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*SS第01話「ショッピング・ブギ」 「うん、そう。駅前にあるあそこ、そこで待ち合わせね」  あさひが嬉しそうに言って電話を切る。鼻歌を歌いながら二階に行こうとするのをまひるが呼び止めた。 「あさひ、何? 嬉しそうに……あっ、もしかして彼氏だったりして」  ちょっとニヤニヤしながら鎌を掛けるまひる。が、一笑にふされてしまう。 「残念でした、さくらちゃんだよ。明日一緒にお出かけするんだ」 「え…さくら?」 まひるは一瞬きょとんとしたが、すぐに『あー』という顔になる。 「知ってるでしょ? 同じクラスの子だよ。帰国子女だからちょっとズレてるけど」  さくらは、かぐやの家にお世話になっているボウケン星の住人、ピンクの仮の姿だ。社会勉強と称してアリオル学年の一年生として通い、あさひと同じクラスになっている。 「じゃあ、明日早いから寝るね」「うん、おやすみー」  二階へ上がっていくあさひを見送るまひる。さて、自分もクラブ活動で学校へ行かなければならない。卒業式でやる応援エールの練習に励まなくてはならない。 「さて、私も寝るかな……」  うーんと伸びをする。そして、隣で新聞を読んでたオレンジの首根っこを掴むと、まひるは自分の部屋へ向かった。  次の日の朝。天気は快晴。季節柄、まだ風は冷たいが確実に春の日差しになってきている。道路脇の桜も芽が膨らみ、鳥の声が春めいているのが分かる。駅前は人通りが多い。その中で分かりやすい駅前のシンボル的な待ち合わせ場所でさくらと待ち合わせているのだ。  待ち合わせの時間、5分前。あさひは余裕を持って到着する。周囲を見回すがさくらは来ていないようだ。 「まだ5分前だし、ちょっと早く着すぎたかな?」  これがデートだったら、女の子が遅れて来るのが定番よね、などと夢想してしまう。コ○ルト系小説の読み過ぎかな、と反省。  待ち合わせの時間が来たが、さくらの姿は見えない。10分が経過し、20分が経過した。 「待ち合わせ場所、間違えてないよね」  ここまでくると少し心配になってくる。この待ち合わせ場所は、さくら自身が言い出した場所なので、間違えているとは思えない。何か勘違いがあったのか、それとも道に迷っているのか? 携帯電話でもあればすぐに分かるのだが、あさひはまだ携帯電話を買ってもらえていない。 「あさひさーん、ごめんなさーい! 遅れてしまいましたー」 「さくらちゃん、遅いよー」  30分の遅刻だ。いろいろと気を揉んでいたあさひにとって、遅刻することに対してより彼女がちゃんと来てくれたことに対してほっと安心する。 「道に迷ったのかと思っちゃったよ」 「すみません。家を出るときに服装にいろいろと迷ってしまって……」  息を切らしながらさくらが申し訳なさそうに謝る。確かにシンプルながら可愛い服装だ。いつも着けているトレードマークの頭のリボンとも似合っている。 「じゃあ、行こっか」「はい」  二人とも駅前の商店街に向かう。どちらも目的があってのショッピングだ。でもせっかくなので、いろいろな店を見て回る。さくらも初めて見るものが多いらしく、あさひにいろいろと質問したりしている。 「あ、ありました。ここです、フェアリードロップ光が丘支店。雑誌で見ました」  あさひが嬉しそうに指を差す。その先には大きなピンクのリボンの看板が印象的なブティックがある。ブティックなんて縁のないあさひが入るのを躊躇していると、さくらが背中を押す。 「大丈夫です。ここは、中学生みたいな女の子でも似合う服が一杯あるんですよ」 「さくらちゃん、詳しいんだね」 「はい。ここの大ファンなんです」  店内に入ると人気モデルの等身大写真が貼られている。その写真もそのブランドの服を着ている。さくらは、服の並んでいるところに行って次々と見ている。 