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*うる物語 -本編前のうる赴任編だよ。うるの性格生かしきれてないよ!!!  太陽の光を受けて煌めく海面を眼下に眺めながら、鳳うるは緊張と不安が綯い交ぜになった気持ちをどうにか整理しようと努めた。  この春に大学を卒業し、無事就職が決まった学校に本日付けで赴任することになった。その道中が今なのだが……。 (ヘリで出勤なんて、世界広しといえどそうそう居ないんじゃない?)  赴任先の学校は、人工電脳島にあるのだという。ある、というよりは、学校のために島があるというべきか。兎に角、学校の施設や学生の住環境など全てが島の中に設けられているのだという。  学校案内パンフレットによれば、生徒総数3000人前後。生徒主体による学校運営が売りなのだという。人工電脳島という名の通りハイテク関連の最先端を行く環境が整えられており、世界的にも高い注目を集めているらしい。 (そんなところでやっていけるのかしら……)  このご時世、ストレートに教職に就けたのは幸いと二つ返事でやってきたものの、新しい生活についての不安は尽きない。  教師になる、という実感が未だに無いのもそのせいなのだろうが、ただでさえ閉鎖されている領域と言われる学校分野の、物理的にも閉鎖的環境でやっていけるのか……。  単調なプロペラの音とどこまでも続く海面を眺めていると、だんだん現実味が遠くなっていく。  赴任が決まってから癖になってしまった溜息を付いた時、パイロットが振り返って次げた。 「ほら、あそこですよ。もうすぐ着きます」  示された前方を見やると、確かに島が見えた。  人工電脳島、などという名前から近未来的な様相を想像していたが、意外にも緑が多く、島を縁取るように囲んでいる。島の中央にあるのが学校関連の棟だろうか。少し隆起した箇所に作られた施設はこちらは想像通りの近代的な建物で、光を反射して輝いているように見える。そして少し下った位置にあるのが、学生のために用意された生活のための施設……つまり、街までセットになっているようだった。 「島と聞いて、何も無いところだと思ってるかもしれませんが、生活するのに困りませんよ。学生さんだけじゃなく、その生活を支える大人だっていますからね」  うるの溜息を閉鎖環境への憂いととったのか、パイロットは元気付けるように陽気に言った。 「ええ……思ってたより開放的ですね」  ヘリがゆっくり降下していく。  もうこうなったら肚を括るしかない。  うるは、丹田に力をこめて、ゆっくりと息を吐き出した。  ヘリを降りると、執事を思わせる懐古的衣装に身をつつんだ男性が、恭しく頭を下げてうるを迎えた。 「お待ちしておりました。鳳うる様ですね」 「あ……はい……」  クラシカルな装いに驚くうるの手から荷物を受けとり、スムーズに歩を促す彼に従って歩き出す。  白く、清潔で、真新しい感じの空間を抜け、扉を一つ開いた途端、青々とした竹林が姿を表し、うるの脳は次々に与えられる刺激に痺れたようになってきた。 「うる様の御担当は何の教科でございますか?」 「え……ああ、国語を……」 「左様でございますか。古典と現代文、専攻はどちらを?」 「古典を」  玉砂利が敷かれた小径の飛び石を伝いながら、老紳士と他愛もない会話を続けながら進む。  竹の葉がザワザワと鳴ることを考えると外なのだろうと思うが、暑さも寒さも感じない。そのことが、うるを更に現実から遠のかせるようだった。  小径を進んだ先に東屋が見えると、紳士は立ち止まりにこやかな笑顔を浮べて浅く頭を下げ「どうぞ、あちらへ」と、ここから先はうる一人で進むように示した。  あそこに誰かが待っている、ということなのだろう。  うるは、礼を述べると東屋へと歩を進めた。  サワサワと竹の葉が鳴る音以外は、自分の足音しか聞こえない。  こんな静けさはいつぶりだろうか……と思いを馳せているうちに、目的場所へ到着する。 「ようこそおいでくださいました。遠路、お疲れになったでしょう」  うるが東屋に足を踏み入れると、金髪に和装という、違和感を覚える出で立ちの人物がやんわりとした微笑みを浮かべて迎えてくれた。  