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駄菓子屋のおばあちゃん

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reki-kita

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その駄菓子屋は今日も開いていました。

低い陳列棚にはうまい棒やブラックサンダーなどピカピカの包みに入ったものから、
あんこ玉や酢イカまで、古今東西様々なものが並んでいます。
駄菓子だけじゃありません、メンコにベーゴマ、今はやりのなんとかってカードもありますし、
文房具だって、ほら、ねりけしに鉛筆に、絵の具に、ノートだって置いてあります。
天井に吊り下げられた、昆虫採集セットやブロマイド引き、くじ引き達が白い日差しから店を守っていました。
大きな冷蔵庫は万全に冷えていて、子供たちがアンズ棒やチューペット、
ホームランバーやニッキ水チェリオをいつでも美味しく食べられるようになっています。
小さいけれど、たくさんのものが詰まったこのお店に、今日はどんな子供たちがやってくるでしょうか。
あ、誰かきましたよ。黄色と黒のちゃんちゃんこを着た男の子が、四人。
野沢「おばちゃん、ちょーだいな。」

一番小さい男の子が、まずずんずん、と中に入っていきました。
きなこ棒の前に止まって、どれにしようかうんうんとうなっていました。
戸田「おばちゃーん、ビックリマンあるー?」
最初に入ってきた男の子より、ちょっとだけ背のある子は入りしなにそう言いました。
「びっくりまん?ええ、と、こっちにあったけなぁ。」
おばあちゃんはごそごそと、チーズ味のうまい棒の後ろを調べます。
なにしろ、たくさんのお菓子があるのですから、前に出ているもの以外は探すのも一苦労です。
頭にくもの巣を三個くらい乗っけた時、おばあちゃんはやっと探し物を見つけました。
「ほら、これだろ?」
戸田「……おばちゃん、これ、ビックリマンじゃなくて、ガムラツイストだよ。」
「おやそうかい、ごめんねぇ、ええと、びっくりまんは……。」
戸田「あ、おばちゃん、いいや。久しぶりにガムラツイスト買うよ。」
男の子はそういうと、最初に入ってきた子の隣に並んで他のお菓子を選んでいます。
次に入ってきた子は、二人よりも背の高い子です。この子はお菓子よりも玩具の方がいいようです。
松岡「おばちゃん、シールくじがやりたいんだけど。」
おばあちゃんはゆっくりと、天井から下がっているシールくじを下ろします。男の子が一つ、ピッと引っ張って中を見ました。
野沢「どう?兄さん。」
松岡「……コイキングだ。……まあ、いいや。おばちゃん、あとこの飛行機と万華鏡下さい。」
お店の中には三人、さっき見た時は四人いたはずです。おかしいな、とおばあちゃんは外を見ました。
いました。ガラス戸の隅から、こっそりと覗いています。他の三人よりもほっそりしていて、もやしのようです。
戸田「あ、おばちゃん、気にしないで。あいつ、こういうとこ初めてだから。」
野沢「ほらほら!兄さん、遠慮しないでさ!」
一番小さい子に引っ張られて入ってきたその男の子は、物珍しそうに辺りを見回しています。
おばあちゃんは、アイスクリームガム、と書かれた箱を持ってきました。
「初めてなら、特別サービスだよ、三回、押してごらん。タダだから。」
高山「え、いいんですか?」
しどろもどろ、落ち着きのない様子で、お菓子を選んでいる三人を見ます。
松岡「サービスなんだから、いいんだよ。」
飛行機を買った男の子に言われて、その子は箱から突き出たボタンをまずは一回、押しました。
ころん、と穴から転がってきたガムの色は白。
「はずれだねぇ。」
二回目に転がってきたのも、白。
「またまた残念、さあ、最後の一回だよ。」
男の子はごくん、と唾を飲み込みます。他の三人も、じっと箱を見ています。
ゆっくりと、静かに、念を込めて押し込んで……。ぐ、とプラスチックのボタンが箱に吸い込まれていきます。
かつ、とガムが落ちます。そして、穴から出てきたのは……。
野沢「わ、赤い奴だ!」
戸田「おばちゃん、これ、何等?」
ボタンを押した男の子よりも、周りで見ていた子の方が目を輝かせます。
おばあちゃんはにっこりと笑いました。
「一等、百円分買っていいよ。」

戸田「すごいな、百円分だぜ!兄さん、あれ買えよ!結構うまいぜ!」
野沢「そっちよりもキャベツ太郎の方がいいよ!兄さん、これにしろよ!」
二人があれもこれも、と自分が食べたいお菓子を薦めますが、当の本人はいまいち乗り気ではないようです。
「どうしたんだい?遠慮なんてしなくていいんだよ。」
高山「で、でも……百円も。」
松岡「いいんだよ。おばちゃんがいいって言っているんだから。」
そういわれて、男の子はやっとお菓子を吟味し始めました。