「これなんか、どうでしょうか?」  いつの間にか、鏡の前で何着もの服を合わせられているあさひ。 「ちょ、ちょっと似合わないよ、私」 「試着するだけなら、問題ないですって。たまに気分を変えてみるのも面白いですよ」  さくらが選んだ服と一緒に試着室に投げ込まれるあさひ。カーテンから顔をそっと出すと、さくらが目の前に仁王立ちになっていて『ちゃんと着て見せるまで許しません』というオーラを発している。仕方が無いので、しぶしぶと着替える。 「ど、どうかなあ…?」  顔を赤くしながらあさひが顔を出す。 「似合いますよ。可愛い」  さくらが絶賛する。振り返って、もう一度鏡を良く見る。服は派手っぽいし胸元に大きくデザインされたリボンが奇抜だが、確かに悪くはない。さくらの見立ては確かなようだ。 「うん、いいかも……」「でしょ?」  戸惑いながらもうなずくあさひにさくらがにっこりと笑いかける。が、服に付いている値札をみて青ざめる。普段買っている服よりは確実に桁が1つ多い 「さ、さくらちゃん。この値段……ちょっと買えない」「?」  さくらは、なぜあさひが戸惑っているのか理解できていないようだ。 「脱いで返すね」 「ちょっと気に入らない点がありました? では、次の服を試してみませんか?」  カーテンを閉めようとすると、さくらが次の服を持って来ようとするので必死に止める。 「もういいから……買えないし」  しばらく考えてからさくらが手を叩く。 「でしたら、私がプレゼントするっていうのはどうですか?」 「プレゼント?」 「そうです。日本では、お世話になっている人に贈り物をする習慣があるって聞きました。だから、お世話になってるあさひさんに私からプレゼントします」 「いいよ、さくらちゃん。中学生には高すぎる買い物ですし」 「そうですか」  さくらがしゅんとした表情をする。 「もっと別の安いもの……ね、ね」  あわててあさひがフォローすると彼女の表情に笑顔が戻る。 「分かりました!」  それから、今度はさくらの買い物に付き合う。いくつか眺めているとパッとその中から試着もせずに選んでいる。 「そんな適当な選び方で大丈夫なの?」  心配になってあさひがそっと聞いた。さくらは、その質問にきっぱりと答える。 「頭の中でシミュレーションはバッチリなんです」  確かに一見雑な選び方をしているようだが、似合わないデザインを選んではいない。きっと彼女は、自分自身がその服を着たときのイメージが頭の中にパッと浮かんでいるのだろう。それでいくつか選んで、一番良い物を選んでいるようだ。 「これとこれとこれに決めました」  数着を店員さんに示すさくら。店員はレジに持っていって、包装してくれる。お金を払って、店を後にする。 「すっごい買い物だね、さくらちゃん」  さっきレジでの支払いの様子を思い浮かべながらびっくりするんです。 「欲しい物はいつまでも手に入るとは限らないんですよ。ごく普通のことが手に入らなくなったりしますから」 「そうなの?」 あさひにその言葉はピンと来ない。普通のもので手に入らないって何だろう? あさひにとって手に入らないと言えば、値段が高かったり、子供だからって理由で買ってもらえなかったりとそんな物しか思い浮かばない。  考え事をしながら、歩いているとCDショップがあるのを見つけた。 「あ、そうだ。あの店に寄っていい?」 「何の店ですか?」 「え、さくらちゃん。CDショップ知らないの?」「はい」  店内に入る。さくらは初めての店に興味津々の様子だ。あさひは、店内を見回すと特設コーナーが出来ている一角にあさひを連れて行く。 「ほら、これがCD。中に歌とか音楽が入ってるのよ」  あさひがさくらにヘッドフォンを被せてあげる。さくらも一緒にヘッドフォンを着けるとサンプル用のプレイヤーのスイッチを押す。耳の中に明るい弾んだ調子の音楽と少女の歌声が響く。 