腰かけるように促すと、テーブルの上の竹細工の籠から、おしぼりとお茶のセットを出し、うるの前に揃えながら、言った。 「ワタクシは校長を務めさせていただいている、月水とも、と申します」 「本日付けでこちらに赴任となりました、鳳うるです」  反射的に挨拶してから、相手の言葉を反芻し、うるは思わず立ちあがった。 「あ……校長先生というと……こちらの……」 「はい。不束者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」  深々と頭を下げられ、うるも負けじと頭を下げる。 (まさか……この人が校長だなんて……)  こんな独特の立地や校風の私立校の校長たる人物が、こんな嫋やかな雰囲気だとは夢にも思っていなかった。  もっと切れ者然とした人物か、成金趣味まるだしか、はたまた社会的貢献を声高に叫ぶような理想主義者か……そんなイメージを思い描いていただけに、目の前の人物とのギャップがとても激しい。 「ふふふ。そんなに緊張なさらないで。ワタクシ、本当に名前だけですから」  再度座るように促され、力が抜けたように座りこむ。  ともが茶に口をつけるのを見て、つられて茶碗を取るが、そういえば先程校長自ら茶を煎れていたことを思い出し、居心地の悪さを感じながら一口含んだ。 「お手紙にも書きましたように、うる先生には高等部の授業を受けもって貰いたいと思っています」  のんびりとした口調で、ともが言うのに、うるは「はい」と応じる。 「それと……顧問をしていただきたいのです」 「顧問? と言いますと、部活動のですか?」  新米教師には部活動の顧問を受け持たせることが多いというのは、教師になるなら誰でも聞いたことがある話だ。  部活動についての手当ては雀の涙ほどだというのに、責任は重いし、激務だし、休日も何も無くなるのだから、当然情熱が無ければやりたくないものなために、少しでも心得のある新米教師が来たならば、何がなんでも押しつけようという傾向があると聞く。  うるもその心積もりはあったので、それほど驚く話ではなかったが、校長は「いいえ」と想像とは違った言葉を口にした。 「部活動の顧問じゃないのですか?」 「近しいけれど、部活動とは違います」  では何だろう、と、うるは心中で首を傾げる。 「とは言いましても、面接の結果、ということになるのですが」 「面接ですか」 「はい」  多くの学生が集う隔離された空間では、教師という役割の他に何かせねばならない職務がある、ということなのだろうか……。 「もう暫くしたら、本人がここに来ますので、それまでワタクシのお喋りに付き合ってくださいませんか」  世間知らずの箱入り的な雰囲気に面喰いながら、うるは「もちろんです」と笑顔で応じた。 -こっから追加分ですだ 「校長」 「お待ちしていました。どうぞ、こちらに」  ともに求められるまま、大学での生活、一人暮らしの様子、棲んでいた土地のことなどを話しているうちに、面接官が来たらしい。  就職面接などで散々面接をしてきたとはいえ、やはりいつも緊張する。 「こちらが本日付けで赴任された、鳳うる先生」 「はじめまして、宜くお願いします」 「はじめまして。高等部2年の群咲です」  高等部2年ということは、高校2年生……つまり、教え子になるかもしれない人物だということだ。  顔を上げてみれば、確かに若い。  耳には複数個のピアスが見られるし、パンクファッションに近しい出で立ちからは、所謂模範生というものでは無い雰囲気が漂っている。  それでも、眼差しの強さなどは、教育実習で行った先の高校生とは違い、鋭く、真っ直ぐに射貫く輝きに満ちている。  考えてみればそれもそのはずで、幾つでこの地を踏んだのかは知らないが、親元を離れて生活し、学ぼうという姿勢でこの学園にいるのだ。唯諾々と「とりあえず、高校には行かないといけないから」と思っている生徒たちとは当然ながら気持ちがまるで違うのだろう。 「突然ですが、うる先生は過去にUFOを見たことがあるそうですね」 「え、ええ」  どこからそんな情報を得たのか、思いもしなかった質問に、うるはまたも面喰う。 