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 宵闇、人気のない道を一人の男が行く。
 辺りに電灯は殆どなく、星と月の輝きが唯一の光源。時々聴こえる虫の囀りをBGMに、彼は黙々と歩き続けていた。
「…………」
 不意に。
 男が歩を止めて振り返る。そのルビーのように鮮やかで、尚且つ夜よりも深い深紅の双眸が、ギラリと光った。
「……誰だ?」
 暗闇に溶けるように、男の低音が空気を揺らす。まるで、それは遠雷のような響きだった。
 それに答えるものは、ない。
 しかし男は構わずに続ける。
「隠れても無駄だ──それほどの殺気、気づかない方が難しいくらいだ。先ほどから駄々漏れだったぞ?」
 そう男が言い終えると同時、道の横の植え込みからガサッと言う音をたて、一つの人影が姿を見せた。
 それは、二メートル近い長身を持つ男の腰ほどまでしかない、小柄な体躯をゴシックロリータで包んだ少女だった。歳の頃は恐らく15,6といったところであろう。格好が少し奇抜なのを覗けば、ごくごく普通の女の子だ。
 ──その右手に無骨なナイフが握られていなければ、だが。
「──一応確認するけれど」
 少女が、口を開く。感情をあまり感じさせない、表情の少し欠けた顔で男を見据えながら。
「というより確認するまでもないだろうけど、貴方能力者よね? さっきモンスターと戦ってたときに炎出してたし……ということはその時振り回してた刀──今腰に差しているのは、フェイティアなのかしら」
「……いきなりペラペラとよく喋る奴だな」
 男が不機嫌そうに目を細める。ただそれだけの行為で、周りの虫達がしん、と静まるほどの威圧感があたりに撒き散らされるが、少女は意に介した様子もなかった。あくまで、男をまっすぐ見つめるのみ。
「一体用件はなんだ? どうやら穏やかな内容ではなさそうだが──まさか貴様、絶滅主義者か?」
「絶滅主義者?」
 少女が首をかしげる。どうやら、その言葉に聞き覚えがないらしかった。
 ──絶滅主義者ではない?
 ならば、何故これほどの殺気を──《能力者》たる自分に向けてくるのだろうか。考えられるのは……
「……能力者狙いの殺人鬼かそんなところか」
「殺人鬼? 人聞きの悪いことを言わないでよ」
 男の言葉に、わずかに頬をふくらませる少女。そして、その握られたナイフを逆手に持ち直す。
「私はただの──」
 それに対し、男は腰に下げた──少女が《フェイティア》と呼称した刀の柄を握った。
 まるで素人のような足運びで、少女の体が動く。
 男の柄を握る手に、少し力が入る。
「──狩人だから」
 そして、
 少女の体が、そこから掻き消えた。
「────!?」
 男はそれに目を見開かせながらも、ほとんど直感で腰の刀を抜き放つ。
 直後、あたりに火花を散らせながら甲高い金属音が鳴った。
「へえ──」
 僅かに驚いたような声音で少女が言う。その姿は、男のすぐ目の前に──二人の間に五メートル近い間が空いていたというのに──あった。
「今の、防げるんだ……」
 結構楽しめそう、そう呟いたかと思うとまた少女の姿が消え──先ほど対峙した際に立っていた位置まで戻っていた。
(……速い)
 否。
 速すぎる。
「加速能力者──あるいは身体能力強化の能力者か? いや、しかし──」
 それならば、動き出す瞬間に大きな足音が鳴るなりなんなりする筈だ。しかし、彼女はまるでジョギングでもするかのような気軽さで動き出していた──それで、あのスピードが出せる能力者。
 だとすれば──
「時間操作系の能力者か──随分と厄介な奴と会ってしまったようだ」
「へぇ──私の攻撃を受けただけじゃなくて、しかも能力まで当てるなんて。貴方結構凄い?」
「…………」
 少女の軽口には答えない。というよりも、答える余裕はなかった。
 先ほどはたまたま──本当に偶然止めることができただけだ。次もまた同じことができるとは思えない。
「…………」
「ふうん、反撃してこないんだ。だったらまたこっちから行くよ──」
 言って、再び少女の姿は掻き消えた。
 その直後に走る、僅かな痛み。
 見れば、右腕に浅くではあるが、一線の刀傷がついていた。
 かと思ったら今度は左腕に同様の傷。
「ぐ──」
「どうしたの? 反撃しないの?」
 どこからか聞こえる少女の声。しかし、その姿はどこにも見えない。
 マズイ、いくらなんでもこれは速すぎる。反撃どころか、避けることすらままならない。
 考えている間にも、傷はどんどん増えていく。
「──ちッ!」
 適当に刀を振るうが、まったく手ごたえがない。
「遅いよ──遅すぎる。前言撤回するよ。やっぱり貴方大したことない」
「────くそッ!」
 バカにするような口調。それに毒吐きながら振るわれ続ける剣。
 空気を真っ二つに切り裂くような轟音が響き、しかしそれが断つのは虚空のみであった。
 ──そして。
「……はぁ、ぐ、ぁ……」
「……もう、満身創痍って感じだね」
 暫くの攻防──否、一方的な蹂躙の後。
 全身を血塗れにして肩で息をする男と、悠然と立ち上がる少女がいた。
「…………く、そ……」
 血を流しすぎたのか、朦朧としていく意識。それでも男は、少女をその眼光で射抜くように見つめる。
「──! ……まだ」
 それに気圧された様に、少女が一歩男から引く。
「まだ、そんな目が、できるんだ」
 しかし──男の威圧感に圧倒されながらも、否、圧倒されているが故に少女は笑う。
「面白いね、貴方。どうやら、また前言撤回しなきゃいけないみたい」 

(未完)
  
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