お菓子を選び終わった四人は、外に出ている縁台に座ってついでに買ったアイスを食べ始めました。
一番末っ子らしい子と元気のよさそうな子はホームランバーとアンズ棒を。
一番落ち着いた男の子は、うまか棒を。
一等を当てた子はチェリオを。
白い日差しはますます強くなっていくので、アイスも美味しい事でしょう。
野沢「おばちゃん、ここってカキ氷もあったの?」
しょりしょりと、アンズ棒を齧りながら男の子はくじ引きの景品がびっしりと吊り下げられた壁を指差します。
敷き詰められた台紙の隙間から、日焼けした紙がこっそりと顔を見せていて、そこにはカキ氷、となんとか読み取れました。
「ああ、そうだよ。でももうやってないんだよねぇ。」
ごめんねぇ、とおばあちゃんが言うと、男の子はいいの、と首を振りました。
「おばちゃん、こんにちはー。」
「おばちゃん、ちょーだいな!」
「おばちゃん。」
「おばちゃん。」
おや、常連の子供たちがやってきたみたいです。新しいお客さんは縁台の隅っこに固まります。
「おばちゃん、きょうはこれにするよ。」
「あ、やった!ガムあーたり!」
「チェッ、今日もスカだよ。」
ワイワイガヤガヤと声が弾む中、丸坊主の男の子が真剣な声を出しました。
「おばちゃん、メダル当て。」
「おや、けん坊。今日もメダル当てかい。」
けん坊は、うん、と力強く頷きました。

けん坊はいつもメダル当てをする子でした。
メダル当ては一回十円で、一等は金ぴかの大きいメダルで、けん坊はいつも少ないお小遣いを全部使ってそれをあてようとしていました。
けれども結果はいつもスカ。今日はどうでしょうか。
「えい!」
気合を込めて選んだくじをゆっくりと開きます。けん坊の顔は期待に満ち溢れていて、こっちもドキドキしてしまいます。
が。
「……またスカだ。」
がっくりと肩を落としておばあちゃんにくじを渡します。スカは小さな、小指くらいの、ぺらぺらのメダルです。
「残念だったねぇ。また次やっておくれ。」
すっからかんになったけん坊に、おばあちゃんはこっそりと、チロルチョコを握らせました。
「おや、チイ子ちゃん。また頭巾を被ってるのかい。今日は暑いから脱いだほうがいいよ。」
紙人形の前に立った女の子、チイ子ちゃんにおばあちゃんは言います。
お下げ髪を覆う分厚い頭巾はボロボロで、ところどころに煤がついていました。
「いいの。怖いから。」
深く被りなおすと、チイ子ちゃんは目の前にある着せ替え人形をもって遊び始めました。

常連の子供たちが皆帰ってしまうと、お店の中はがらんとしてしまいました。
今日はこれで終わりかねぇ、とおばあちゃんが縁台をしまいに外へ出ると、あら、最初にやって来てくれた男の子達がいました。
「おやおや、まだお家に帰らないのかね。」
松岡「はい、まだ夕方ですから。」
「夕方だから、帰った方がいいんじゃないかえ。お母さんが心配するよ。」
野沢「あ、大丈夫、ちゃんと迎えにきてくれるから。」
高山「ここで待ち合わせしているんです。」
待ち合わせなら、仕方ないねぇ。
おばあちゃんは四人を中に招きました。太陽がまだあるとはいえ、事故や誘拐の心配があったからです。
戸田「あのけん坊って子、いつもメダルくじをやってるの?」
「ああ、そうだよ。あの子は一等のほら、大きいメダルが欲しいんだよ。」
指をさした方向には、きらりと金色に光るメダル。一番小さい男の子はふーっと溜息を吐きました。
松岡「どうして欲しいんです?」
野沢「欲しいに決まってるだろ。あんなかっこいいメダル、僕だって欲しいさ!」
高山「……そうかな。」
ごしょごしょと一等のメダルについて言い合う三人から少し離れていた男の子が、おばあちゃんに近づきます。
松岡「おばちゃん。」
「どうしたんだい?なにかほしいものがあるのかい?」
松岡「……もう、いいでしょう?」
電灯をつけていないせいでしょうか、おばあちゃんの目にはお店の隅が黒く見えました。

