SINGULAR BLADES 歴史

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歴史・社会関連


※設定は随時作成・更新中のため、項目ごとに矛盾があったりします。

【特異点戦争~大喪失<グランド・フォーフェト>】

 いまや真相を知る者は一握りしかいない、神話と化した地球最後の戦争。
 A.D.2436、第一種自律知性“偶像占い師(イドロマンサー)”が起こした人類への叛逆が
発端とされる。地上の国家群と太陽系各地のコロニーが人類の危機に一致団結し、
イドロマンサーの生み出す知性化機械群に対抗、辛くも勝利を収めた。しかし最終作戦
“オペレーション・カーディナル・デイブレイク”のさなか、太陽にAI側の人工ブラックホール
弾頭が落下。これにより人類は、ブラックホールが太陽コアを崩壊させる前にその爆発半径から
逃れることを余儀なくされ、600年にわたる流浪の船団連邦時代が幕を開けた。
この一連の流れ、特に人類が地球を失い、総人口の半数以上を残して太陽系圏から逃げ出した
最終局面のことを“大喪失<グランド・フォーフェト>”と呼ぶ。
 人類文明は数百億の人命と故地を失い、文化や科学の水準も後退を強いられた。なにより
人々の中にテクノロジーへの恐怖が植え付けられ、その徹底管理が政治に求められた。
 しかし「なぜ幾重もの安全対策が施されていたはずの自律知性が創造主に反旗を翻したのか?」
など事件の真相については不明瞭な点が多く、それを追求することもいまとなっては許されない。
地球失陥こそは人類の新たなる原罪であり、連邦の支配を支えるテクノフォビアの源泉だからである。


【離散紀<ディアスポラージュ>】

 “大喪失”後、太陽系を脱出した播種船団が銀河系を彷徨しながら第二の故郷を探した時期。
定義については諸説あるが、主流説は「太陽系脱出から統一銀河連邦発足まで」としている。
語源は英語の「ディアスポラ・エイジ」だったと言われるが、現在では銀河標準語の
固有名詞となっており、「ディアスポラージュ」でひとつの単語である。


【情報評価会社】

 安価な超光速通信が存在しないため、恒星間以上の距離の主な通信は、リプレイサー・ドライブを
搭載した連絡船による情報記録媒体の運搬という原始的な手段で行われることとなった。
ここに銀河連邦の情報統制策が付け入る隙があり、各星系に入る船舶は物理的検疫のほか
積荷の情報検閲をも受けねばならない「情報アセスメント法」が定められた。

 しかし官営の情報監査機関は諸手続きに時間が掛かり、情報の鮮度が失われてしまう。
市民の不満を抑えるべく連邦政府は妥協し、情報の剪定を民間委託することにした。
膨大すぎる情報の中から有意な情報を選び取る作業は、この頃すでに一般市民にとっては
時間的・技術的に困難な行為となりつつあった。真に面白い映画はどれか。信用できる
政治コラムはどこの記事に載っているか。自分で苦労して情報を選り分け探すよりも、
金を払って専門家に任せた方が経済的である、との風潮が生まれた。ナノテク等の発展により、
人々がモノに金を使わなくなっていたという背景もある。

 情報の種類ごとに多数のエージェントが情報を精査し、様々な基準に従って整理。顧客の
必要と予算に応じて提供する。ここにいわゆる「情報屋」ビジネスの大衆需要が生まれ、
専門技能を持った個人向け・法人向け情報コンサルタントという組織的営利活動が台頭。
彼らは表社会の重要な経済構成単位となり、新しい形の情報サービス市場を形成した。
 情報の評価・値段が恣意的と看做されれば会社の信用は失われ、競争の中で自然と「良質な」
情報提供機関が残る。ある意味、他のあらゆる業種以上に苛烈な市場原理が働く場である。
市民間での情報共有が高速かつ流動的であるため、知名度を上げるだけでは生き残れない。