「では、UFOの存在などには肯定的ですか?」 「肯定的と言うよりは、見たからには存在するのだと思っています」 「なるほど」  どこか挑戦的な笑みを浮べて群咲は続ける。 「それでは、幽霊といった類はどうですか?」 「幽霊ですか?」 「そうです」 「見たことはありませんけど、存在すると思います」 「そうですか。ちょっと失礼します」  そう言うと、ともに「彼女と話をしていてください」と、携帯端末のようなものを操作し始める。 「あの……」 「我が校は、学生が主体で動いている、というのはご存知ですわね」  新しい茶を準備しながら、ともが言う。 「ですので、顧問の決定権なども彼らに任せられているのです。それだけじゃなく、カリキュラムについてなども必修時間を守った上で自分たちで組むことになっています」  確かにパンフレットには「学生主体」と書かれていたが、そこまでの権利の行使が可能だとは思ってもみなかった。  しかし、権利を行使するということは、その責任も背負うということになる。  そう言うと、ともは深く頷く。 「彼らを見守り、相談に乗り、良きアドバイザとしてサポートしていく……彼らが安心して選択して行けるようにすることが、ワタクシたちの責務になりますね」  儚げにも見える風貌からは伺い知れない、しっかりとした芯のある力強い言葉に、うるはともの底力を垣間見た気持ちになった。  大学を出たばかりのうるから見ても、無垢に見えるともだからこそ、瑣末な問題に左右されず本質を守っていけるのかもしれない。 「ただ教えるだけの立場というのではありませんから、何かと大変だとは思いますが、うる先生なら大丈夫だと、ワタクシは信じております」  春の日の日溜まりのような微笑みに、うるは気持ちが和むのを感じた。  やっていけるのだろうか、という不安はいつの間にか解されて、今ではやっていこうという気持ちになっている。  校長という肩書は伊達では無いということなのだろう。 「うる先生」  呼びかけに視線を移すと、群咲が高校生らしい真っ直ぐな眼差しで見詰めてくる。 「我々、防衛隊は貴方に顧問を依頼したいと思います」 「防衛隊……?」 「まあ、部活動のようなものだと思っていただければ構いません。活動内容が少々特殊で、公的には存在しないことになっていますが」  群咲の言っていることが理解できず、困惑した顔を向けると、その反応は当然だと言うように頷いて、両手をテーブルの上で組むと少し考えを巡らせてから口を開いた。 「簡単に言うと、学校内に流れる噂の調査です。噂の質が少々特殊なんですが……うる先生の学校にもあったでしょう、七不思議」 「七不思議って、誰もいない音楽室からピアノの音が……という?」 「その類の噂調査をする、というのが活動内容なんです」  なんと答えたものかと思っているうるの心中を察してか、群咲は「うる先生から見たら稚気に溢れた遊びに見えるでしょう」と苦笑いを浮かべた。 「噂を調べる主な理由はそういうわけですが、まあ、何かと様々な情報に長けることですから、そう馬鹿にしたものでもありませんよ」 「あ、いえ、馬鹿にはしてないけど……あの、どうして『公的には存在しない』ことに?」 「誰だって自分の軽口を調べられるのは面白く無いでしょう。そういう要素を孕んでる活動内容ですし……オカルト的な不安要素を拡大させない、というのが目的でもありますからね。秘密裏に処理できれば、それに越したことはない」  先輩の受け売りですけどね、と肩を竦める群咲が、突然子どもっぽく見えて、うるは内心でほっとした。 「我々としては是非うる先生に顧問をしていただきたいと思っています。普通の部活動というのでは無いので、じっくり考慮してください。質問には全てお答えしますので、俺に連絡を入れてください」 「うる先生にはまだ端末をお渡ししていないので、ワタクシから連絡先をお伝えします」 「お願いします」  それでは、失礼します。と群咲は退席し、再びともと二人きりになる。 「……凄い生徒さんですね……」  溜息とともに漏れた感想に、自分が酷く緊張していて、今はとても開放的な気持ちになってることを知る。  