『~♪』  しばらくするとさくらが何か話しているのに気が付く。ヘッドフォンを外してみると、さくらが興奮したのか何か大声で話してる。 「さくらちゃん、声大きい」  あわててヘッドフォンを外してやる。すると自分の声の大きさに気付いたのか、顔を赤らめるさくら。 「素敵ですね、これ。初めて聞きました」 「そうでしょ、私一押しのアイドルなんだ。私たちと同じ中学一年生なんだよ」 「すごいですね」   一通り感心して、さくらは並べられているCDを一枚手に取る。 「こっちは出たばっかりの新曲だから、試聴しか出来ないんだよね。今回の新曲もオリジナルの作詞だってブログで読んだから、早く全曲聴きたいな」 「買わないんですか?」  さくらが不思議そうな顔で聞く。欲しい物は欲しい時に手に入れるという考えの彼女には、欲しいけど止めておくという考えが理解できないのだろう。 「うん、今日はお姉ちゃんの誕生日プレゼントを買うつもりでいたし……お小遣いもそんなに無いしね」 「お姉ちゃん……まひるさんですね」 「そうだよ。お姉ちゃん、来月の3日に誕生日なんだ」 「それでお祝いのプレゼントですか」 「うん」 「だったら、私がこのCDをあさひさんに誕生日プレゼントします!」  棚のCDを引っつかんで、両手であさひに差し出すさくら。最初は面食らったが、ややあって噴き出してしまう。 「誕生日プレゼントって誕生日にあげるんだよ。さくらちゃん、冗談きつい~」  笑うあさひを見て、何が可笑しいのかちょっと理解できないようなさくらの表情に、内心呆れながらあさひはCDを受け取ると棚に戻す。 「私の誕生日は、まだ先の話。その時にはちゃんと教えるから、さくらちゃんもそのうちに教えてね」 「……はい」  あさひはさくらの返事を聞きながら、そういえば彼女については学校にいる時の姿しか知らないことに気が付いた。結構言葉を交わしているように思えたが、実際はそれほどパーソナルな情報については何も知らない。たとえばどこに住んでいるのか?、とか。 「そういえば、さくらちゃんってどこに住んでたっけ?」  ふっと思いついたようにあさひがさくらに尋ねる。さくらの目があさひを見つめた。その瞳に吸い込まれそうな気分になる。引き込まれそうになって慌てて首を振る。 「!?」  あさひは、自分が『何を話そうとしていたんだろう?』と不思議に思った。ちょっと前の会話の内容が思い出せない。 「どうかしましたか? 気分でも悪くなりました?」  さくらが心配そうにあさひの顔を覗き込んでいる。彼女は首を横に振る。 「ううん、大丈夫。ちょっとぼっとしちゃっただけ」 「良かった、何も無いなら。少し心配しました。もし良かったら、次のお店に行きませんか?」  さくらが出口に向かうので、あさひも付いて行く。が、突然何かを思い出した。 「そうそう、思い出した」  その言葉にさくらがキグリとする。恐々とした表情であさひの方へ振り返る。 「さくらちゃん、誕生日のプレゼントは無理のないものでいいんだからね。値段が高ければいいってわけじゃなんだから」 「はい」  さくらは安堵すると同時にあさひの気遣いを嬉しく思った。こんな気持ちはきっとお金で買えないものなのだな、と感じた。  二人は、CDショップを出るとちょっと休憩することにして、近くのハンバーガーショップに行く。軽い食事と飲み物を楽しみつつ休憩すると今度はあさひの目的であるデパートに出かける。 「ここに来たかったんだ」  あさひとさくらがやって来たのは、デパートの中にあるぬいぐるみの専門店だった。店内一杯、床から天井まで様々なぬいぐるみで埋め尽くされている。 「すごいですねー」 さくらが感嘆の声をあげる。 「でしょー。お姉ちゃんがさ、最近柄にもなくぬいぐるみを連れて家の中を歩いてたりするのよ。それが可笑しくって…」  『まひるが連れているぬいぐるみ』というキーワードが何を指し示すのか、さくらには分かる。