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男が魔法使ってナニが悪いっ! 始まり






 気が付けば、全てが唐突に始まっていた。
 当然だと思っていた日常なんていうものはすごくちっぽけで。
 日常から、非日常へ。新しい当然へと前置き無しに投げ出されて。
 魔法――普通に人生を過ごしていれば決して出会うはずのない異能の力。
 日常であるはずの当然(ルール)を物壊して。
 それは、本当に唐突に。
 僕の前に、その姿を見せた。
 一人の、銀髪の天使の翼と共に、
「さあ、行きましょうユウキさん! 困ってる人々を守るんです!」
 傍らの彼女はそう、力強く宣言した。
 人の平和を壊す悪魔へと向かって。
 自分のわがままだけで人の心を利用してほくそ笑む敵へと向かって。
 そして、何よりも僕に向かって。
「……よし、行くぞ!」
 奇跡の杖を振り回しながら、僕は突撃した。
 当然だと思っていた日常を、
 みんなと過ごせる毎日を、
 誰かと笑っていられる奇跡を、
 守るために。




 そう、思い返せば――


 今までのことも――


 きっと、いつもと変わらない日常だったんだ――






「というわけでお願いしますユウキさん!」
 気が付けば、小さな女の子から頭を下げられていた。
「……いや、お願いって言われても」

 どうして、こんなことに?


 序章 "出会いの奇跡"


 その日の僕は至って普通で健全な帰宅部の男子高校生として起床した。
 朝起きれば学校に向かう。授業を受ける。昼食を食べて、また授業。そして帰宅する。細かいところが違うかもしれないがきっと世の中の高校生は大体こんな感じだと思う。
 けれども、その日の僕が至って普通で健全な帰宅部の男子高校生ではなくなったのは帰宅して夕食を食べたその後のことだった。
 母さんからの「ちょっとお父さんの部屋に置いといてくれる?」なんていう簡単なお使いからそれは始まっていたんだと思う。
 玄関に置いてあった父さんの荷物を、僕は部屋のある二階に行くために階段を上る。そして、部屋の前まで歩いてその扉を開ける。
 ここまでは特に問題はなかった。問題は、その次に目撃した光景で、そしてそれこそが僕が今置かれている状況の、始まり。
 父さんの部屋にはベランダがある。
 考古学者である父さんは気分転換のためによくベランダから星空を眺めていたのだと母さんから聞かされていた。そんな僕も父さんの部屋のベランダから時々星を眺めている。
 だから僕は、本当にただの気まぐれで、ちょっと星でも眺めようかと思ったのだ。
 本当に、ただそれだけだったはず。