上司である校長といることよりも、教え子の前で緊張するというのはどういうことなのだ、と思ったりもするが、穏やかな微笑みを浮べるともの存在の癒し効果の前では仕方無いかと思い直す。 「ふふふ。そうですね、雰囲気のある生徒さんですものね」 「圧倒されちゃいました。馬鹿にされないで授業できるか、心配になっちゃう」 「彼らと共に成長しようという気持ちがあれば、大丈夫ですよ。自主性が強い子たちが多いですから、抑えつけようとすると上手くいきません」 「留意します……それにしても……」  うるは、群咲が座っていた場所を見詰めて思う。 「どうかしましたか?」  たったあれだけの質問で、何がわかったのだろうか、と。  面接とは、単に顔を見るだけのことだったのだろうか?  そう告げると、ともは、記憶を辿るように視線を動かしてから、 「防衛隊というのは、特殊能力が無いと就けない、と聞いたことがあります。ですから……」  群咲にも何か特別な能力があるのではないか、と真顔で言われ、うるはどう返事をしたものか、と迷う。  「七不思議を調査する」という、少年探偵団のような発想を真顔で語る高校生というのは少なからず違和感があった。  しかし、語る本人が盲信しているような風ではなく、第三者の大人であるうるにどう取られるかもわかった上で語っていることが、稚気を帯びた遊びでは無い、というのを言外に伝えてくる。 「すぐにうる先生用の端末を屆けますので、本人にそのことも訊いてみたらいいのではないでしょうか」  そろそろ日が翳って来ますから。と、ともが面談の終了を告げる。  タイミングを承知していたかのように、執事が姿を表し、うるを部屋へ案内するよう、ともに指示を受けた。 「それでは、うる先生。何か不自由がありましたら、遠慮せずにワタクシに連絡をくださいませね」 「はい。これから、よろしくお願いいたします」  いつまでも着物の袂を抑えて手を振るともを振り返っては会釈をしながら、うるは、新しい生活に不安では無く、やっていけそうだという希望を抱いて執事の後を追った。   -はい、おわり!!! ---- #comment()
*うる物語 -本編前のうる赴任編だよ。うるの性格生かしきれてないよ!!!  太陽の光を受けて煌めく海面を眼下に眺めながら、鳳うるは緊張と不安が綯い交ぜになった気持ちをどうにか整理しようと努めた。  この春に大学を卒業し、無事就職が決まった学校に本日付けで赴任することになった。その道中が今なのだが……。 (ヘリで出勤なんて、世界広しといえどそうそう居ないんじゃない?)  赴任先の学校は、人工電脳島にあるのだという。ある、というよりは、学校のために島があるというべきか。兎に角、学校の施設や学生の住環境など全てが島の中に設けられているのだという。  学校案内パンフレットによれば、生徒総数3000人前後。生徒主体による学校運営が売りなのだという。人工電脳島という名の通りハイテク関連の最先端を行く環境が整えられており、世界的にも高い注目を集めているらしい。 (そんなところでやっていけるのかしら……)  このご時世、ストレートに教職に就けたのは幸いと二つ返事でやってきたものの、新しい生活についての不安は尽きない。  教師になる、という実感が未だに無いのもそのせいなのだろうが、ただでさえ閉鎖されている領域と言われる学校分野の、物理的にも閉鎖的環境でやっていけるのか……。  単調なプロペラの音とどこまでも続く海面を眺めていると、だんだん現実味が遠くなっていく。  赴任が決まってから癖になってしまった溜息を付いた時、パイロットが振り返って次げた。 「ほら、あそこですよ。もうすぐ着きます」  示された前方を見やると、確かに島が見えた。 人工電脳島、などという名前から近未来的な様相を想像していたが、意外にも緑が多く、島を縁取るように囲んでいる。島の中央にあるのが学校関連の棟だろうか。少し隆起した箇所に作られた施設はこちらは想像通りの近代的な建物で、光を反射して輝いているように見える。そして少し下った位置にあるのが、学生のために用意された生活のための施設……つまり、街までセットになっているようだった。 「島と聞いて、何も無いところだと思ってるかもしれませんが、生活するのに困りませんよ。