「そうだねぇ……。」
おばあちゃんはゆっくりとボロボロの丸椅子に座ります。
椅子に変わりはないはずですが、妙にふかふかしている感じがします。
「あの人が戦争で死んで、駄菓子屋を開いて、そうそう、昭和三十年か四十年くらいだっけねぇ。
あの時が一番子供が多かったねぇ。時代が下っていくうちに、子供が少しずつ減っていって、
ええと、昭和六十年くらいだったけ、……バブルだかなんだかでこの店を売らないかって色んな人が言ったけど、
私はつっぱねたねぇ。……それから十年くらいは大きくなった子供たちが来て子供をつれてきてねぇ……そして、
そう、あの夏の日だよ。日差しが白い、あの日に、……。」
どこかで吊り下げているのでしょうか。風鈴の音が、大きく響きました。
高山「……死んだ旦那さんが待っていますよ。そろそろ、行きましょう。」
「……そういうわけにもいかないんだよ。」
おばあちゃんは立ち上がると、しめてしまったガラス戸の前まで来ました。引き戸の向こう側は暗くて、時々、小さな淡い光がぽつぽつと輝いています。
「けん坊やチイ子ちゃん、他の子たちをこのままにしてはおけないよ。
今はここがあるからいいけれど、ここがなくなったらあの子達は元の、迷子の幽霊になってしまうよ。」
戸田「それなら大丈夫です。僕達に任せてください。」
男の子はぽん、と胸を叩きました。

親父「で、どうやったんじゃ?」
駄玩具だらけになったゲゲゲハウスの中、目玉親父は野沢の入れた茶碗風呂に入っていた。
戸田「簡単です。ぬりかべを呼んで、霊毛ちゃんちゃんこで駄菓子屋を包んで、あの世側に引っ張ってもらったんです。」
こうやって、と手振りをつけ、戸田は楽しそうに笑う。
松岡「あの世とこの世の境目にあった駄菓子屋さん、かぁ。」
つるべ火の力を借りて、竹ひごを曲げる。綺麗な形に、なかなか出来なかった。でもそれも楽しい。
高山「ちょっとこの世側にあったから、今までおばあさんも、子供たちも成仏できなかったけど、
   あっち側に店を置いたから、みんなきっと、成仏できますよね。」
ただでもらった指輪キャンディーを眺めながら高山は呟く。綺麗な形の飴は、光にすかすと本物みたいだった。
親父「きっとそうじゃろうて。ところで野沢、やっぱりパンチコーラ風呂はべたべたしていかんよ。
   普通のお湯にしてくれんか。」
野沢「ええ!僕には夢のような風呂ですよ!」

その駄菓子屋は今日も開いていました。

おばちゃん、こんにちは!今日もメダルくじ……あれ、おばちゃん、おじちゃんなんていたっけ?
まあいいや。メダルくじメダルくじ!今日も当てるぞぉ!
………………やった!
やったよ!おばちゃん!一等だ!やったぁ!やったぁ!!一等賞だ!でっかいメダルだ!金ぴかだぁ!!
よかったねぇ、けん坊。一等賞だよ。
……………。
おや、どうしたんだい?やっと取った一等賞だよ。
…………おばちゃん、父ちゃん、俺のこと褒めてくれるかな。駄菓子屋さんで取ったメダルだけど、褒めてくれるかな?
俺、兄ちゃんや姉ちゃんみたいに、頭もよくないし、運動もからっきしで、絵も下手だからメダルなんかもらえなくて。
だからおばちゃんちのメダルを取りたいって思ったんだよ。メダルには変わりないし、こっちの方がかっこいいもん。
でもさ、父ちゃん、怒んないかな?無駄遣いして、って怒んないかな?褒めてくれるかな?
大丈夫だよ。父ちゃんはきっと褒めてくれるさ。
本当?
ああ。だってけん坊はずっとメダルくじを引いてきた。他の皆はとうに諦めて、お菓子や玩具を買っているのにね。
でもけん坊は、今日まで、ずっと、諦めずに、ほかの物に目もくれずに、メダルくじをやってきた。
これはすごい事だよ。一つのものに熱中できるなんて、他の人には出来ない事だ。
けん坊、お前はすごい子なんだよ。一等のメダルが取れたんだ。もうなんだって出来るさ。
お前の父ちゃんは、きっと褒めてくれるよ。
そう……かなぁ。
そうだとも。ほら、後ろを見てごらん。
……父ちゃん!父ちゃん!ほら見てよ!一等だよ!一等のメダルだよ!
おばちゃん!おばちゃんの言う事は本当だね!父ちゃん褒めてくれたよ!
ありがとう,おばちゃん!本当に、本当にありがとう!!

けん坊が、父ちゃんと一緒に、手を繋いで、ニコニコしながら向こうへ行くのを、おばあちゃんとおじいちゃんは嬉しそうに眺めていました。
白い日差しはますます強くなっていきます。

その駄菓子屋は、今日も、迷子の幽霊達のために開いているのです。

終わり



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