バナナな人ストーリー 僕らのNI☆ZI☆GEN!!

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僕らのNI☆ZI☆GEN!! OP




「何で、こんなことになっちまったんだ……」
 深夜の静まり返った学校の中。俺は一人、誰もいない廊下を走っていた。
 後ろを振り返ると懐中電灯の眩しい光が見える。その距離はまだまだ遠くに感じられるがそれは確実にこちらに接近している。少しでも足を止めれば追いつかれてしまうのではないかと思えるほどだ。
「ハァ……こんなことになるなら……ハッ……来ない方がよかったかな……」
 そう言いながら俺は、右手に握り締めていたUSBメモリーを見つめた。そう、こいつが原因なんだ。そして、その原因を拾うことになってしまった原因は俺の好奇心のせいなのだ。


事の始まりは俺が学校から帰宅してからのことだった――


「はぁ、退屈だな」
 学校から帰ってきてから何度この言葉を口に出したことか。思えばいつからだろうか。この単調で平凡な世界がつまらないと感じるようになったのは。たぶん小学校の高学年か、もしくは中学校の初めくらいだと思う。
 学校に行って、勉強して、帰って、ときどき友達と遊ぶ。ただそれだけのサイクル。
 遊んでいる最中は気にならなくなるけど、それも終わってしまえばまた元通り。いつもの日常。
 別に戦争が起こればいいとかそういうことを望んでいるわけではない。けれども、この平凡な日常というサイクルにマンネリを感じてしまったのだ。
「パソコンでも、つけるか」
 俺は、自身の部屋にある机に向かうとパソコンの電源を入れる。すると、これまた見慣れたパソコンの画面、それと起動音が鳴り響いた。とりあえずインターネットでもしようと思いアイコンをダブルクリック。検索サイトを開き適当な単語を入力する。
 超能力、宇宙人、パラレルワールド、タイムマシン……などなど。それらの非日常的な単語を入力し検索。しかしその検索結果はというとアニメやマンガの情報だったり、はたまたあまりにも非現実的な論理解釈だったりと俺の望むようなものは何一つなかった。
 だがそれは当然とも言える。なぜなら俺が望むのは実際にありえるかもしれなくてなおかつ自分の身近で起きそうな非日常的な出来事だからだ。
「ほんと、退屈だ」
 恐らく俺ほど"退屈"という言葉を口に出す人間もそうそういないだろう。一日平均百回は超えてるに違いない。本当のところは数えたこともないから分からないが。
 特にめぼしい情報もないので俺は違う単語を入力する。
 "高見沢第一高等学校"
 この高見沢第一高校に通い続けて早2年になるこの俺こと豊村正斗。結局この高校生活というのも二年目に入るとやはりマンネリ化してしまいすでに俺は飽き始めていた。
 検索結果の項目欄には高見沢第一高等学校のホームページが一番最初に表示されている。
 俺はそれをクリックするとパソコンの画面はそのホームページの画面に変わった。
 学校のホームページといっても特に変わったところはない。校風の紹介やどんな施設があるか。最近の部活動がどれだけ活躍しているか。次に行われる学校の行事案内など。
 しかし俺の目的はそれらのどれでもない。おそらく大体のホームページにあるであろう掲示板。これが俺の目的だ。普段この掲示板は部活動の合宿や練習日といった予定を書き込み部員に伝えるために使われているのだが、この掲示板にはもう一つの顔があった。
「えーとどこだっけかな……お、あった」
 気づかない人は本当に気づかないであろう。そんな場所に小さな点がある。この点をクリックすることでパスワードを入力するように表示が出る。八桁の暗証番号。それがパスワードだ。
「1、2、0、8、0、3、2、1……と」
 パスワードを打ち込むと今までの爽やかな背景はうって変わって真っ黒に染め上げられた。
 ここの掲示板の名前は"高見沢高校、裏・掲示板"という。
 まぁその辺にある掲示板とそんな変わりはないが、裏とつくとやはり秘密裏な事柄を話したくなるものなのか。その内容は様々だ。
 二年生のS先輩が誰々と付き合っているとか、自分のクラスのBがウザイだの。はっきりいって下らないとしかいいようがないがその程度のレベルの書き込みが大多数を占めている。
 自分がここのパスワードを知っているのは友人から聞いたからだ。そいつの話によるとこの掲示板を立ち上げたいわゆる創始者みたいな奴がいるのだが。そいつの誕生日と学年に名簿番号がパスワードになっているのだそうだ。あまりにも単純すぎるこのパスワードのせいで学校中の大体の生徒に知れ渡ってしまっているらしい。
「けど、俺の目的はこんなどうでもいいのじゃなくて……」
 あった。
 スレッドの題名は、"高見沢高校の七不思議"というものだ。
 ここには実に色々な根も葉もない噂が書き込まれている。七不思議と書かれているにもかかわらず細かいものを含めてしまえばすでに二十は超えている。
 メジャーなトイレの花子さんのようなものから誰かが作ったのかオリジナルのものまで。
 別にオカルトに興味があるわけじゃない。ただ退屈な日常に刺激が欲しいだけだ。
 といっても大半は特に面白くもない見飽きたものになってしまったのだが。長くこの場所に居着いてしまったからだろう。いわゆる定番のネタが分かってしまうのである。たった数ヶ月張り付いているだけでも飽きてしまうというのはなんだか悲しいものだ。
「ん? なんだ、こりゃ?」
 適当にスレッドを流し見ていると見慣れぬ文章を発見し慌ててそこに戻す。
 そこにはたった一行、こう書かれていた。