学生さんだけじゃなく、その生活を支える大人だっていますからね」  うるの溜息を閉鎖環境への憂いととったのか、パイロットは元気付けるように陽気に言った。 「ええ……思ってたより開放的ですね」  ヘリがゆっくり降下していく。  もうこうなったら肚を括るしかない。  うるは、丹田に力をこめて、ゆっくりと息を吐き出した。  ヘリを降りると、執事を思わせる懐古的衣装に身をつつんだ男性が、恭しく頭を下げてうるを迎えた。 「お待ちしておりました。鳳うる様ですね」 「あ……はい……」  クラシカルな装いに驚くうるの手から荷物を受けとり、スムーズに歩を促す彼に従って歩き出す。  白く、清潔で、真新しい感じの空間を抜け、扉を一つ開いた途端、青々とした竹林が姿を表し、うるの脳は次々に与えられる刺激に痺れたようになってきた。 「うる様の御担当は何の教科でございますか?」 「え……ああ、国語を……」 「左様でございますか。古典と現代文、専攻はどちらを?」 「古典を」  玉砂利が敷かれた小径の飛び石を伝いながら、老紳士と他愛もない会話を続けながら進む。 竹の葉がザワザワと鳴ることを考えると外なのだろうと思うが、暑さも寒さも感じない。そのことが、うるを更に現実から遠のかせるようだった。 小径を進んだ先に東屋が見えると、紳士は立ち止まりにこやかな笑顔を浮べて浅く頭を下げ「どうぞ、あちらへ」と、ここから先はうる一人で進むように示した。  あそこに誰かが待っている、ということなのだろう。  うるは、礼を述べると東屋へと歩を進めた。  サワサワと竹の葉が鳴る音以外は、自分の足音しか聞こえない。  こんな静けさはいつぶりだろうか……と思いを馳せているうちに、目的場所へ到着する。 「ようこそおいでくださいました。遠路、お疲れになったでしょう」  うるが東屋に足を踏み入れると、金髪に和装という、違和感を覚える出で立ちの人物がやんわりとした微笑みを浮かべて迎えてくれた。  腰かけるように促すと、テーブルの上の竹細工の籠から、おしぼりとお茶のセットを出し、うるの前に揃えながら、言った。 「ワタクシは校長を務めさせていただいている、月水とも、と申します」 「本日付けでこちらに赴任となりました、鳳うるです」  反射的に挨拶してから、相手の言葉を反芻し、うるは思わず立ちあがった。 「あ……校長先生というと……こちらの……」 「はい。不束者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」  深々と頭を下げられ、うるも負けじと頭を下げる。 (まさか……この人が校長だなんて……)  こんな独特の立地や校風の私立校の校長たる人物が、こんな嫋やかな雰囲気だとは夢にも思っていなかった。  もっと切れ者然とした人物か、成金趣味まるだしか、はたまた社会的貢献を声高に叫ぶような理想主義者か……そんなイメージを思い描いていただけに、目の前の人物とのギャップがとても激しい。 「ふふふ。そんなに緊張なさらないで。ワタクシ、本当に名前だけですから」  再度座るように促され、力が抜けたように座りこむ。  ともが茶に口をつけるのを見て、つられて茶碗を取るが、そういえば先程校長自ら茶を煎れていたことを思い出し、居心地の悪さを感じながら一口含んだ。 「お手紙にも書きましたように、うる先生には高等部の授業を受けもって貰いたいと思っています」  のんびりとした口調で、ともが言うのに、うるは「はい」と応じる。 「それと……顧問をしていただきたいのです」 「顧問? と言いますと、部活動のですか?」  新米教師には部活動の顧問を受け持たせることが多いというのは、教師になるなら誰でも聞いたことがある話だ。  部活動についての手当ては雀の涙ほどだというのに、責任は重いし、激務だし、休日も何も無くなるのだから、当然情熱が無ければやりたくないものなために、少しでも心得のある新米教師が来たならば、何がなんでも押しつけようという傾向があると聞く。  うるもその心積もりはあったので、それほど驚く話ではなかったが、校長は「いいえ」と想像とは違った言葉を口にした。 