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SS第03話「ガールズナイト in 修学旅行」


 大広間に集まった生徒たちが楽しそうに食事を終え、fそれぞれの班ごとに分かれて部屋へと戻る。既に部屋には布団が敷かれ、寝るための準備は万端だ。
「私、ここー!」「じゃあ、私はこっち」「窓際がいいな」「押入れに押し込むぞー!」
 部屋の中に入ると同時に我先に布団に飛び込む。隅に置かれたテーブルに近い布団に座ったまひるは、さっそくお茶を淹れ始める。それを合図にしたかのようにカバンからお菓子類を取り出すかぐやたち。
「それにしても教頭先生の話長かったよね」 まひるからお茶を受け取りながら、則子が口を開いた。まひるはみんなにお茶を配っている。
「そうそう、あんまり長いんでみんな鍋の中身が煮詰まっちゃわないか心配してたよね」と美香が同意する。
「みんなはまだ良いよ……」とあまり思い出したくない表情の則子。「私たちなんか宿に到着して30分間、説教されてたし」 則子の言葉にうんうんとうなずく一同。
「でも月宮さんのお陰で助かったわ」 ポテチの袋を差し出しながら雪奈が言う。「何たって、クラス委員と生徒会長が両方して新幹線から降り遅れるなんて前代未聞だったし」
「かぐやが、教頭先生に色々と言ってくれなかったらお風呂にも入れなかったし、食事も抜きだったかも」 まひるの言葉に全員が一斉にかぐやを拝む。則子なんかは、両手の平を擦りあわせながら妙な呪文を唱えている。
「よしてよ、恥かしい」 かぐやが照れた風に両手を振る。「だって単なる事故だったんだもの。谷松先生だって一緒だったんだし、問題は最小限で済んだんだし」
「だけど、谷松先生が結構しょげてたよね。私たちにも謝ってたし」とまひる。新幹線の車内でもそうだったが、教頭先生のお説教から解放された後で廊下で全員に向かって頭を下げていた姿をみんなが思い出していた。
「まあ、谷松先生って修学旅行の引率初めてだって話でしょ? 緊張してたせいかもね」 雪奈の言葉に一斉にうなずく一同。「そのせいかドジはいつもの10倍だったけど」と則子の突っ込が。そしてさらに言葉を継ぐ。
「しかも、京都に彼氏が居ることもバレちゃったし……って教頭先生は知ってるのかな?」 則子が身を乗り出して話す。
「どうかなあ? 一応目撃はされてるけど……」 美香が首を振って否定する。
「いやいや、完璧に感づいたと思うね、私は」 腕組みをしながら推理を披露する雪奈。
「かぐやはどう思う?」 まひるがかぐやに水を向けると、かぐやはしばらく考えてから口を開いた。
「そうねえ、たとえ気付いたとしても谷松先生も相手の人も大人だし……。教頭先生も特に問題視はしないんじゃないかな? ここが谷松先生の出身地だって知ってると思うし」
「出身地なら単なる知人とか思うかもね」 かぐやの言葉にうなずくまひる。
「大学もこっちなんだっけ?」「大学まで地元だったみたい」 美香の言葉に雪奈が即答する。「先生のデータまでバッチリかい」 則子がすかさず突っ込む。
「ということは、大学生の頃から付き合っててそれから遠距離恋愛とか?」
「いや、どうかなあ? 高校生からとか、実は幼馴染とかあるかも」 美香の言葉に則子がうっとりしたような表情で自分の胸を抱いて身をくねらせる。
「いいなあ、カッコイイ幼馴染かあ。憧れるシチュだよね」
「現実には、そんな人は居ませんけどね」 美香がばっさり斬り捨てる。斬られたので布団に倒れ込む則子。「もう、駄目。私が死んだら、小高い丘の上に小さな墓を建てて…そう、お花はバラがいいわ」 ブツブツとつぶやいている則子を無視して、全員話を続ける。
「月宮さんは、外国で好きだった人とか居なかったの? 国は違うけど、私たちの心は一つよ~みたいな展開とか……」 美香がかぐやに水を向ける。
「ごめんなさい、そういう話はないの。小学生の頃から全寮制の女子校だったし……」と済まなそうなかぐや。
「やっぱり、少女漫画みたいな展開にはいかないか。残念」 がっくりする美香。その時だった。突然、則子が「復活!」といって起き上がる。
「ねえねえ、大分前だけど、駅前の商店街を結構大人っぽい人と委員長が一緒に歩いていなかった?」
 突然の話に一同の目が点になる。「ねえねえ、どうなの?」と思いっきりナゼナゼ光線を一人出している則子を除いてだが。点目から一瞬で、雪奈だけが復帰する。
「ち、違う……ってあれ、見られてたの?」 雪奈の顔が真っ赤になるのを見て、かぐやとまひる、そして美香も点目から復帰して、興味深々である。
「これは、そうとうやましいことがありそうですねー、まひるさん」 美香がまひるのそばに寄り、何かを耳元で囁くようなしぐさを取る。まひるも同じしぐさを美香に返す。「美香さん、委員長ったら大人なのは胸の大きさばっかりじゃないようですねー」