 "AM0:00 2―4"

「はぁ? なんなんだこれ? 時間は分かるけど、後ろの奴はクラスか?」
 だとするならこれは恐らく今日の午前0時、2年4組ってことだけど……って。
「ここ、俺のクラスじゃん……」


午後11時40分。俺は高見沢高校の中にいた。侵入方法はいたって簡単なもので窓から入った。ここの警備員は大体サボりがちだ。この学校の付近に不審者がそんなに現れないからか、それとも元々なのかはさておき。
「さぁてとうとう侵入しちまったぞっと」
 正直小学校のころ以来だな。こうやって悪いことするのは。あのころは故意にしたこともあれば間違えてしたこともあるが。これは確実にやばいな。
 バレたらどうなるかなんて考えたくもない。自宅謹慎ならまだましか。そんなことよりさっさと目的地に着かなきゃ話にならない。うちの学校は4階建てで上から3年、2年、1年となっていて最後の1階は職員室や食堂となっている。図書室は2階だったか。つまり目的地は3階になるわけだ。
 付近を捜し近くにあった階段を慎重に上っていく。なるべく音を出さないよう、慎重に。
 それでも音はわずかながらも出てしまうものだ。乾いた靴の音がその狭い空間を反響しまるで耳元でなっているように錯覚してしまう。ひとつの足音がまるで何重にも……
「ッ!?」
 ふと、感じた。自分とは違う気配を。まるで誰かに見られているみたいなこの感覚。振り返ってみたけれど誰もいない。気のせいだきっと。きっと、そうに違いない。この状況下で思わず過敏に反応してしまっただけ。それだけのことだ。それ以上、何もないし、あるわけないんだ。
 そうこうしているとすでに目的の時間まであと10分を切っている。俺は不安に潰れそうになる気持ちをどうにか押さえつけて足を進めた。
 0時2分前。俺は自分の教室の前に立っている。ここで1つの疑問が浮かんだのだが、AM0:00とは書いてあったがその時間になる前に入ればいいのか、はたまたジャストに行けばいいのか。
 とりあえずジャストで入ってみよう。そう思ったのはまぁ、なんとなくなんだが。
「さて、1分前だぞ……」
 右腕につけている腕時計で時間を確認する。時間はきちんと合わせてきたので問題はないはず。
 30秒前、付近には誰もおらず俺1人。教室内にも誰かがいる気配はない。
 20秒前、こういうときの時間ってのはきっちりと一定のリズムを刻んでいるのになぜか長く感じられる。
 10秒前、さて、なんか緊張してきた。とか思っているうちにすでに6秒前だ。
 5秒前。
 4。
 3。
 2。
 1。
「突入……!」
 教室のドアに手をかけ、そして開く。
 まず最初に俺が目にしたのは眩いばかりの光。
 乳白色に包まれたその光景は直視することができないほどに。
「な、なんだよこれ……!?」
 瞼を閉じてもその輝きは俺の目に入り込もうとするので腕でかばっているとその光は徐々に衰え始め数秒もすると教室内には月光ばかりが残っていた。
「今の光は一体……というか誰か気付いたんじゃないか……?」
 そう思いしばらくの間教室内で息を潜めてみたが誰かが来る様子はない。幸運なのか、それとも……考えても仕方ないな。とにかくいきなり教室が発光するなど通常ありえないことだ。俺は今、非日常的な世界に片足を突っ込んでいる。今ならまだ素知らぬ振りをして帰ることもできるが。
「ここまで来て帰るなんて選択肢は当然ないぜ」
 周囲を見渡し教室を確認する。黒板に文字が書かれているとか机の位置がズレているとかそういった目立った変化はなさそうだ。このくらいで納得する俺ではないがな。
 とりあえず1人ずつ机を調べてみよう。まずは廊下側からだな。もし警備員とか来たとき見つかりにくいし逃げやすい。それとこのドアも開けておこう。すぐに逃げられる。
 俺は持ってきていた懐中電灯で机の上、中、下と順番に調べていく。ときどき中身が入れっぱなしの奴がいたが音が出るのでひとまず後回し。1つ1つ調べるのはそこまで時間がかからず気付けば最後の列にまで到達していた。この列には俺の席があるのだが、まさかな。
 窓側ということもあって月明かりのおかげで調べやすくなっている。しかしそれは俺の姿も確認しやすいということだ。なるべく早めに調べ終えなくてはなるまい。
 まず1つ目。くまなく調べるが何もない。ハズレのようだ。次、机の中に見てはいけないような気がする物品が入っていたがスルーしておこう。そして次なのだが。
「おい、ちょっと待て……これは何かの、冗談なのか?」
 だってそうだろう。俺の机の上に見慣れぬ物が置かれているのだから。心なしかそれは光っているようにも見える。手に取って観察してみるとどうやらパソコンに挿し込むUSBメモリーのようだ。
「なんだってこんな物」
 そのときだった。突如ガタリという音が聞こえてきたのだ。誰かがドアを開けようとしている。
反射的に俺は反対側の開けておいたもう1つのドアへと駆け、そして――――