「部活動の顧問じゃないのですか?」 「近しいけれど、部活動とは違います」  では何だろう、と、うるは心中で首を傾げる。 「とは言いましても、面接の結果、ということになるのですが」 「面接ですか」 「はい」  多くの学生が集う隔離された空間では、教師という役割の他に何かせねばならない職務がある、ということなのだろうか……。 「もう暫くしたら、本人がここに来ますので、それまでワタクシのお喋りに付き合ってくださいませんか」  世間知らずの箱入り的な雰囲気に面喰いながら、うるは「もちろんです」と笑顔で応じた。 -こっから追加分ですだ 「校長」 「お待ちしていました。どうぞ、こちらに」  ともに求められるまま、大学での生活、一人暮らしの様子、棲んでいた土地のことなどを話しているうちに、面接官が来たらしい。  就職面接などで散々面接をしてきたとはいえ、やはりいつも緊張する。 「こちらが本日付けで赴任された、鳳うる先生」 「はじめまして、宜くお願いします」 「はじめまして。高等部2年の群咲です」  高等部2年ということは、高校2年生……つまり、教え子になるかもしれない人物だということだ。  顔を上げてみれば、確かに若い。  耳には複数個のピアスが見られるし、パンクファッションに近しい出で立ちからは、所謂模範生というものでは無い雰囲気が漂っている。  それでも、眼差しの強さなどは、教育実習で行った先の高校生とは違い、鋭く、真っ直ぐに射貫く輝きに満ちている。  考えてみればそれもそのはずで、幾つでこの地を踏んだのかは知らないが、親元を離れて生活し、学ぼうという姿勢でこの学園にいるのだ。唯諾々と「とりあえず、高校には行かないといけないから」と思っている生徒たちとは当然ながら気持ちがまるで違うのだろう。 「突然ですが、うる先生は過去にUFOを見たことがあるそうですね」 「え、ええ」  どこからそんな情報を得たのか、思いもしなかった質問に、うるはまたも面喰う。 「では、UFOの存在などには肯定的ですか?」 「肯定的と言うよりは、見たからには存在するのだと思っています」 「なるほど」  どこか挑戦的な笑みを浮べて群咲は続ける。 「それでは、幽霊といった類はどうですか?」 「幽霊ですか?」 「そうです」 「見たことはありませんけど、存在すると思います」 「そうですか。ちょっと失礼します」  そう言うと、ともに「彼女と話をしていてください」と、携帯端末のようなものを操作し始める。 「あの……」 「我が校は、学生が主体で動いている、というのはご存知ですわね」  新しい茶を準備しながら、ともが言う。 「ですので、顧問の決定権なども彼らに任せられているのです。それだけじゃなく、カリキュラムについてなども必修時間を守った上で自分たちで組むことになっています」  確かにパンフレットには「学生主体」と書かれていたが、そこまでの権利の行使が可能だとは思ってもみなかった。  しかし、権利を行使するということは、その責任も背負うということになる。  そう言うと、ともは深く頷く。 「彼らを見守り、相談に乗り、良きアドバイザとしてサポートしていく……彼らが安心して選択して行けるようにすることが、ワタクシたちの責務になりますね」  儚げにも見える風貌からは伺い知れない、しっかりとした芯のある力強い言葉に、うるはともの底力を垣間見た気持ちになった。  大学を出たばかりのうるから見ても、無垢に見えるともだからこそ、瑣末な問題に左右されず本質を守っていけるのかもしれない。 「ただ教えるだけの立場というのではありませんから、何かと大変だとは思いますが、うる先生なら大丈夫だと、ワタクシは信じております」  春の日の日溜まりのような微笑みに、うるは気持ちが和むのを感じた。  やっていけるのだろうか、という不安はいつの間にか解されて、今ではやっていこうという気持ちになっている。  校長という肩書は伊達では無いということなのだろう。 「うる先生」  呼びかけに視線を移すと、群咲が高校生らしい真っ直ぐな眼差しで見詰めてくる。 「我々、防衛隊は貴方に顧問を依頼したいと思います」 「防衛隊……?」 「まあ、部活動のようなものだと思っていただければ構いません。