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SS第04話「もうひとつの冒険!プリキュアDays」


 この前まで日常の中にあった。どこで何が変わってしまったのだろう? 自分に問いかけてみても結論はでない。目の前に現れた敵を倒す。それが使命になった。日常を取り戻すために。
 それは突然、始まった。街中で若者が突然、怪物に変化するという事件が発生していたのだ。当初、それは人知れず、小さな事件であったが、やがて日常に拡大していった。怪物に襲われるのは、いずれも少女たち。目撃者によれば、いずれも怪物化する前に「アップダウン」という名前を叫ぶという。
 襲われた少女たちは、ずっと眠ったままとなり、原因も治療法も分からなかった。怪物の姿はいつの間にか消えていた。謎に満ちた事件として警察なども捜査に当たったが、非現実的な事件はやがて表立つことなくもみ消されていった。そして、大人たちが沈黙する中、二人の少女に世界と少女たちを守る使命が与えられたのだった。

 *  *  *

「きゃあ!」 クラスの中で突然悲鳴が上がる。さっきまで通常の授業だったはずなのにクラスの男子の何人か苦しみだしたのだ。突然のことに悲鳴を上げる女生徒たち。もだえ苦しみ椅子から転げ落ちる男子たち。教室の中が騒然となり、周囲の学生たちが席を立って遠巻きになる。
『全ては、アップダウンさまのために!』
 地声ではない、地の底から聞こえるような恐ろしい声を上げながら、さっきまで床の上でのた打ち回っていた男子が互いに集まっていく。そして体から出た黒い幕に包まれる。
「助けて」「化け物だっ」 クラス中が完全にパニックになり、われ先に教室から逃げ出す。椅子や机が吹き飛び、その衝撃で谷松先生が壁に吹き飛ばされて気を失った。
 その直後に黒い幕が割れ、中から化け物が現れる。鳴き声から「セントラール」と呼ばれる怪物は、黒い巨大な人型の塊である。いつ見ても醜悪で恐怖を感じさせる存在だ。
「セントラールー」 セントラールが雄叫びの声を上げる。
 誰もいなくなったと思えた教室だが、気を失っている先生以外にも逃げ遅れた少女が取り残されていた。遠くの教室からも生徒たちが逃げ出している様子が聞こえ、誰も助けにくる様子はない。
「こっち来ないでー」 セントラールがゆっくりと少女に向かって近づいていく。灰色の長い髪を持つ少女は、倒れて絡まった机や椅子の間に足を挟まれて身動きができなくなっている。机が当たったのか少し怪我もしているようだ。そのために逃げ遅れたのだろう。彼女を獲物と捉ええたセントラールがゆっくりと近寄っていく。
「化け物め、かぐやに近づくな!」 友達を助けるために戻ってきたのか、一人の少女がモップを手にしてセントラールに飛び掛る。
「まひる、駄目。逃げて!」 かぐやと呼ばれた少女が、勇敢な少女を気遣って叫ぶ。
 振り下ろされたモップがセントラールの顔面にヒットした! と思った瞬間、目に留まらない速度でセントラールがモップを避ける。モップは虚しく空を切り、まひるの体がバランスを崩してよろける。
 次の瞬間、セントラールの腕がまひるの体に絡みつく。「離して!」 大声を上げながらもがく、まひる。だがセントラールの力は強く、彼女の力では太刀打ちできなかった。そしてまひるが悲鳴を上げた直後にがっくりとうなだれる。セントラールの顔の前にキラキラと輝く宝石が浮かび上がっている。
 これは『命の宝石』と呼ばれる、生命活動が結晶化したもので、それが抜かれたのだ。セントラールが掴んでいた腕を離すと、まひるの体は力なくその場に崩れ落ちた。まるで糸の切れた操り人形のように。かぐやが悲鳴を上げる。
