【魔O論】

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saraswati

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 昔々あるところに優しい魔法使いがいました。
 魔法使いは困った人を助ける心優しい人間でした。
 魔法使いは旅の途中にある村を訪れました。
 その村は一生懸命作った作物を強欲な豪商に安く買われていました。
 魔法使いは怒りました。
 魔法使いは豪商を懲らしめて村人から適正な価格で買うよう約束させました。
 魔法使いは今日も良いことをしました。
 村の作物が高く買われ村人は喜びました。
 そうすると豪商は暮らしていけないので売るものを値上げしました。
 すると人々はその豪商から物を買うことを止め商人は破産してしまいました。
 作物を買ってもらえなくなった村は更に貧困にあえぎました。
 しかし心優しい魔法使いは次の困っている人を見つけるためにすでに旅立っていました。
 魔法使いは旅の途中にある町を訪れました。
 その町ではある豪商からお金が納められなくなってそれを補うため役人が人々から高い税金を取っていました。
 魔法使いは憤りました。
 魔法使いは役人を懲らしめて税金を下げるように約束させました。
 魔法使いは今日も良いことをしました。
 役人に取られる税金が少なくなって町人は喜びました。
 そうすると役人は雇っていた兵士を減らしました。
 すると軍隊が弱くなったことを知った盗賊が攻めてきました。
 盗賊に襲われた町の人々は皆殺しになってしまいました。
 しかし心優しい魔法使いは次の困っている人を見つけるためにすでに旅立っていました。
 昔々あるところに優しい魔法使いがいました。
 魔法使いは困った人を助ける心優しい人間でした。
 魔法使いはいつも良いことをします。
 ある日魔法使いは後ろを振り返ってみました。
 するとそこには誰もいませんでした。
 誰の笑顔もありませんでした。


 では条約を締結しましょう、と老人が言いました。
 わたくしの王国は連邦との戦争を止め勇者様が必要とするときに惜しみなく協力をいたしましょう、と女王様が言いました。
 我が連邦は王国との戦争を止め勇者殿が困ったとき存分の支援をすることを約束しましょう、と大統領が言いました。
 女王様と大統領は手を握り合いました。
 ふと老人が漏らします。
 これも魔王のおかげかもしれませんな。
 皆が一様に黙り込んでしまいました。
 い、いやそういうつもりではなく。
 老人は慌てて弁明します。
 今日はこの喜ばしい出来事を祝いましょう。


 ある日突然魔王が現れました。
 魔王は残虐非道で人々を苦しめていました。
 人々は人間同士で争うことをやめました。
 人々は団結して魔王と闘うことにしたのです。


 勇者が町を歩いていました。
 町には困っている人々が溢れていました。
 これもかの魔王のせいです。
 魔王のせいで世界は混乱してしまいました。
 しかし人々は精一杯生きていました。
 どんな逆境にもめげることなく。
 酒を飲むばかりで働いていなかった男は町の人々を守るため兵士に志願しました。
 人々から奪うことばかり考えていた強欲な商人は私財を投げ打って人々を助けました。
 自分に自信がなかった女性は愛する人に告白をして小さな幸せを築きあげました。
 自分のことばかり考えて他人の事を顧みなかった貴族は人々のために立ち上がりました。
 勇者も町のならず者でした。
 力任せに暴力を振るう乱暴者でした。
 街中で恐れられ感謝されたことなどありませんでした。
 あるとき町に魔王の手下がやってきました。
 魔王が魔法で作り出した悪者です。
 勇者はそれが気に入らなかったので退治しました。
 するとどうでしょう。
 町の人々が勇者にお礼を言いました。
 勇者は初めてでした。
 感謝されたこともお礼を言われたことも。
 勇者は今までの自分が恥ずかしくなりました。
 そこで勇者は決意したのです。
 魔王を退治しようと。


 勇者は魔王の城に攻め込みました。
 勇者は王座にたどり着きました。
 そこにいたのは魔王です。
 勇者は必死に戦いました。
 最後の一撃です。
 勇者の剣が魔王を貫きました。
 魔王は笑いました。
 そして一言言いました。
 これが最後の呪いだと。
 暗雲に覆われていた空が晴れていきます。
 城が崩れだしました。
 勇者は振り返りました。
 魔王は満足そうに笑いました。
 次の瞬間には部屋は瓦礫に押しつぶされてしまいました。


 町に帰ってきた勇者は英雄となりました。
 人々は喜びを分かち合いま。
 仲の悪かった隣人と手を取り合います。
 勇者のおかげで世界は平和になりました。
 昔はいがみ合っていた国も魔王と言う脅威に団結し協力し合いました。
 自分さえよければ言いと考えていた人々は人を助けることを学びました。
 魔王の支配下では悲しいことや辛いこともたくさんありました。
 しかしこれからの世界は幸せで満ち溢れるでしょう。


 昔々あるところに優しい魔法使いがいました。
 魔法使いは困った人を助ける心優しい人間でした。
 魔法使いはわからなくなってしまいました。
 誰が誰が良いことをしていて誰が悪い事をしているのか。
 魔法使いは考えました。
 誰にとっても一目瞭然な悪が存在すれば誰にとっても一目瞭然な正義が存在するのだと。
 世界の悪を成敗するものが世界の正義なのだと。
 しかし誰にとっても一目瞭然な悪は存在しませんでした。
 世界に絶望した魔法使いは最後の呪文を唱えました。
 世界が幸せに溢れる呪いです。

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