活動内容が少々特殊で、公的には存在しないことになっていますが」  群咲の言っていることが理解できず、困惑した顔を向けると、その反応は当然だと言うように頷いて、両手をテーブルの上で組むと少し考えを巡らせてから口を開いた。 「簡単に言うと、学校内に流れる噂の調査です。噂の質が少々特殊なんですが……うる先生の学校にもあったでしょう、七不思議」 「七不思議って、誰もいない音楽室からピアノの音が……という?」 「その類の噂調査をする、というのが活動内容なんです」  なんと答えたものかと思っているうるの心中を察してか、群咲は「うる先生から見たら稚気に溢れた遊びに見えるでしょう」と苦笑いを浮かべた。 「噂を調べる主な理由はそういうわけですが、まあ、何かと様々な情報に長けることですから、そう馬鹿にしたものでもありませんよ」 「あ、いえ、馬鹿にはしてないけど……あの、どうして『公的には存在しない』ことに?」 「誰だって自分の軽口を調べられるのは面白く無いでしょう。そういう要素を孕んでる活動内容ですし……オカルト的な不安要素を拡大させない、というのが目的でもありますからね。秘密裏に処理できれば、それに越したことはない」  先輩の受け売りですけどね、と肩を竦める群咲が、突然子どもっぽく見えて、うるは内心でほっとした。 「我々としては是非うる先生に顧問をしていただきたいと思っています。普通の部活動というのでは無いので、じっくり考慮してください。質問には全てお答えしますので、俺に連絡を入れてください」 「うる先生にはまだ端末をお渡ししていないので、ワタクシから連絡先をお伝えします」 「お願いします」  それでは、失礼します。と群咲は退席し、再びともと二人きりになる。 「……凄い生徒さんですね……」  溜息とともに漏れた感想に、自分が酷く緊張していて、今はとても開放的な気持ちになってることを知る。  上司である校長といることよりも、教え子の前で緊張するというのはどういうことなのだ、と思ったりもするが、穏やかな微笑みを浮べるともの存在の癒し効果の前では仕方無いかと思い直す。 「ふふふ。そうですね、雰囲気のある生徒さんですものね」 「圧倒されちゃいました。馬鹿にされないで授業できるか、心配になっちゃう」 「彼らと共に成長しようという気持ちがあれば、大丈夫ですよ。自主性が強い子たちが多いですから、抑えつけようとすると上手くいきません」 「留意します……それにしても……」  うるは、群咲が座っていた場所を見詰めて思う。 「どうかしましたか?」  たったあれだけの質問で、何がわかったのだろうか、と。  面接とは、単に顔を見るだけのことだったのだろうか?  そう告げると、ともは、記憶を辿るように視線を動かしてから、 「防衛隊というのは、特殊能力が無いと就けない、と聞いたことがあります。ですから……」  群咲にも何か特別な能力があるのではないか、と真顔で言われ、うるはどう返事をしたものか、と迷う。  「七不思議を調査する」という、少年探偵団のような発想を真顔で語る高校生というのは少なからず違和感があった。  しかし、語る本人が盲信しているような風ではなく、第三者の大人であるうるにどう取られるかもわかった上で語っていることが、稚気を帯びた遊びでは無い、というのを言外に伝えてくる。 「すぐにうる先生用の端末を屆けますので、本人にそのことも訊いてみたらいいのではないでしょうか」  そろそろ日が翳って来ますから。と、ともが面談の終了を告げる。  タイミングを承知していたかのように、執事が姿を表し、うるを部屋へ案内するよう、ともに指示を受けた。 「それでは、うる先生。何か不自由がありましたら、遠慮せずにワタクシに連絡をくださいませね」 「はい。これから、よろしくお願いいたします」  いつまでも着物の袂を抑えて手を振るともを振り返っては会釈をしながら、うるは、新しい生活に不安では無く、やっていけそうだという希望を抱いて執事の後を追った。   -はい、おわり!!! ---- #comment()

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