「……いや、お願いって言われても」
 どうして、こんなことになってしまったんだろう。
 僕はただ母さんに頼まれて父さんの部屋に荷物を置きにきただけなのに。
 どうして、こんなことになってしまったんだろう。
 僕が過去を振り返ってから二度目の疑問を心の中でつぶやいた。
「いいですか? ユウキさんはこれから困っている人々を悪魔の手から救い出すんです!」
 すでに目の前の女の子の中では僕がとんでもないヒーローになることが決定事項らしい。
 僕は自分自身がどこかの変身ヒーローのようにポーズを決めるところを想像してみたけど、どう考えても頼りないヒーローしか思いつきそうにない。
「……あの、ちょっと気になったんだけど」
「はい! なんですか?」
「そもそも君って……何者?」
 問われた女の子は、これまでの話に夢中になりすぎていたらしく、たった今そういえば自分が名前を名乗っていないということに気が付いたようだった。
「あ、自己紹介が遅れました。私はエナといいます。天界では大天使セイラ様のお手伝いを――」
「えっと、ちょっと待って」
 聞き間違いでなければ色々聞きなれない単語ばかりが僕の脳内を飛び交っているのだけど。
 天界に、大天使なんて、本当にそんなことを――
「どうしました? ……あ、もしかして信じられないって思ってますね?」
 そういいながら少さな女の子――エナは今いるベランダから部屋の中にいる僕の方へと歩み寄ると、その顔をずいっと近づけてくる。彼女の銀色の髪が僕の顔にはらりとかかって、月光によって淡く光る。
 こうしてまじまじと見てみると、エナの顔は人間とは思えないくらい(人間ではないが)かわいい。よく整っている顔立ち。それでいて顔の一つ一つのパーツがエナのかわいらしさをそれとなくアピールする。特に彼女の青色の瞳は濁りのない澄んだ色で、僕の意識なんか全て包み込まれてしまうんじゃないかとさえ感じる。僕は危うくポワーっとしかけた意識を、彼女の顔から視線をはずすことでどうにか保たせた。
「い、いや、というか、君が登場する段階から普通とは思えなかったんだけど」
 エナから頭を下げられる三分ほど前。彼女は、まさしく文字通り"天から舞い降りて"きたのだ。
 背中の翼をふわりと広げながら降りてくるその姿は、誰がどう見ても"天使"だと口をそろえて言うだろう。
「普通じゃないって、それじゃまるで私が異常みたいじゃないですか!」
 ぷくっと頬を膨らませて怒りを示しているエナ。しかし残念ながら僕の世界の常識から考えればどう見たって"異常"そのものでしかないのだ。
「だって僕としては、その、天使とか悪魔っていうのは空想上の」
「そういう答えはすでに数千人以上が言っているとセイラ様がおっしゃっていましたのでナシです」
 今度は反対に僕の方が言葉をさえぎられてしまったようだ。それにしてもその大天使さまとやらはいちいち人の答えた回答を集計するほどに律儀な人――いや、天使なんだろうか。
「どうも人間の皆さんは神話とか伝承という類のものを、ただの物語だと思いになっているみたいですがそれは違うんです! 人というのはですねきちんと自分が見聞きして経験したものをちゃんと後の世界に伝えようとですね」
「わかったからストップ! ストップっ!」
 危なかった。エナのマシンガンのような言葉の数々に圧倒されてしまいそうだった。あのまま何もせずに講義を聴いていたら果たしてどうなっていたのか。
 とりあえず夜明けまで講義を聴いている僕の姿が目に浮かんだ。流石に寝不足の状態で明日学校に行きたくはない。まぁ、よくサボっている僕ではあるけど、それでも授業中に机へと顔面が吸い込まれてしまうのは避けたい。
「と、ともかく君が天使だっていうことも、その他のことも信じるから落ち着いて」
「むー……仕方ないですね。 では先ほど私がお願いしたことも、引き受けてくださるんですね?」
「え、あー、というかそもそもお願いって……何?」
「さっき私が説明したじゃないですか! ユウキさんって忘れっぽいんですか……?」
 彼女から心配されるような目で言われてしまった。しかし僕は人間なのだ。とんでもないもの、そう、たとえば空から舞い降りてくる天使なんていう一般的に考えて超常現象以外の何者でもないものを目撃した暁には放心するに決まってるじゃないか。
 言っておくけど、決してビビったとかそういうわけではなく、ちょっとポカンとなっただけ、そう本当にそれだけのことなのだ。
 そんなわけではっきりと覚えているのは、エナが頭を下げて「お願いします」と言ったとこだけで、お願いの内容なんていうものは、そもそも脳が認識していないのだから覚えろというのは無理がある。