「で、あの嬉しそうに腕組んでた人はだれ?」 則子の言葉に声に鳴らない(期待に満ちあふれた)悲鳴を上げるまひるたち。
 周囲の盛り上がりに逆に冷めたのか、雪奈が片手を顔の前で振る。
「だから、違うって。あれは、お・に・い・ちゃ・ん」
「「「ええええ、お兄ちゃん?」」」 まひるたちが一斉に声を上げる。かぐやは呆れ顔で彼女たちを見ている。
「あの、刑事やってる話の?」 美香の言葉にうなずく雪奈。「たまたま非番の日に一緒に買い物にいっただけよ」
「しかし、兄妹で腕を組むってのはやりすぎじゃないですかあ?」「滅多に出かけたりできないし、甘えるのが妹の仕事なんです」 則子の追及も冷静にかわされてしまう。
「なあんだ、結局誰も浮いた話とかないのね」 まひるが笑いながらお茶をすすった。
「おかしいなぁ? ここにこんな美少女が居るってのに男子校舎で話題になってない筈が……」 布団の上に倒れこんで天井を見つめる則子。その口にはポッキーが咥えられている。どうやら、世捨て人を気取っているらしい。「誰が美少女だって?」という美香やまひるの突っ込みにも動じていない。
「生徒会とかどうなの? あそこは男子生徒も出入りするし、接点多いじゃない」 気を取り直した美香が、かぐやに再び話を振る。
「どうかなあ? そういうのに興味ないから、気付かないな」「駄目だー」 かぐやの言葉に美香も布団の上に寝転がる。その口にはやはりポッキーが……。
「学校に隠れて彼氏がいる子もいるのにねー」「私なんか下駄箱にラブレターがあふれててもおかしくないのにねー」 なんだか左右コンビでやさぐれてる。
「まだ私たち中学生なんだし、彼氏とかまだ早いよ」 まひるがお茶を淹れなおす。
「でさ、まひるは、天城先輩とどれくらい進んだの?」 則子の不意打ちに飲みかけてたお茶を噴出しそうになるまひる。
「ななななな、なんで、私に振るの?」 思いも寄らぬ矛先に慌ててしまうまひる。そんな彼女に左右コンビの魔の手が伸びる。
「だって、ぬるま湯なんだもん……いや、まひるに積極性がないんだもん」「ほら、先輩もうすぐ卒業しちゃうよ。高等部入ったら、なかなかあえなくなるんだから、告白するなら今のうち」
 迫ってくる左右コンビ。たじろぐまひる。
「先輩は、優しいし格好いいところもあるけど……まだ、好きとか何とか……」
「まひる困ってるじゃない」 かぐやが助け舟を出そうとするが「自分の気持ちに素直になるのも大事よ」と則子に言われてしまい、それもそうだと妙に納得してしまう。
「か、かぐや……説得されないでよ」
「天城先輩もまひるのことまんざらでもないかもよー?」「そう言えば、そんな感じがするわ」 美香と雪奈も思い当たる点があるようだ。
「そんなこと無いって。天城先輩は誰にでも優しいし」 言ってしまってから胸が痛んだ気がする。
「天城先輩はこっちから言わないと気付かないかもね」とかぐやが分析する。
「まひるは私たちの輝ける星なんだから、頑張って行って欲しいわよね」と則子が冷めた茶を一気に飲み干す。
「頑張って行くってどこまで行くのよ?」という美香の質問に「そりゃー、あーなって、こーなって、あんなこととか、そんなことまで行って……」と則子。
「あんた、携帯小説の読みすぎ!」 雪奈が思わず突っ込みを入れる。
「へー、日本の中学生って凄いのね?」 思わず真顔でうなずくかぐや。
「そのまま信じるな、信じるな」 慌てて雪奈が訂正する。「え、そうなの?」「当たり前だ!」
「で、まひるはどうなの?」 今度は美香が水を向ける。
「どうなのって、どうもないって。じゃ、私寝るから」 布団の中に頭までもぐりこんでしまうまひる。
「ち、逃げたか。逃がさないよ。のりぽ、やれっ」「ガッテン」 左右コンビが布団のまひるに襲い掛かる。
「ほれほれ、口で言いたくなければ体に聞いてやるよ」 則子がまひるを布団の上からくすぐる。美香も協力している。最初は耐えていたまひるだったが、耐え切れなくなったのかもぞもぞと布団の中で動いている。
「旦那、口を割らないしぶとい奴ですぜ」「もっと痛めつけてやれ」「へいっ」 二人の乗りが時代劇じみてきた。
「ほら、あんまり騒ぐと見回りの先生に怒られるよ」 と雪奈が止めに入ったが。構わず続ける二人。
「許して、もう死んじゃう!」 布団からまひるが顔を出して叫ぶ。顔が真っ赤になり汗すら浮かんでいる。
 と、その時、部屋のドアがいきなり開いた。
「こら!、就寝時間は過ぎてるのよ。いつまで騒いでるのは誰?」
 反射的に全員が布団にもぐりこんだが、誤魔かせるはずもなく、そろそろと顔を出してドアの方に顔を向ける。そこには仁王立ちの谷松先生の姿があった。
「教頭先生の見回り前で良かったわ。もう寝なさいね。でないと、また教頭先生に叱られるんで………本当に勘弁してください」
 怒ったような顔が、次の瞬間トホホな表情になる。その顔を見て、昼間の先生の姿を思い出した。
「「「「「ごめんなさい」」」」」 思わず全員で一斉に謝った。
 こうして修学旅行最初の夜はふけていった。