思わず苦笑せざるを得ない。 「それでぬいぐるみを、まひるさんにプレゼントするんですか?」 「お姉ちゃんというよりは、そのぬいぐるみにかなぁ? 一人だからさ、お嫁さんとか居たら楽しいでしょ?」  そう言ってぬいぐるみの置かれている棚を熱心にみている。 「ぬいぐるみのお嫁さん……」  一瞬目が点になる。さくらの頭のなかにはオレンジが物言わぬぬいぐるみとラブラブしているシーンが想像されたからだ。そのシーンが思い浮かんだ瞬間、思わず吹き出してしまう。 「何か可笑しい?」 あさひがちょっとムッとした表情で見る。さくらは慌てて手を振って否定する。 「そうじゃなくって、知り合いが持ってる面白いぬいぐるみの顔を思い出したものですから」 「そお? ならいいけど」  あさひは再び棚の方へ目をやる。さくらが「面白い」と言った時には脳裏にパープルの姿が浮かんでいる。心の中でいろいろと爆笑している。 「これ、どうかな?」  しばらくしてあさひが納得したらしい一体のぬいぐるみを抱き上げた。何となくパープルに似てるといえば似てる。似ていないといえば似ていない。そんな微妙のテイストなぬいぐるみだ。 「良いんじゃないですか? 大きさも手頃だし」 「だよね。この前、見かけてお似合いって思ったんだ」  会心のぬいぐるみが見つかったとご満悦なあさひと内心笑いが止まらないさくら。まさかオレンジの正体をばらす訳にはいかないので、内心の気持ちとは別に表面はクールを装う。 『あれをお嫁さんにされるオレンジは気の毒ね。パープルにぜったいそのネタでからかわれるし』  可笑しさを通り越して少し同情してきた。あさひはレジに持って行きプレゼント用の包装をお願いしている。リボンのついたちょっと大きな包みを抱えてあさひが帰ってくる。 「これで一番の目的は終わったけど。さくらちゃん、他に行きたい所、ある?」 「はい」  さくらは元気良く返事をして、あさひが差し出した手を握った。
*SS第06話「ショッピング・ブギ」 「うん、そう。駅前にあるあそこ、そこで待ち合わせね」  あさひが嬉しそうに言って電話を切る。鼻歌を歌いながら二階に行こうとするのをまひるが呼び止めた。 「あさひ、何? 嬉しそうに……あっ、もしかして彼氏だったりして」  ちょっとニヤニヤしながら鎌を掛けるまひる。が、一笑にふされてしまう。 「残念でした、さくらちゃんだよ。明日一緒にお出かけするんだ」 「え…さくら?」 まひるは一瞬きょとんとしたが、すぐに『あー』という顔になる。 「知ってるでしょ? 同じクラスの子だよ。帰国子女だからちょっとズレてるけど」  さくらは、かぐやの家にお世話になっているボウケン星の住人、ピンクの仮の姿だ。社会勉強と称してアリオル学年の一年生として通い、あさひと同じクラスになっている。 「じゃあ、明日早いから寝るね」「うん、おやすみー」  二階へ上がっていくあさひを見送るまひる。さて、自分もクラブ活動で学校へ行かなければならない。卒業式でやる応援エールの練習に励まなくてはならない。 「さて、私も寝るかな……」  うーんと伸びをする。そして、隣で新聞を読んでたオレンジの首根っこを掴むと、まひるは自分の部屋へ向かった。  次の日の朝。天気は快晴。季節柄、まだ風は冷たいが確実に春の日差しになってきている。道路脇の桜も芽が膨らみ、鳥の声が春めいているのが分かる。駅前は人通りが多い。その中で分かりやすい駅前のシンボル的な待ち合わせ場所でさくらと待ち合わせているのだ。  待ち合わせの時間、5分前。あさひは余裕を持って到着する。周囲を見回すがさくらは来ていないようだ。 「まだ5分前だし、ちょっと早く着すぎたかな?」  これがデートだったら、女の子が遅れて来るのが定番よね、などと夢想してしまう。コ○ルト系小説の読み過ぎかな、と反省。  待ち合わせの時間が来たが、さくらの姿は見えない。10分が経過し、20分が経過した。 