「ごめん。あの時はよく聞いてなかったからもう一度説明してくれるかな?」
「本当に仕方がないですね……それでは、そんな忘れっぽいユウキさんのためにもう一度説明してあげます」
 別に僕が忘れっぽいわけではないのだが、いちいち反論していては収まりのつくものすら収まりがつかない。ただ、僕は不安だった。すでに天使に悪魔と非現実的な単語が飛び出している中、これ以上の物が出てこないと、いったい誰が保証する。だからといって神様に保証してもらっても困るけども。
 ともかく、ここは黙って話を聞くことにしよう。
「……単刀直入にお願いします、ユウキさん……」
 雰囲気が改まった。明らかにまじめな話をしようとする表情のそれだ。
 僕はどんな言葉が飛び出してもいいように覚悟を決めた、つもりだった。
 だけどそんな僕の努力も次に飛び出した言葉の前に物の数秒と立たずに崩壊するのだった。
「魔法少女になってくださいっ!!」
「えっと、ちょっと待って」
 聞き間違いでなければ聞き間違いであってほしい単語が僕の脳内を飛び交っているのだけど。
「お願いですユウキさん、魔法少女になって困っている人々を助けてください!」
 どうやら、どうしようもないくらいに現実らしい。現に目の前の彼女は先ほどの衝撃的過ぎる発言を取り消すことなく再度僕に向かってお願いを続けているのだから。
「いやいやいやいや!? だ、だっておかしいよ」
「え、何がおかしいんですか……?」
 キョトンと僕を見つめているエナの様子を見る限り自分の言ったことに特に間違いがあるとは思ってはいないらしい。だけどもこればっかりは色々間違いだらけとしか思えない。天界とやらで男が少女と呼ばれていたりとかしない限りは。
「あのね……そもそも魔法少女って、名前に"少女"ってあるんだから変だよ」
「え、あれ? そういえばおかしいですね……人間に説明するときは魔法少女といえば半数以上の方が理解してくださるとセイラ様がおっしゃって」
「うんOK。ちょっとそのセイラ様とやらに一言文句を言いたいんだけど」
 よかった。天使が住んでいる世界でも男女の概念は変わらないらしい。
 だけど人間の世界をどういう風に考えているんだよ天使っていうのは。確かに理解できるけど理解の仕方が偏りすぎにもほどがある。
「セイラ様に文句なんて……そんな、だ、駄目です! 絶対に駄目です!」
 そういう彼女の表情は、尊敬する大天使様に僕が文句を言うなんていけないことだ、というよりも。
そもそも僕が文句を言うことがとんでもないことになる、といった感じの表情だった。
「そんな必死にならなくても、そもそも冗談だし……それにこの場にはいないんだから大丈夫でしょ?」
 僕のその言葉を聞いても彼女はその小さな体をプルプルと震わせながらまだ僕に対して必死に説明をしてくる。
「ユ、ユウキさんはセイラ様を知らないからそう言えるのです……セイラ様は例え地の底であろうとも天界から見ているに違いないんです……ううう……」
 天界というのが僕たちの知っている天国なのかはわからないけど、セイラ様というのはとてつもない人なんだろうなきっと。
「大体、天使なんていう存在自体、初めて知ったわけなんだけど、そんなに怖いの?」 
「ああ……ううう……」
 虚ろな目線で、完全に恐怖の思い出へとトリップしてしまっている。プルプルがブルブルへとレベルアップした今、これ以上セイラ様とやらのことを聞くのは流石に人として駄目な気がする。
「お願いしますセイラ様……一週間お米だけなんて……せめて野菜を……」
 何か、悲惨ながらも突込みどころ満載な言葉が聞こえてきた気がするけど、ここは聞かなかったことにしよう。というか、天使もご飯食べるんだな。ひょっとしたら、天使っていう存在も僕ら人間と変わりないような生活をしているのかもしれない。あくまでも、生命活動においてのみだけども。
「ともかく魔法少女――いや、この場合は魔法使いか――って、具体的には何をするの?」
「……あ……そ、その前にこの世界について説明します!」
 頭をぶんぶん振るとそう前置きをして、彼女は語り始めた。もっとも、悲惨な思い出から立ち直ったというよりは心の奥底に追いやった、というような入り方な気がするけど。
「コホン。 まず、世界というのはユウキさんが現在認識しているこの世界だけではありません。 多くの世界が存在します。 この日本という場所でも"天国"に"地獄"と言ったものが古くから伝えられているように、人間ではないものが住んでいる世界が存在するのです。 天使や悪魔などは、ユウキさんで言うところの代表ですね」
