。それこそ、時間に正確な人間というのも、近代人固有のものだというなら、それはステレオタイプだ」 ミリティー「自らの存在のスケールと違いすぎるところを生きるのは難しいでしょう。生まれては死んでいくことは、個々の存在が不適応に晒されるリスクをずっと軽減するシステムでもありますから」 アンゼロット「例えば、天使が大崩壊で黒天使となったように?」 ミリティー「そうですね、あれは一番分かりやすい例です。カタストロフに直面するリスクは、時間に比例します。自らが依存する系の安定性が、どの程度局所的なのか、ですね」 テレーズ「アンゼロットさまの言うことも重要だと思うが、それは、適宜忘却する、ということの必要性、ということでもあるのか?」 ミリティー「そうでもあります」 テレーズ「だが、待ってくれ、我々擬天使は少なくとも意味記憶についてはほとんど忘却しないぞ」 ミリティー「学問の門の使徒ですからね。学問の門は、忘却を許容するものではありません」 アンゼロット「ミリティアは夢魔でもありますから、そのあたりは客観視できるでしょうね」 ミリティー「そうは言っても私も擬天使、どこまでかできているかは分かりませんが…しかし、忘れていたほうが幸せ、というのはあります。正確な認識が幸福をもたらすとは限りません」 アンゼロット「しかし、擬天使を作るにあたってはまずは学問の門のやり方に従いましたから、かならずしも幸福に向かっていく方向にはありませんけどね」 モーリス「確かに我々擬天使は自然的な存在ではないのですから、自然的でない性質を持たせても何も問題はありますまい。しかしアンゼロットさまとミリティーさまはそうではないのですから、そういうわけにはいきますまい」 テレーズ「ん?待て、自然的…とは何だ。自然なものと自然でないものがあるのか?」 アンゼロット「その問題は後にしましょう。問題は、私とミリティーはどうなのか、ということですね」 ユーシス「存在に目的などないさ。目的を持つことができるのは、思考する存在が為した行為についてのみだ」 唐突にユーシスが会話に入ってくる。報告書を手に携えているが、それよりは会話の内容に関心を持っているようだ。 テレーズ「遅かったな、ユーシス。しかし、そうか…」 アンゼロット「ユーシスの言うことにも一理あります。そして、そうなれば人為と自然を分ける方法もありえましょう」 アーナルダ「多くの世界に管理者や保護者がいると知っている我々がそれを言うのも何だがな…」 フィリオリ「ですが、ジャスリー・クラルヴェルンのいた世界に管理者はいなかったのでは?」 アンゼロット「どうなんでしょうね。
*我らが主を呼びに ([[モーリス老あとがき>light novel/異伝記録/やど箱]]の数時間後) どこであるのかも、いつのことであるのかも分からない場所。 狭間の世界の一つ、アンゼロット記念大学。 その主だった施設は集中して存在しているが、少し離れた高台に離れのようなものが存在する。 「マスター」 その扉を叩く者が一人。 それに答えて、中から人が現れる。 「待たせましたね、ミリティー。…ユーシスは何と?」 「記念碑石の断片の解析結果は、予想通りに。なお、モーリスのいた世界自体はその後、管理者を失い、不安定化したようです」 「そうですか」 アンゼロットはそのままミリティーと共に離れの小屋を後にする。 離れの周りは花の混じった草原が広がる高地特有の高山植物の群生地。 彼女が千年を過ごした世界、プランクの中央高地の写し画の中を二人は歩く。 と、本館のほうから駆けてくる女性にアンゼロットは気づく。 「どうかしましたか、テレーズ?」 「やはりこちらでしたか、アンゼロットさま、ミリティーさま」 「マスターを迎えに離れに行くとフィリオリには伝えておいたはずですが…」 「えっと、モーリスが持ち帰った食材を使って色々試しているんですが、そのフィリオリがいろいろ試食させられすぎてもう限界だと。ただ料理自体は美味しいので、アンゼロットさまとミリティーさまにも手伝っていただければと」 「いいですよ。ね、ミリティー」 「はい、それは構わないのですが…」 「ユーシスも呼んできましょう。そろそろ解析も自動システム任せにできるころでしょう」 そうして三人はまた、本館に向かって歩き出す。 これが擬天使の日常。何もない静かな日々だ。 *暇つぶしのお話 アンゼロット記念大学本館。 その一室に食堂がある。 モーリス「…少々作りすぎましたかな」 アンゼロット「構いませんよ、モーリス。余った分は時間凍結しておきますから」 実際、時間の流れを遅くするくらいのことならそれほど難しいことではない。 フィリオリ「それより、ユーシスはまだなんですか?」 アンゼロット「ちょうど行ったときに面白い解析結果が出ましてね。ちょっと追加のシミュレーションを頼んでありまして」 モーリス「わしのデータを使った、アレか」 ミリティー「なかなか興味深いものでしたよ。ヤーディシアという世界の在り様を規定するものがうかがい知れますね」 テレーズ「…とはいえ、そのユーシスが来ないことには晩餐も始められんのだが…」 モーリス「長命種が、細かい時間のことを気にするとはのう?」 アンゼロット「時間に対する正確さは、近代人の特性ですから。テレーズが実業家なのも、そのあたりに成功の鍵があるんでしょう」 フィリオリ「出版業者なんだから、作家を待ってあげることも多いんじゃないですか?」 テレーズ「だからといっていつまでも出版を遅らせることはできん。出版物にも旬があるのだ。…だいたい、モーリスとてレストラン経営者であろう」 モーリス「わしはファストフードを営んでいるつもりなどないのう。少しはお待ちいただいたほうが、味わうときの楽しみもひとしおじゃ」 アンゼロット「…そういいつつも、割と時間に正確で勤勉ですよね、モーリスは」 テレーズ「そもそも、長命種だからと言って時間にルーズであるという相関などあるまい。それこそ、時間に正確な人間というのも、近代人固有のものだというなら、それはステレオタイプだ」 ミリティー「自らの存在のスケールと違いすぎるところを生きるのは難しいでしょう。生まれては死んでいくことは、個々の存在が不適応に晒されるリスクをずっと軽減するシステムでもありますから」 アンゼロット「例えば、天使が大崩壊で黒天使となったように?」 ミリティー「そうですね、あれは一番分かりやすい例です。カタストロフに直面するリスクは、時間に比例します。自らが依存する系の安定性が、どの程度局所的なのか、ですね」 テレーズ「アンゼロットさまの言うことも重要だと思うが、それは、適宜忘却する、ということの必要性、ということでもあるのか?」 ミリティー「そうでもあります」 テレーズ「だが、待ってくれ、我々擬天使は少なくとも意味記憶についてはほとんど忘却しないぞ」 ミリティー「学問の門の使徒ですからね。学問の門は、忘却を許容するものではありません」 アンゼロット「ミリティアは夢魔でもありますから、そのあたりは客観視できるでしょうね」 ミリティー「そうは言っても私も擬天使、どこまでかできているかは分かりませんが…しかし、忘れていたほうが幸せ、というのはあります。正確な認識が幸福をもたらすとは限りません」 アンゼロット「しかし、擬天使を作るにあたってはまずは学問の門のやり方に従いましたから、かならずしも幸福に向かっていく方向にはありませんけどね」 モーリス「確かに我々擬天使は自然的な存在ではないのですから、自然的でない性質を持たせても何も問題はありますまい。しかしアンゼロットさまとミリティーさまはそうではないのですから、そういうわけにはいきますまい」 テレーズ「ん?待て、自然的…とは何だ。自然なものと自然でないものがあるのか?」 アンゼロット「その問題は後にしましょう。問題は、私とミリティーはどうなのか、ということですね」 ユーシス「存在に目的などないさ。目的を持つことができるのは、思考する存在が為した行為についてのみだ」 唐突にユーシスが会話に入ってくる。報告書を手に携えているが、それよりは会話の内容に関心を持っているようだ。 テレーズ「遅かったな、ユーシス。しかし、そうか…」 アンゼロット「ユーシスの言うことにも一理あります。そして、そうなれば人為と自然を分ける方法もありえましょう」 アーナルダ「多くの世界に管理者や保護者がいると知っている我々がそれを言うのも何だがな…」 フィリオリ「ですが、ジャスリー・クラルヴェルンのいた世界に管理者はいなかったのでは?」 アンゼロット「どうなんでしょうね。

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