 情報アセスメント法によって細かく設けられた区分に従い、情報には値段が付けられる。
ランク0(最低ランク)の情報は星系ネットに公開され、公共の知的財産となる。
ランク1以上の情報は取得が有料となり、さらにランクが上がるにつれ社会貢献指数や
特定のライセンスといったステータスがアクセス条件に加わり、価格の相場も上がる。
5が最高ランクで、これは国家機密や「社会安定に著しい悪影響を及ぼす情報」が該当する。
このランクの情報は厳重に封印され、ごく一部の限られた人間しかデータベースへの
アクセスが許可されない。当然、売買は禁止されている。

 アセスメント法に引っ掛かる情報は非合法の業者が扱っており、彼らの背後には
連絡船を襲う宇宙海賊等との繋がりがあることも多い。しかし彼らを介してでなければ
手に入れられない真実もあり、こうした闇の情報屋を利用する顧客は後を絶たない。

[memo]
  • 地球時代における「格付会社」が、より広範な情報全般を評価対象とするようになった形態とも言える。当然、技管主義体制下ではアルゴリズムに丸投げもできないので、人海戦術による莫大な雇用が生まれている。
(誰がその人件費を出しているのか? という点は要検討。情報に金を出す無数の消費者たちが財源となるか? 優良情報は有料、という価値観が当然になった世界……可能なのだろうか)
参考:格付会社(wiki)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%BC%E4%BB%98%E3%81%91%E6%A9%9F%E9%96%A2


【孤絶文明圏】

 地球圏は最盛期に1000億の人口を抱えたが、“特異点戦争”の直後(太陽系を脱出した当初)
には200億まで減少し、さらに船団内部での権力闘争や方針の違いによる分離・分裂を繰り返した
結果、統一銀河連邦発足の暁には100億まで減じていた。分離した旧船団の人々は多くが
宇宙の闇に消えたと考えられていたが、生き延びて後に文明を再興し得た勢力も存在する。

 それらの独立発展した文明圏も、1000年の連邦時代の中で次第に再発見と併合
(この過程で数々の血塗られた戦いがあったことは言うまでもない)が推し進められ、
大半が連邦の構成国なり自治区なりに組み入れられた。のち反連邦運動の高まりによって
既知の人類文明圏は再び分裂するが、一方で船団離脱以後現在まで再発見されないまま
独自の文明を育てている星系・コロニー群・移民船団なども存在する。これを「孤絶文明圏」という。

 どうしようもなく技術レベルが退行している文明もあれば、危険な技術を再び
手にしている文明も、あるいは理解を絶する異形の社会を築いている世界もある。
 連邦はこれらを発見した場合、所定の手順に従って調査を行い、危険性なしとすれば
友好的にコンタクトを図る。危険性ありの場合はいくつかの段階に対応が分かれ、秘密裏の
工作による危険性の排除から、恫喝、武力介入、最悪の場合は即時殲滅すらも選択肢にある。
(最悪の場合=技術的特異点の発生が回避不可能、または既に始まってしまい事態が進行中)


【擬古主義<レトロリカーレンシズム>】

 演劇的復古主義ともいう。過去の時代のライフスタイルを真似て暮らし、選択的停滞を
維持することで、テクノ・シンギュラリティ発生の危険をより小さくできるという考え方。

 宗教じみた迷信的思想だが、離散期の前半にネットを介して爆発的流行となり、ついには
播種船団の分裂を引き起こした。孤絶文明圏に古代~近世頃と似た文化様式が
しばしば見受けられるのは、擬古主義者たちのコロニーが起源となっているケースが割合として多いため。
(ただし一部は擬古主義と関係なく、本当にかつての文明が衰退し、暗黒時代を迎えている)

