light novel > ミュリエル・フォールンドリームの困惑

(書きかけ)
凍てつく北国の12月の寒空の下、ミュリエル・ロレーヌ・フォン・クラウローテ・フォールンドリームは一つの問題と、それについての今後の身の振り方について考えていた。
玲連邦の共同鎖国に伴う、クレイオ連邦の外交活動停止。

上の空でエイル市街を歩いていると、アッシュブロンドの少女に話しかけられてくる。
「失礼」
一瞬、ミュリエルの耳はそれを自分に対する呼びかけだとは認識しなかった。それどころか、それが自分の母語である古アストラル語であるとすら思えなかったのだ。
…訛りの一切感じられない、純粋なフィンブル人の話すのに等しい流暢な古アストラル語。
フィエルラント大学外国語学部の古アストラル語講座で手伝いをしている時に聞くたどたどしい古アストラル語とは次元の違う、一寸の曇りもない完璧な発音。
「…誰?」
「ミリティア・ロートと申します。ミュリエル・フォールンドリーム殿下」
「ミリティアさん…ね。確かに私はミュリエル・ロレーヌ・フォン・クラウローテ・フォールンドリームですが。何の用ですか?」
「用があるのは私達ではなくあなたですよ。ミュリエル殿下」
「…それはどういうこと?」
それに対し返してきたのは、アッシュブロンドの少女ではなく、その後ろにいた白金の髪の少女だった。
「夢魔と学問と星月の門に祝福された、ですか…。本当にそういうのってあるんですね。ま、ここで話すことではありません。場所を移しましょう」
こちらの少女の古アストラル語は若干リルタニア訛りの入っているが、まあ大学の古アストラル語の授業では十二分に及第点の評価を受けることができるだろう。

「さて」
「…リルタニア語でいいわ。そっちのほうが話しやすいでしょう」
「うーん、一朝一夕で会話を習っても使い物にならないでしょうかね、やはり…」
少女のリルタニア語はヌーベルタレーオナ語やフラティーク・リルタニアン(フラトに入植して数代目の話すようなリルタニア語)ではなかった。典型的なリルタニア本国のアッパーミドル層の発音だ。
服装はシンプルなドレス。今のリルタニア人少女の装いとしてはかなり古風だろう。リルタニアの女子校の女子学生に聞けば、多分「時代遅れとかいうレベルではない」と言われるだろう。
「一朝一夕でそのレベルならかなりのものだと思いますけどね。出身はどちら?」
「家はフラトの中央高原にありますよ」
「…それで、その」
「ああ、ミュリエル殿下は言語とか文化が専門でしたっけね。ええ、察しの通り、リルタニア諸島本土の出身ですよ」
フラト中央高原に住む、リルタニア本土のアッパーミドル出身の銀髪の少女。ミュリエルはカイバーの地理には明るくなかったが、その通りの人物を一人だけ知っている。ただ…その人は半世紀以上昔にあの核大戦の中心人物として死に、仮に生きていてもとうに八十近くになるはずだ。