 まひるを獲物としただけでは満足しないのか、次はかぐやの方に向かって歩みを進め始める。必死で机から逃れようとするが、焦っているために体が思うように動かない。かぐやの体にセントラールの腕が伸びる。
「セントラール」「いやーっ」 悲鳴と叫び声が重なり、次の瞬間にかぐやの体から抜き取られた命の宝石が空中に浮かび上がっていた。輝きを放つ宝石がセントラールの漆黒の体の中に吸い込まれ、輝きを失っていく。光を失った宝石は、灰色の石になったままセントラールの体の中に浮かんでいた。既にセントラールの体の中にはいくつかの石が浮かんでいる。
 セントラールは、教室を見回して獲物がいないのを確認するとゆっくりと教室の出入口へと向かい、廊下にでた。
「セントラールめ、ここに隠れていたロン」 廊下には、小さなぬいぐるみのような姿があった。続いて、もう一人のぬいぐるみが現れる。
「フロント、美香と則子はまだ来ないリア?」 フロントと呼ばれた妖精が振り返る。
「リア、二人が見当たらないロン」「困ったリア」 そんな会話をしているフロントとリアに向かってセントラールが襲い掛かる。
 フロントとリアは宙を飛んで攻撃を避ける。「これでも食らうロン!」 フロントが小さな懐中電灯のようなスティックを取り出すと、その先端を点灯させた。大きく振るごとに光が強くなっていく。
「これでも喰らうロン」 先端の光がセントラールに向かって飛んで行き、フラッシュのように光る。その光にたじろぎ叫び声を上げるセントラール。
 だが、その攻撃も一度限りのものだった。ダメージから回復してフロントとリアを追い回すセントラール。寸でのところでかわしていたが、ついに叩き落とされてしまう。廊下に転がるフロントとリア。
 その時、騒がしく走ってくる声があった。「もう、授業サボってのりぽが学食なんか行くから遅れたじゃない」
「美香がAランチは売り切れ確定なんて言うからでしょー」
「朝、セントラールと戦ってお腹空いたからって……」
「朝食抜きだったから逃げられちゃったって自分も言ってたくせにー」
 騒がしく階段を駆け上り廊下に二人の少女が現れる。目の前に立つセントラールと廊下に転がっているフロントとリアに気づいてハッとした表情に変わる。
「フロント、リア、大丈夫?」 フロントとリアをいち早く抱え上げたのが左近美香だった。
「やっと来た、遅いロン」「ごめん、逃がしたセントラール探してたらお腹空いちゃって」 フロントの抗議に謝ったのは右京則子。二人とも普通のアリオル学園の生徒である。いや、あったと言った方が正しいだろう。運命を背負うまでは……。
「最近、学校内で騒ぎを起こしてたのは、あんただったのね」 美香がセントラールを前に毅然と立つ。
「のりぽ、変身よ」「合点、承知」 美香の言葉に則子がうなずく。フロントが空中に浮かび美香の手の中に納まる。
「プリキュア、レフトターンフロントアップ」 フロントの耳を後ろに折り曲げると、お腹のポケットが開く。そこにカードを差し込むと耳を左手に尻尾を右手で持って銃のように左上に構える。
「プリキュア、ライトターンリアアップ」 則子も美香と同じくリアの体にカードを差し込んで、美香とは逆に右上に銃のように構える。
 二人が同時に構えた瞬間、フロントとリアの体から光の球が発射され、空中で反転して二人を包み込む。光が消えると、そこには戦いの衣装に身を包んだ二人が現れた。
「正義の天秤が悪を砕く、キュアレフト」「生命の天秤が平和を導く、キュアライト」「「二人はプリキュア」」 颯爽とポーズを決めるふたり。
 二人が同時にセントラールに飛び掛る。パンチにキック、息のあった左右の連携攻撃が決まりセントラールが吹き飛ばされる。「早くやっつけてしまおうよ」とライト。「油断は禁物よ」とレフト。
 セントラールが起き上がり、速度を増して迫ってくる。その動きを見切っていなそうとした瞬間、思いがけない位置からセントラールの触手が伸び、ライトの体にぶち当たる。吹き飛ばされるライト。教室の壁をぶち破り、机の山に突っ込む。