「待ち合わせ場所、間違えてないよね」  ここまでくると少し心配になってくる。この待ち合わせ場所は、さくら自身が言い出した場所なので、間違えているとは思えない。何か勘違いがあったのか、それとも道に迷っているのか? 携帯電話でもあればすぐに分かるのだが、あさひはまだ携帯電話を買ってもらえていない。 「あさひさーん、ごめんなさーい! 遅れてしまいましたー」 「さくらちゃん、遅いよー」  30分の遅刻だ。いろいろと気を揉んでいたあさひにとって、遅刻することに対してより彼女がちゃんと来てくれたことに対してほっと安心する。 「道に迷ったのかと思っちゃったよ」 「すみません。家を出るときに服装にいろいろと迷ってしまって……」  息を切らしながらさくらが申し訳なさそうに謝る。確かにシンプルながら可愛い服装だ。いつも着けているトレードマークの頭のリボンとも似合っている。 「じゃあ、行こっか」「はい」  二人とも駅前の商店街に向かう。どちらも目的があってのショッピングだ。でもせっかくなので、いろいろな店を見て回る。さくらも初めて見るものが多いらしく、あさひにいろいろと質問したりしている。 「あ、ありました。ここです、フェアリードロップ光が丘支店。雑誌で見ました」  あさひが嬉しそうに指を差す。その先には大きなピンクのリボンの看板が印象的なブティックがある。ブティックなんて縁のないあさひが入るのを躊躇していると、さくらが背中を押す。 「大丈夫です。ここは、中学生みたいな女の子でも似合う服が一杯あるんですよ」 「さくらちゃん、詳しいんだね」 「はい。ここの大ファンなんです」  店内に入ると人気モデルの等身大写真が貼られている。その写真もそのブランドの服を着ている。さくらは、服の並んでいるところに行って次々と見ている。 「これなんか、どうでしょうか?」  いつの間にか、鏡の前で何着もの服を合わせられているあさひ。 「ちょ、ちょっと似合わないよ、私」 「試着するだけなら、問題ないですって。たまに気分を変えてみるのも面白いですよ」  さくらが選んだ服と一緒に試着室に投げ込まれるあさひ。カーテンから顔をそっと出すと、さくらが目の前に仁王立ちになっていて『ちゃんと着て見せるまで許しません』というオーラを発している。仕方が無いので、しぶしぶと着替える。 「ど、どうかなあ…?」  顔を赤くしながらあさひが顔を出す。 「似合いますよ。可愛い」  さくらが絶賛する。振り返って、もう一度鏡を良く見る。服は派手っぽいし胸元に大きくデザインされたリボンが奇抜だが、確かに悪くはない。さくらの見立ては確かなようだ。 「うん、いいかも……」「でしょ?」  戸惑いながらもうなずくあさひにさくらがにっこりと笑いかける。が、服に付いている値札をみて青ざめる。普段買っている服よりは確実に桁が1つ多い 「さ、さくらちゃん。この値段……ちょっと買えない」「?」  さくらは、なぜあさひが戸惑っているのか理解できていないようだ。 「脱いで返すね」 「ちょっと気に入らない点がありました? では、次の服を試してみませんか?」  カーテンを閉めようとすると、さくらが次の服を持って来ようとするので必死に止める。 「もういいから……買えないし」  しばらく考えてからさくらが手を叩く。 「でしたら、私がプレゼントするっていうのはどうですか?」 「プレゼント?」 「そうです。日本では、お世話になっている人に贈り物をする習慣があるって聞きました。だから、お世話になってるあさひさんに私からプレゼントします」 「いいよ、さくらちゃん。中学生には高すぎる買い物ですし」 「そうですか」  さくらがしゅんとした表情をする。 「もっと別の安いもの……ね、ね」  あわててあさひがフォローすると彼女の表情に笑顔が戻る。 「分かりました!」  それから、今度はさくらの買い物に付き合う。いくつか眺めているとパッとその中から試着もせずに選んでいる。 