「現在こうなっているんだよな……これがッ!」
 背後の人間から全力疾走で逃避行を続けているわけだが一向に距離は広がらない。むしろどんどん縮まっている。さっきからおかしい。おそらく俺を追っているのは用務員だろうが全員結構な年いってるはずだ。それなのになぜ追いつける。運動能力が平均しかない俺だがご老体に負ける気はしない。
「このままじゃ、追いつかれちまう、な……」
 何か手を考えないといけない。俺の本能が、脳が、痛いほどにガンガンと叫んでいる。「ツカマッテハイケナイ」と。
 しかし俺の手持ちは懐中電灯くらい。なんなら奴に投げつけて……駄目だ、立ち止まってる時間がないし外したら元も子もない。
 前方を見てみると階段があり、そばに何かがある。確かあの辺にあるのは、えぇと、消火器か!
 階段までさらに全力でダッシュした俺は消火器を手にとると消火器上部の安全栓を抜く。そのままノズルを奴の方に向け、レバーを握った。
 すでに2メートルほどの距離にいた奴に目掛け噴射される白い粉末。それと同時に階段を駆け下りていた。全ての景色がまるでランタンの炎のように揺らめいて、時間も、距離も、何もかもがわからなくなるほど走って。あとのことはよく覚えていない。気付いたときには俺は自分の家の前で呆然と突っ立っていた。
「……あ、家かここ……」
 上手く機能しない俺の頭をなんとか揺さぶり思考をはっきりさせる。
 ええと時間は、午前1時か……結構時間たってるもんだな。というか家族にバレたらヤバいな。
 あの親父普段はゆるいのにこういうときは怖いんだよな。それより恐ろしいのは母親の方だ。いつもニコニコしていて怒るところなんて一度も見たことないが不安なのはあの心配性だ。
 俺が以前高熱を出して寝込んだときなんか付きっ切りで看病してくれたんだが逆に困ったなあれにはほんと。三分に一回俺の頭に乗っている氷を取り替えて、かと思えばいきなり俺の服を脱がしにかかり汗を拭いたかと思えばいつのまにか俺の口の中にはおかゆが突っ込まれていたりする。
 そしてさらにいるんだな。俺の姉と妹。姉さんはまず間違いなく殴る。徹底的に殴る。そして説教。ある意味親父だ。そして親父より先に俊敏に行動に出る。危険である。妹はあたふたと慌てふためいてうろうろするだろうが時にはやりすぎる姉をとめてくれたりするので一番安全な方だ。
 とにかくこの家族に迫られるとこっちの命がない。リセットボタンがあるのなら押したくなるほどだ。そんなわけで俺は家を出たときよりもさらに慎重に扉を開けると家族が全員就寝していることを念入りに確かめるとそそくさと自分の部屋へと戻った。 
「ふいー……ミッション成功」
 このままベッドにダイブしたいところだがまだ俺には調べなくてはならないことがある。もちろんこのUSBメモリーの中身。俺の机の上にあったことも謎だしよくよく見てみるとこのメモリーには商品名が書かれていない。全面ブルーだ。好きな色ではあるが。
「とりあえずパソコンに挿し込んでみますか」
 パソコンにメモリーを挿し込み、起動する。なにやら読み込むような音がしているので壊れているものではないらしい。起動が終わり早速このメモリーの中身を拝見させてもらうとしよう。
 メモリーのアイコンをダブルクリック。新しいウィンドウが開きメモリーの中身が表示される。
 表示されたのはたった1つ。名前のない実行プログラム。これだけでも十分怪しいがなにより異質だったのはそのプログラムの容量にあった。
「5120テラバイト……?」
 おい。おかしいだろ。テラバイトっておかしいだろ。間違いなく一般家庭に使われることのないものだろこれは。大体ちょっと待て。なんでパソコンはフリーズしないんだよ。普通容量落ちするだろこんなもの。ありえないだろ普通……
「…………でも」
 不思議と、俺はそのプログラムを拒むことはできなかった。
 だって、このチャンスを逃してしまったらもう俺には非日常な世界は訪れないかもしれない。
 例えどんなに他人に馬鹿にされようが、例えどんなに愚かに見られようが。
 俺はこのチャンスを手放すことなんて、できない。
 興奮からか、恐怖からなのか。
 マウスを握りながらも震えているその右腕に、その人差し指に。
 力を、込めた。
「まぶし……」
 パソコンの画面から溢れ出す目が眩むほどのこの光。
「この光は……学校で見た、あの……」
 乳白色に煌く光は、俺の部屋一面を昼間以上に染め上げる。その光量の強さは俺の脳ですら真っ白にしようとしている。学校で見た光より長く、そして強く煌いている。意識が途絶えそうになる最後の瞬間、パソコンの画面に誰かが映っていたような気がした。