 どうやら、パラレルワールドとかの平行世界ではなく、一つ一つの、独自の世界が広がっているらしい。そして、その例が天国や地獄といったもののようだ。
「そして、その中で私たち天使がいる世界は"天界"。 悪魔たちがいる世界は"地界"と言います」
「天界に、地界か……ところでそれって誰かが名前を決めたの?」
「ええと、確か古い書物の中でその呼び名が当然のように使われていたので今もそれを使っている、ということだったと思うんですけど、誰がいつそう使い始めたのかはわからないです」
 僕ら人間よりはるかに長生きそうな天使たちから古い書物、なんて聞くと数千年どころか数万年とかっていうとんでもない桁が出てきそうだ。
「へぇ……ところでそれって悪魔たちも同じようにそう呼んでいるの?」
「はい、そうですよ。 ちなみに、ユウキさんたちがいるこの世界は人間界と呼ばれていますね」
 天界、地界と来たからてっきりこの世界も僕の想像とは違ったものだろうと考えていたけど、意外にもこの世界の名前は単純に決められていた。ちょっとむなしい感じがする。
「他にも、多くの世界が存在するみたいですが今回のお話とは無関係なので省略しちゃいますね」
「……ねぇそれってひょっとしてメタ」
「それで、魔法使いについてなんですが」
 あっさりと、スルーされた。いや別にいいけどね。別にいいんだけどね?
 そんな僕ががっくりとしているのを無視してエナは話を進める。
「魔法使いの使命は一つ。この人間界にいる人々を悪魔たちから守ることです!」
「悪魔から、守る?」
「はい。悪魔たちは人の欲望を利用して人間の世界を混乱させて、しかもそれを楽しんでいるんです」
「人の欲望を利用する……それって、悪魔が誘惑するとか、そういうこと?」
「大体ユウキさんのイメージ通りでいいと思いますよ。もっと具体的にいうと人間に契約を迫るんですが……」
 契約か。きっと成立したらロクでもないことにしかならないんだろうな。
 一時はいい目を見るけど、後々に色々なツケが回ってきて契約した人が困る、そんなマンガをどこかで見たような気がする。
「ふぁ……ええと、それで、悪魔の誘惑から人々を守るために魔法使いが人間界から選ばれるんですけど……」
 あくびをしながら話し続けるエナは、どう考えても眠たそうにしか見えない。というか、天使も睡眠が……って、そんな場合じゃない。
「だ、大丈夫?」
「ふぁい……大丈夫ですよ……って、はれ?」
 そのとき、僕の予想外な出来事が起こった。そもそも、さっきから予想しきれる事態が何一つとして起こってはくれないのだけれど。
 エナの体が薄く光り始めた――と思っていると、光が徐々に消えていって、そして彼女の姿も目の前から消えていた。
 まるで、初めからそこには何もなかったのかのように。
「あれ? エ、エナ?」
 どれだけ僕が首を回そうとも、彼女の姿が見つかることはなかったし、彼女が現れることもなく、ただただ無駄な時間だけが過ぎていった。
「……夢?」
 だったら、どれだけマヌケな時間だろうか。大体、立ったまま寝るなんて特技は僕にはないわけだし。そんなはずはないんだけど。エナの話は明らかにまだ話半分の途中だったように思えるし、僕にもまだ聞きたいことはあった。そして何よりも。
「僕が、魔法使いに……」
 本当に、僕なんかが魔法使いになれるんだろうか。
 そう思っていると、家の中、それも階段の方から声が聞こえる。
「優希ー! ちょっと下まで降りてきてー!」
 母さんの声だ。一階から僕のことを呼んでいるらしい。
 僕は部屋のドアを開けると、階段に向かって大きな声でこう叫んだ。
「今行くよ!」
 部屋から出て階段へ向かおうとする僕。でも、どうしてもさっきまでのことが気になって、しばらく部屋の中を眺めていたけど二度目の母さんからの呼び声で僕はその場を後にした。
 結局、その後エナが現れることも、他の天使や悪魔が現れることもなく。
 今日この日、僕の"普通の高校生"としての日常はあっけなく崩壊し、そして、あっけなく修復しようとしていた。 
「……忘れようにも、忘れられそうにないや」
 僕のベッドにもぐりこんで、僕はいつもどおりの、一日の終わりを迎えたのだった。



 そして、これが。



 僕の"普通の高校生"の終わりで。




「おはようございますユウキさん、朝ですよっ!」





 僕の"普通の魔法使い"の始まりだった。





             ~男が魔法を使って、 ナニが悪いっ!!~ 

                  第一章 初めての奇跡


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