 銀河連邦の支配が確立した現在でも根強い信奉者が多く存在しており、彼らの手で
過去の時代を模したコロニーが辺境の惑星などに築かれている。連邦も擬古主義に関しては寛容だが、
これは過去への回帰を志向する運動が連邦のテクノロジー管理ドクトリンにとっても
都合よく働くためであるに過ぎない。連邦の体制を否定してまで全人類を過去に回帰させようと
企む極右原理主義者などは当然危険と看做され、CJPO(連邦統合治安維持機構)の摘発対象になる。

 モデルとする時代は古代から近世まで幅広いが、産業革命以後の時代が選ばれることは
ほとんどない。あったとしても電気機械が発達せず、蒸気機関が使用され続けているなど
現実の歴史とは異なる技術体系を再構築していることが多い。彼らの試みはまさしく、
過ちゆえに故郷を失った人類の歴史をたどり直し、正しい道を模索する贖罪の行為でもある。


【技術管制主義<テクノコントロリズム>】

 統一銀河連邦を律する、現代の覇権的イデオロギー。テクノロジーは高度な専門知識と
強固な倫理規範を併せ持った一部の人間のみが管理すべきであり、一般大衆はただ消費者として
その恩恵を享受していればよいとする思想。テクノクラシーと衆愚政治の結合に他ならないが、
特筆すべきは連邦市民がこれを積極的に肯定している点にある。民主主義の頽廃が行き着く
ところまで行った結果としての衆愚化ではなく、大衆自らが愚民となることを望んだのである。
 もちろんそのような文明的後退を人類に決断せしめたのは“特異点戦争”であり、
ありていに言えば人々はテクノロジーとそのもたらす可能性に芯から怯えきっていた。
発明の歴史は人間の能力の外部化に尽きる。技術の発展がいずれは知性すらも創造するのが
文明進化の必然であるなら、人間は未来に滅ぼされないために強固な自律を身につけねばならない。
安全な技術だけを公共化する。危険な技術は封印するか、専門家だけが掌管する。そうして
テクノロジーの自走性を制御し、人民支配のツールとして、また大義として利用する。
CJPO(連邦統合治安維持機構)はこの政治思想を体現するための暴力装置であり、
禁制テクノロジーの許可なき「開発・取引・所持・使用」に対し容赦なく弾圧を加える。


【技術管制法群】

 連邦の技管主義を支える、テクノロジーに関する各種規制を定めた法律・条例等の総称。
代表的なものとして人工知能の知的レベルを制限した知性災害対策関連法(モラヴェック法)、
技術災害のカテゴライズと対応を策定したテクノハザード対策法、自己複製機械全般の
倫理ガイドラインを定めたエメット憲章などが挙げられる。


【禁制技術<フォービドゥン・テクノロジー>】

 技術管制法群によって開発・取引・所持・使用を制限された技術体系の総称。
第一種から第三種まで(+秘匿された第零種)の等級に区分されており、大分類は以下の通り。

  • 第一種→使用だけでなく存在そのものが禁じられる。単純所持、売買、研究も違法。

  • 第二種→所定の審査に基づく許可がある場合に限り使用及び所持が可能。貸与も厳禁。

  • 第三種→特別な審査はないが申請が必要。当該技術とその産物について、常に当局が所在を把握していなければならない。


【投影主義(プロジェクタンティズム)】

 投影人(プロジェクタント)たちの生活様式が体系化され、思想の域にまで高められたもの。
サイバースペースに国家を建設しようとするなど、政治的運動に結び付くこともある。
 彼らの中期目標は精神のアップロードによる物理肉体の放棄であるが、これは技術管制法群が定める
第一種禁制技術(悪性特異点などのインテリジェント・ハザードを引き起こす可能性がある技術)
に該当するため、統一銀河連邦は投影主義をテロ肯定の危険思想として弾圧している。当然の帰結として
彼らは非合法コミュニティや反連邦組織に流れており、本物のテクノ犯罪者となるケースも多い。
 余談ながら、銀歴400年代の禁書に『プロジェクタンティズムの倫理と技術管制主義の精神』
というものがある。マックス・ウェーバー著『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』が
パロディ元であることは言うまでもない。