「そんな適当な選び方で大丈夫なの?」  心配になってあさひがそっと聞いた。さくらは、その質問にきっぱりと答える。 「頭の中でシミュレーションはバッチリなんです」  確かに一見雑な選び方をしているようだが、似合わないデザインを選んではいない。きっと彼女は、自分自身がその服を着たときのイメージが頭の中にパッと浮かんでいるのだろう。それでいくつか選んで、一番良い物を選んでいるようだ。 「これとこれとこれに決めました」  数着を店員さんに示すさくら。店員はレジに持っていって、包装してくれる。お金を払って、店を後にする。 「すっごい買い物だね、さくらちゃん」  さっきレジでの支払いの様子を思い浮かべながらびっくりするんです。 「欲しい物はいつまでも手に入るとは限らないんですよ。ごく普通のことが手に入らなくなったりしますから」 「そうなの?」 あさひにその言葉はピンと来ない。普通のもので手に入らないって何だろう? あさひにとって手に入らないと言えば、値段が高かったり、子供だからって理由で買ってもらえなかったりとそんな物しか思い浮かばない。  考え事をしながら、歩いているとCDショップがあるのを見つけた。 「あ、そうだ。あの店に寄っていい?」 「何の店ですか?」 「え、さくらちゃん。CDショップ知らないの?」「はい」  店内に入る。さくらは初めての店に興味津々の様子だ。あさひは、店内を見回すと特設コーナーが出来ている一角にあさひを連れて行く。 「ほら、これがCD。中に歌とか音楽が入ってるのよ」  あさひがさくらにヘッドフォンを被せてあげる。さくらも一緒にヘッドフォンを着けるとサンプル用のプレイヤーのスイッチを押す。耳の中に明るい弾んだ調子の音楽と少女の歌声が響く。 『~♪』  しばらくするとさくらが何か話しているのに気が付く。ヘッドフォンを外してみると、さくらが興奮したのか何か大声で話してる。 「さくらちゃん、声大きい」  あわててヘッドフォンを外してやる。すると自分の声の大きさに気付いたのか、顔を赤らめるさくら。 「素敵ですね、これ。初めて聞きました」 「そうでしょ、私一押しのアイドルなんだ。私たちと同じ中学一年生なんだよ」 「すごいですね」   一通り感心して、さくらは並べられているCDを一枚手に取る。 「こっちは出たばっかりの新曲だから、試聴しか出来ないんだよね。今回の新曲もオリジナルの作詞だってブログで読んだから、早く全曲聴きたいな」 「買わないんですか?」  さくらが不思議そうな顔で聞く。欲しい物は欲しい時に手に入れるという考えの彼女には、欲しいけど止めておくという考えが理解できないのだろう。 「うん、今日はお姉ちゃんの誕生日プレゼントを買うつもりでいたし……お小遣いもそんなに無いしね」 「お姉ちゃん……まひるさんですね」 「そうだよ。お姉ちゃん、来月の3日に誕生日なんだ」 「それでお祝いのプレゼントですか」 「うん」 「だったら、私がこのCDをあさひさんに誕生日プレゼントします!」  棚のCDを引っつかんで、両手であさひに差し出すさくら。最初は面食らったが、ややあって噴き出してしまう。 「誕生日プレゼントって誕生日にあげるんだよ。さくらちゃん、冗談きつい~」  笑うあさひを見て、何が可笑しいのかちょっと理解できないようなさくらの表情に、内心呆れながらあさひはCDを受け取ると棚に戻す。 「私の誕生日は、まだ先の話。その時にはちゃんと教えるから、さくらちゃんもそのうちに教えてね」 「……はい」  あさひはさくらの返事を聞きながら、そういえば彼女については学校にいる時の姿しか知らないことに気が付いた。結構言葉を交わしているように思えたが、実際はそれほどパーソナルな情報については何も知らない。たとえばどこに住んでいるのか?、とか。 「そういえば、さくらちゃんってどこに住んでたっけ?」  