――――き……て……

ん?何か聞こえる?

――お――――て……

どうやら、誰かが俺に話し掛けているらしい。
とりあえず、目を開いて、それから誰なのか確認しよう。


「……起きて」
 さて、目を覚ましてみると俺は机の前にあるイスで気を失っていたことに気づいたが問題はそっちじゃない。
「目が、覚めた?」
 なんで俺の腹の上に小さな女の子が乗っているのかということだ。言っておくが俺にはそのような趣味は毛頭ないつもりだ。誘拐なんてなおさらだ。
「反応、ない」
  ぼーっとしていた思考回路を現実に向けると目の前の女の子が手を俺の顔にかざしていた。さて、そろそろ事情を聞いてもいいだろう。俺の頭も落ち着いたし。
「ああ悪い悪い。ちょっとごめんよ」
 というと俺は目の前の女の子を俺の腹部から床の上に下ろす。俺自身はそのままイスの向きをそっちの方向に向ける。うむ。こういうときは回転するイスが便利だ。
「それで、君は誰なんだ?」
 質問したいことは色々あるが女の子が答えやすいよう一つずつにする。混乱されても困るからな。
「……私はこの世界の自立的制御プログラムを担っている制御システム」
「……えーと、話がよく呑み込めないんだが……?」
 いきなり話が突飛しすぎて理解できん。なんだ?この世界に自立的制御プログラムってのは。全くをもって話が分からないぞ。
「単刀直入に言う。あなたが現在世界として認識しているこの空間は全て虚像、つまり幻」
 幻だと? 何を言ってやがるんだこの子は。今まで生きてきたが疑うようなことは何一つ起こってないぞ? 確かにこの子が怪しいというのは重々把握できることだが。
「この世界が偽物って……ことか?」
「そう」
 今まで生きてきたこの世界は偽り。虚空のもの。俺の家があって、街があって、県があって、国があって、地球があるこの世界は、幻?
「じゃあ何でこの世界は存在する!? 俺自身の胡蝶の夢とでも言うつもりなのか!」
「とにかく落ち着いて。今現在のこの場所の時刻は午前2時。他の住民が起床する危険がある」
「わ、悪い……そ、それでもう一度聞くがこの世界はどうして存在しているんだ?」
「この世界の正体。それは一人の科学者によって作られた仮想空間」
「仮想、空間? あの、たまに映画とかである現実と同じように体験できるっていう?」
「そう」
 確かに俺は非日常的な刺激を求めてはいたがここまで非現実的になるとにわかには信じがたい。というかそこまでのものを俺は望んでいたかどうか。後悔先に立たずとはこのことだろうか。
「とにかく説明する。聞いて」
 そして俺はこの子からこの世界についての説明を聞いた。この世界は仮想空間ということ。それを管理しているのは一人の科学者と政府が作り上げたスーパーコンピューターということ。それらを整備している人間は少なからずともいるということ。なぜこの世界が作られたかは知らないらしい。
 この仮想空間にアクセスしている人間は全員これらの事実を知らないということ。人間は卵型カプセルに入ってそこからアクセスしていること。
 そして
「この世界が崩壊する?」
「そう」
「どうしてだ? 一応管理してくれる人がいるんだろ?」
「現実世界で何か問題が発生したのか、元々この世界が内因していたのかは分からない」
 けど、と彼女は付け加え。
「とにかく問題が発生した。致命的な問題。メインシステムの異常」