【拝速教<ヴェロシティズム>】

 “速度”を信仰する教団。詳細不明。


【ルシファー・モデル】

 人間の知的能力を過剰に強化するため、危険であるとして規制される違法規格の
補助脳のうち、史上最強にして最悪と名高いパッケージ。正式名称は23桁の型番だが、
現在はもっぱら通称の“ルシファー・モデル”で呼ばれる。

 補助脳としての純粋なカタログスペックは、通常の市販モデルとさほど変わらない。
ただし自己拡張機能のリミッターがきわめて弱く、工業基準で認められている“必要最低限度”
(成長や細胞代謝に合わせる程度)のレベルを大きく超えた性能へと自ら進化してゆく。
違法規格の補助脳はたいてい性能に関する法定制限を守らないために違法とされているのだが、
ルシファー・モデルの場合は脳のみならず全身の細胞をリファクタリングしようとする点で
補助脳本来の役割からの逸脱ぶりも群を抜いている。強化した脳に合わせ、人体を全的に
改造しようとするこのパッケージは、もはや補助脳の枠には納まらないという意見もある。

 しかし、脳以外の部位まで強化しようとする補助脳が他になかったわけではない。
 ルシファー・モデルが他の違法規格補助脳と比べて桁違いに危険であったのは、
ユーザーの生体脳が示す知覚入力-反応出力パターンマップを記憶し、蓄積し、
やがて生体脳の機能を代替できるほどに装用者のパーソナリティを学習してゆく
人格バックアップ機能のためである。極端な話、充分に生体脳の入出力パターンを
学習したルシファー・モデルがあれば、装用者の生体脳が機能停止した後でも
補助脳が他人に区別できないレベルで元通りの人間を演じ続けることができる。

 人間と区別不可能な知的能力を有するコンピュータ・デバイスというのは、
控えめに見積もっても第一種知性構造物に他ならず、いつ超シンギュラリティ級AIへの
変異を遂げてもおかしくない潜在的知性災害である。そのような可能性を誰にでも
与えうることから、ルシファー・モデルは「開発・取引・所持・使用」のすべてが許されない
第一種禁制技術――すなわち存在そのものを禁じられた技術の対象物品に指定されている。

 現在までに、製造が確認されたルシファー・モデルの大半は発見済みである。
未開封のパッケージが8包、展開済の補助脳を持つ人間が4人。いずれも処分され、現存しない。
しかし残り3包については、装用者を捕えられていないものが1、所在不明が2となっており、
不明2のうち一方は革命家ニコラス・ノースクリフが使用しているのではないかと噂される。


【企業再編紛争】

 〈離散紀〉初期に企業間で戦われた権力闘争。新技術の開発が制限され、
他業種の既存技術を取り入れることが最も手早い躍進の手段だった時代。
企業たちは、技術資産と人材を巡る暗黒のゼロサムゲームの中で離合集散を繰り返し、
蠱毒の如く喰らい合った。そうして勝ち残った一握りの企業体が、のちに
禁制技術の管理者たる銀河貴族として人類を支配することになる。


【ハロルド禍】

 かつて辺境の星系国家・フォルグ星圏で発生した、統一銀河連邦史上最悪のナノマシン・ハザード。
 直接被害で七億、関連死も含めれば十億人以上の死者を出し、星圏を一度は滅ぼしたとさえ評される
壮絶な技術災害(テクノハザード)である。

 死への病的な恐怖に取り憑かれ、不死を求めてナノバイオテクノロジーの研究に没頭した
離散紀のマッドサイエンティスト、ハロルド・ヘンリックス。彼が最後に開発した
〈帰界光輪(ハロウ・ワールド)〉と呼ばれる無認可ナノマシンは、感染者の遺伝子構造を
強制的に書き替え、ハロルドその人の複製体とする人造病原であった。
 ハロルド本人の記憶や意識が蘇るわけではなく、不死の研究は失敗に終わったと考えられた。
ともに子を成し育てるパートナーは得られず、それでも己の遺伝子と形質だけは後世に残そうとする
孤独な男の妄念が、このようなおぞましい分子兵器を産み出してしまったのだと。