ふっと思いついたようにあさひがさくらに尋ねる。さくらの目があさひを見つめた。その瞳に吸い込まれそうな気分になる。引き込まれそうになって慌てて首を振る。 「!?」  あさひは、自分が『何を話そうとしていたんだろう?』と不思議に思った。ちょっと前の会話の内容が思い出せない。 「どうかしましたか? 気分でも悪くなりました?」  さくらが心配そうにあさひの顔を覗き込んでいる。彼女は首を横に振る。 「ううん、大丈夫。ちょっとぼっとしちゃっただけ」 「良かった、何も無いなら。少し心配しました。もし良かったら、次のお店に行きませんか?」  さくらが出口に向かうので、あさひも付いて行く。が、突然何かを思い出した。 「そうそう、思い出した」  その言葉にさくらがキグリとする。恐々とした表情であさひの方へ振り返る。 「さくらちゃん、誕生日のプレゼントは無理のないものでいいんだからね。値段が高ければいいってわけじゃなんだから」 「はい」  さくらは安堵すると同時にあさひの気遣いを嬉しく思った。こんな気持ちはきっとお金で買えないものなのだな、と感じた。  二人は、CDショップを出るとちょっと休憩することにして、近くのハンバーガーショップに行く。軽い食事と飲み物を楽しみつつ休憩すると今度はあさひの目的であるデパートに出かける。 「ここに来たかったんだ」  あさひとさくらがやって来たのは、デパートの中にあるぬいぐるみの専門店だった。店内一杯、床から天井まで様々なぬいぐるみで埋め尽くされている。 「すごいですねー」 さくらが感嘆の声をあげる。 「でしょー。お姉ちゃんがさ、最近柄にもなくぬいぐるみを連れて家の中を歩いてたりするのよ。それが可笑しくって…」  『まひるが連れているぬいぐるみ』というキーワードが何を指し示すのか、さくらには分かる。思わず苦笑せざるを得ない。 「それでぬいぐるみを、まひるさんにプレゼントするんですか?」 「お姉ちゃんというよりは、そのぬいぐるみにかなぁ? 一人だからさ、お嫁さんとか居たら楽しいでしょ?」  そう言ってぬいぐるみの置かれている棚を熱心にみている。 「ぬいぐるみのお嫁さん……」  一瞬目が点になる。さくらの頭のなかにはオレンジが物言わぬぬいぐるみとラブラブしているシーンが想像されたからだ。そのシーンが思い浮かんだ瞬間、思わず吹き出してしまう。 「何か可笑しい?」 あさひがちょっとムッとした表情で見る。さくらは慌てて手を振って否定する。 「そうじゃなくって、知り合いが持ってる面白いぬいぐるみの顔を思い出したものですから」 「そお? ならいいけど」  あさひは再び棚の方へ目をやる。さくらが「面白い」と言った時には脳裏にパープルの姿が浮かんでいる。心の中でいろいろと爆笑している。 「これ、どうかな?」  しばらくしてあさひが納得したらしい一体のぬいぐるみを抱き上げた。何となくパープルに似てるといえば似てる。似ていないといえば似ていない。そんな微妙のテイストなぬいぐるみだ。 「良いんじゃないですか? 大きさも手頃だし」 「だよね。この前、見かけてお似合いって思ったんだ」  会心のぬいぐるみが見つかったとご満悦なあさひと内心笑いが止まらないさくら。まさかオレンジの正体をばらす訳にはいかないので、内心の気持ちとは別に表面はクールを装う。 『あれをお嫁さんにされるオレンジは気の毒ね。パープルにぜったいそのネタでからかわれるし』  可笑しさを通り越して少し同情してきた。あさひはレジに持って行きプレゼント用の包装をお願いしている。リボンのついたちょっと大きな包みを抱えてあさひが帰ってくる。 「これで一番の目的は終わったけど。さくらちゃん、他に行きたい所、ある?」 「はい」  さくらは元気良く返事をして、あさひが差し出した手を握った。

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