「メインシステムの異常だと?」
「現在メインシステムは暴走を開始しようとしている。これは防ぐことができない事実」
「つまりその暴走によって世界が……崩壊する?」
「崩壊、そして消失する」
「それってヤバいんじゃ」
 そのとき、部屋のドアが何者かによって二度ほどノックされた。あくびも聞こえる。
「お兄ちゃんうるさいよぅ……まだ起きてるの~?」
 いかん。この声と言葉からして我が妹の亜美だ。今この場面を目撃されると大変な騒動になりそうだ。ここはやり過ごそう。
「ちょ、ちょっと隠れて……!」
「むぎゅ」
 とにかくこの女の子をどこに隠すか。迷っている時間はない。俺の目に付いたのはなかなかいい寝心地のご自慢ベッドであった。
「お兄ちゃん? 入るよー?」
 ガチャリと開かれたドアからそろそろと入ってくる亜美。目をごしごしとこすりながらやって来たあたり今まで眠っていたが俺の声で起きてしまったのだろう。とにかくここは平常心、平常心……
「お、おう。すまん起こしちまったか?」
「起こしちまったか、じゃないよもう……とにかく、早く寝ないとだめだよ?」
「分かってる分かってる。じゃ、おやすみ」
「うん。おやすみなさいお兄ちゃん」
 そういうと、亜美は俺の部屋から出て行き、隣の自分の部屋へと行ったようだ。ひとまず一安心というところか。そういえばベッドにほぼ強引気味に押し込めてしまったあの子を忘れるところだった。
「おっと、ごめん大丈夫だった?」
「暑苦しい……」
 毛布の中をのぞくと顔を紅潮とさせて息も多少荒げてしまっている女の子がそこにいた。というかよく考えると二人でベッドに入ってるわけで……って俺にはそんな趣味は断じてない。絶対。
 もそもそと毛布からはいずり出てぷはぁと息を吐き出す。緊急とはいえ悪いことしたな。
「いやー悪い。まさか俺の妹が起きるとは思わなくてな」
「……できればやらないでほしい」
「悪かった悪かった。で、さっきの話の続きだけど」
「暴走はもはやどうすることもできない。世界が崩壊するのは時間の問題と考えられる」
「それでだ。つながってくるんだろ? 君がなぜここにいるのかということに」
「あなたに頼みがある」
 そういうと、彼女はベッドから下り、窓を開け、ベランダに向かう。俺も当然その後ろをついていく。ベランダで二人きり。空からは月明かりが雲の間からこぼれ降り注ぐ。そしてその光を彼女の銀色の髪の毛が美しく反射していた。
「私に、力を貸してほしい」
 藍色の瞳が俺の顔をじっと見つめている。一見何も考えていないようにも見えるその瞳はまるで上から海を眺めるように透き通っていて、それでいて、深かった。
「……本当に、俺でいいのかい?」
「あなたは私のメッセージを受け取った。だから私は今この場所に存在している」
 だから私は協力を求めている。そう言う彼女の言葉に嘘偽りを感じることなどはなかった。
「分かった。俺が、協力してやる」
 はっきりいって不安だった。望みが叶った期待とか喜びの前に自分の胸の中を包み込んでいたのはそれだけだった。けど、ここで逃げることが許されるほど甘くないのは理解してるつもりだ。だって、俺はもうこの出来事に足を踏み入れてしまったのだから。

 この世界の真実を、知ってしまったのだから。


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