 500年の昔に一度は根絶されたはずの生体分子災害であるが、フォルグ星圏の片隅にある
惑星カーゼルのレーンシウム鉱床で、外星系から持ち込まれた〈帰界光輪〉原株の一粒が拡散。
カーゼル周辺は瞬く間に、生きながらハロルドへと作り変えられる人間たちの阿鼻叫喚で満たされた。
ろくな防疫措置もとれぬまま、医療の助けを求めた感染者たちが主星方面へと流れ出し、
ほどなく星圏全体が、寄生増殖型分子兵器の惑星間エピデミックという未曽有の地獄に叩き込まれた。

[memo]
  • 〈帰界光輪〉が指定感染症に登録されたのは“ハロルド禍”がきっかけ。その前は大きな被害が出たこともなかったため、単に禁制技術のひとつとして公共データベースとハロルド摘発当時のわずかな文献に名が残るのみであった。


【エシュアの歪廊】

 超空間転移航路“エシュアの歪廊”は、元々の名を“エッシャー・ルート”という。
「遠く離れた空間をエッシャーの騙し絵のように重ね合わせることで、二点間の距離をゼロにする」
という、縮天航法の理論概説モデルから呼ばれるようになった名である。
 しかし人々は、“エッシャー・ルート”の由来たる遥か遠き地球時代の画家の名を次第に忘れていき、
いつしか高次空間を貫く超常の航路の名も、銀河標準語ふうに変形していった。
 エシュアとはエッシャーの銀河標準語的な発音である。


【銀河貴族】

 統一銀河連邦政府により禁制技術の管理権限を認められた家系、及びそこに属する人間の通称。
この場合の家系とは、必ずしも遺伝的な繋がりを持つ“血統”とは限らず、むしろ技術管理権限を
継承していくために運営される、多分に人工的な“家族型組織”であることが少なくない。
(遺伝形質の代わりに、家紋としての人工形質を継承していく文化はある)

 巷間では単に「権力者の一族」とか「ものすごい金持ち」程度の意味合いで用いられることもあるが、
本来は単なる資産家や地主を指す言葉ではなく、テクノロジーの囲い込みを推し進める
星間企業体群の経営者一族を皮肉る蔑称であった。
 原義に従えば、なんら利権を生まない無用の禁制技術であっても、その管理者は銀河貴族ということになる。
ゆえに、同じ銀河貴族であっても、その経済力や実際の社会的地位は
掌管する禁制技術の質と量に応じて、上位から下位まで天地ほどの開きがある。

 微小機械技術や真空分極機関、重力工学など、強大な禁制技術を保有する家系は
大多数が星間企業を経営し、自家が独占管理する技術を事業に活かしている。
こうした銀河規模の影響力を持つ最上位管理者家系を、とくに“上級貴族”などと呼び習わすところもある。
この場合は影響力が減ずるにつれて、中級、下級などの分類も派生的に付随することが多い。


【統一銀河連邦における司法の腐敗】

 統一銀河連邦は犯罪者にきわめて厳しい国家である、と言える。
 〈特異点戦争〉における人類滅亡の危難と、それを避けるべく太陽系圏を捨てて逃げ出した
〈大喪失〉の歴史は、残存人類に集団的な自信喪失をもたらした。人類という種全体が、
いわば一般化された人間不信を共有していたのである。

 その種族的トラウマから生まれた新たな社会は、人間それ自体の尊重を否定し、
基本的人権すら国家が管理する、恐るべき文明の精神退行を是認した。
 そうして築かれた統一銀河連邦が、人権の剥奪という権能を最大限に振るった相手こそ、
自ら定めた法の外にある者たち――犯罪者であった。
 法に背く者、これ法の庇護を受けず。かつて地球にあった平和喪失刑の類が、
形を変えて復活したようなものである。ただし人権を取り上げられた犯罪者たちは、
そのまま荒野へ放り出されるのではなく、資源として消費される運命を辿った。

