light novel > Permafrost > ヴァージル・ベルナルドゥスの独白

(私案)

V.C.4600年、凍てつく惑星、ヴァレフォール。そのとある地下都市の一室。
広い冷暗な部屋に、棺のようなものが無数に並ぶ。半透明なその棺の中は液体で満たされ、その液体の中で人間たちが昏々と眠る。
ヴァージル・ベルナルドゥスはそれらの棺全てと繋がれたコントロールパネルの前に座り、一つのエラーも生じないように、そのいかなる予兆も発見して先回りして対処するためモニターを監視する。他の部屋に、あるいは他の都市跡地にある棺のシステムから来るデータにも注意を欠かさない。そうすることが現在の彼女に与えられた義務だからだ。
…いや、それは嘘だ。星の天使としてこの棺―冷凍睡眠維持装置―のシステムの開発に携わった彼女は、十重二十重の多重化がなされたこのシステムのどの場所にエラーが一つ二つ起きたところで然したる問題はないと知っている。
それでもそうするのは、他の天使たちにそうするよう求めた立場からだ。与えられたこの義務を与えたのはほかならぬ彼女自身なのだ。

生きたまま惑星の環境が回復するときまで人類の文明を紡ぐこと。
多くの天使の最大の望みだったそれを、しかし、彼女は内心では不可能だと理解していた。
太陽活動の回復。温室効果の増大。あるいは熱源の増加…惑星環境の回復に必要なそれらが起こる確率は、そのいずれも文字通り天文学的に低い…奇跡に近い。
彼女は奇跡を待つことを否定はしない。しかしそこまで待つことは、天使にとってはともかく人類にはとても酷だと理解はしていた。
無論、天使は当然それができなければならない。だから黒天使になる気はさらさらなかった。それは義務からの逃避だからだ。しかし定命の人間にそれを求めるのは傲慢だ。
そんなことを考えていた彼女はある日、エデンの天使たちに『最後通告』を出した。それによって天使たちの意思は速やかに固まり、やがて人類はそれに同意した。
『人類の意思決定の期間を考えると、もはや猶予はない。これ以上全人類コールドスリープ入りの準備開始を遅らせた場合、その準備ができる前に更にいくつかの都市が全滅し、コールドスリープ入りする人類の数が遺伝的多様性の許容水準を下回る。もはや人類と天使は速やかに全人類コールドスリープ入りの準備に総力を集中すべし』
そうして、人類たちは永い眠りに入り、いまのこの状況がある。
無論、遺伝子バンクのようなものはずっと前から稼働して存在していた。最悪、ここにいる人類が滅亡しても、やがてそこから立て直させることはできた。少なくとも、自分には。
…そう、もしも天使が世界に自分一人なら。でも、ここではそうではない。
天使は人類を庇護するために存在する。
黒天使たちも、この世界がもはや人類にとって暮らす価値のないものと断じてしまったためにああしたのだ―目的と手段、理想と現実との果てしない倒錯によって得られたあの結論に、彼女は価値を見出さないが、その論理展開は理解できる。
黒天使たちがあのような倒錯的な結論に固執し、なぜ実行したのか、それは単純なことだ。天使の目的、本当に書き換え不可能な、あらゆる思考の前提として、人類の庇護者としての役割はアプリオリな、所与のものとして存在するからだ。
そう、『天使なしでも(無論、惑星環境が好適なものでさえあれば、なのではあるが)人類は存在することができる。しかし、天使は人類なくして存在することができない。』
天使の共同体の破綻を防ぐためには、例えそれが終わりの見えない眠りについていようと、『生きている』人類の姿を、再び目覚めることを願って眠りについた人類の姿を常に他の天使たちに見せ続けなければならない。
そうして、天使たちに『コールドスリープ中の人類を一人たりとも脱落させない』という目的を与えることで、眠り続ける世界の眠りを平静なものに維持することができるのだ。