「ライトー!」 レフトが叫ぶ。その隙を突いて触手がすばやくレフトへも伸びていく。いくつかの触手は捌くが、その一本がレフトの体を掴んで締め付ける。逃れようともがくが逃れることができない。
「建物の中は戦い難いから嫌いよー」 机の山を崩しながらようやく脱出したライト。一息ついた次の瞬間、教室の床に倒れている二人の少女の姿に気づく。
「……まひる、月宮さん、嘘」 そこにいたのは命の宝石を抜かれた抜け殻のようになった友達の姿だった。瞬間、頭の中が真っ白になり、次の瞬間にはセントラールへ向かって突進していた。
「まひると月宮さんを返せーっ」 渾身の力を込めてセントラールを殴る。殴って殴って殴りまくる。触手が緩みレフトが逃れることができた。
「ライト、突っ込みすぎ。ちょっと引いて」 レフトが声を掛ける。だが、ライトは攻撃を止めない。何本もの触手が彼女を襲い、ライトが弾き飛ばされる。
「大丈夫?」 レフトが抱き起こすとライトの目に涙があふれている。
「どうしたの?」 彼女の問いかけにただ「教室の中にまひると月宮さんが……」とだけ答えた。その瞬間にレフトは、その意味を理解する。教室の中に目をやると倒れている女の子の姿が見えた。皆まで見なくとも誰だかすぐに分かる。
「セントラール、絶対に許さない」 レフトがライトに肩を貸して起こし上げた時には、彼女の顔が憤怒に燃えていた。
「フロント、行くよ」「了解ロン」 腰についている銃化したフロントを手に取る。
「リア、こっちも行くよ」「はいリア」 ライトもリアを手に取る。
「「正義と生命の重さを知れ、今ここに全ての力を込めて!」」 フロントとリアの体が光り始める。「「ファイナルアンチセントラルショーーーット!」」 強力な光の弾が発射され、セントラールを打ち抜く。
「セントラールーーーーっ」 断末魔の声を上げてセントラールが砕け散る。残された命の宝石の残骸が床に音をたてて転がった。色を失った命の宝石をつまみ上げるライト。
「リア……」「はいリア」 銃の姿のリアが口を開ける。その口に命の宝石の残骸を放り込んだ。
「これで百個目ですリア」「百個目ですって?」 ライトがびっくりしたように顔を上げた。
 その次の瞬間だった。巨大な揺れが街を襲う。窓から見ると、ビルなどが崩れているのが分かる。そして中心部の方から何か巨大な物体が立ち上がっているのが見える。
「あ、あれは?」「あ、あれはアップダウンロン。百人の生贄を得て復活したロン」 驚く二人にフロントが解説する。
「あれを倒さないと女の子たちは眠ったままなのね」 ライトの問いかけにフロントとリアはうなずいた。
「じゃあ、行くよ。まひると月宮さんのためにも」 レフトが言って、二人とも駆け出した。今までのセントラールとは違う、恐ろしい戦いが待っているであろう戦場へ向かって。

 *  *  *

「ねえねえ、どうよこれ。格好良くない?」 則子が興奮したように叫ぶ。
「いや、どうって言われても……」 台本から顔を上げてまひるとかぐやは首を傾げる。内心冷や汗を掻いているのだが、そんなことにはおくびにも出さない。
「映画研究会がチア部に話を持ってきてさ、私がちょっとアドバイスしたわけよ」と美香。
「やっぱ、美少女でしょ、アクションでしょ、ラブストーリーでしょ」 則子が騒いでいる。
「どこにもラブストーリー無いじゃん」と雪菜の冷静な突っ込み。「じゃ、友情と感動。愛と青春の旅立ちじゃん」「いや、落ち着け」
「桜園部長や谷松先生が問題ないなら、良いんじゃないの。生徒会も許可できると思うわよ」 かぐやの言葉に喜ぶ左右コンビ。
「「銀幕デビューだぁ」」
 二人の無邪気な様子に苦笑せざるを得ないまひるとかぐやだった。