 脱走・反逆防止の処置を施され、危険な戦地へ特攻兵として送られる者。
 治験段階にない未認可薬の先行人体実験に供された者。
 技術的・コスト的問題で自動化できぬような、過酷な肉体労働に回された者。
 精神工学で人格を破壊され、権力者の玩具に作り変えられた者。

 更生より懲罰を。社会復帰より永久隔離を。かく望んだのは大衆に他ならない。
 だが、法が絶対の正義となったわけでもない。裁判すらも、やがてエンターテインメントと化した。
たとえ罪状に対する法定刑が軽くとも、世間の憎悪を集めるような犯人であれば、
司法関係者の保身や功名心によって量刑が上乗せされることは珍しくなかった。
 人々がそれを期待し、支持したからだ。罪を憎まず人を憎む、その快楽が民を堕落させた。
 やむを得ない事情、否応なく巻き込まれる事件、あるいは冤罪によって、
自分が明日の犯罪者となるかもしれぬ。市民はその可能性から目を背け、
既に法の庇護を失った者たちを「悪」と指弾することで、己の善性を信じようとした。
善良なる羊である限り、平穏に過ごせる――という夢の中に生きた。

 歪みを生まないはずがない。
 公正を、人がただ人たるにて持つ権利を、求める者の絶えるはずはない。
 結局のところ、犯罪者を非差別階級として積極利用する政策が育てたのは、衆愚であった。
愚民に墜ちるを善しとせぬ人間の一部は、反連邦の旗のもとに集い、永く断続的に続く
革命闘争の火へと自らを投げ入れていった。また別の一部は、腐れた法に守られる己を
自嘲によって慰撫しながら、諦めの日々を生きた。
 統一銀河連邦発足より千余年。法の正義は壟断されて久しく、火種は絶えない。


【量子鉱山】

 正式名称は「特定暗号資源生成確率隆起座標」。「量子鉱山」は俗称である。
 現在唯一実用化されている超光速通信に不可欠な量子ビット資源、“ジェム”の採掘に適する座標域。
鉱山とは言っても、惑星や小天体から物理的な鉱物資源を採掘するわけではなく、計算機を稼働させて
一種の暗号資源をマイニングするための場所である。領域自体は何もない宇宙空間であることが多い。

 暗号資源の採掘に適するとはどういうことか?
 原理的には現在まで解明されていないが、そこで暗号採掘を行うと算出成功率に明らかなプラスの
確率偏差が見られる――というのが、量子鉱山の実用的な意義である。ダークマターや次元暗礁の分布と
何らかの関係があるのではないかと予測されているが、統計的に有意な対照性があるわけではなく、
観測結果と矛盾しない因果関係を導き出し得た理論モデルは現在まで生まれていない。

 判明している事実として、確率隆起はジェムなどの特異量子束を取り出すほど小さくなり、
やがては「資源を掘り尽くして」通常の空間座標と変わらなくなる。恒星系規模の大鉱山ともなれば
今後数百年は掘り尽くされないと言われているが、それとて有限には違いない。

 量子鉱山は実体ある鉱脈と同様の巨大な利権の塊であり、しばしば星間国家や企業による
熾烈な争奪戦の舞台ともなる。近傍にはたいてい採掘サーバーの運営に係わる技師などが
住まいを構える鉱山街が拓かれており、家族ともども生活している世帯とて少なくないが、
前述の理由による紛争リスクの高さから、いわゆる富裕層が在住していることは稀である。

[memo]
  • 「ジェム」の由来は、エンタングル状態に置かれた一対の“双子”量子ビットを利用することから、「ジェミニ(双子座)」と「宝石(ジェム)」のダブルミーニングであるという。

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