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*番外編:うるが顧問になったわけ -今回は一気に最後までドーン 「……ねぇ、ちあいクン。何でアタシがSDFの顧問に選ばれたのかしら?」  その問いに、ちあいはキーボードを叩いていた手をピタリと止めた。  放課後の部室には、今日はちあいとゆっくとうるしかいない。  そのせいか、いつもはい騒がしい部室もひっそりとして広く感じるし、時間もゆっくり流れているように感じた。 「何か不都合がありましたか?」  小首を傾げながらちあいは訊いた。  人見知りの激しいちあいは、実はまだうるに慣れきっていない。  質問ならゆっくにして欲しいと思ってちらりと視線を向ければ、絶賛集中中で、あれではヘッドフォンをしていなくてもとても話かけられない。 (誰か、早く帰ってきてくれないかな……)  ちあいは、うるに気付かれないよう、ひっそりと溜息をついた。 「不都合は無いんだけど、ちょっと不思議に思ったの」  ちあいに訊いたのは、深い意味があるわけでなく、単に今なんとなく暇だったからだ。  いつもだったら、しずるがいて騒がしくしているのに、今日は近々行なわれる陸上大会のミーティングに出席している。陸上部に在籍しているわけでは無いが、助っ人ということで参加するのだとか。  まぁとは、最近噂になっている怪談関係の"聞き取り調査"に出ているし、一番答えてくれそうなしゃんどぅは、部長会議というのに出席しているらしい。  非公開であるSDFでも出席するものなのか、と驚くうるに「一応、ゲーム開発同好会ってことになってるんでね」と、露骨に面倒なんだよなぁという顔をして言っていた。  今ここにいる二人。  ゆっくは電脳関連の、ちあいは図書関連のスペシャリストだ。それは情報量ということだけでなく、分野に特化した開発能力や記憶能力というものでもある。  何も特性が無いなどと言っているしゃんどぅにだって、優れた判断能力(実はまだ、隠しもっている何かがあるのではないかと疑っているのだが)や統率力がある。  頬杖をついて、ぼんやりと空中を見つめるうるの脳内には、SDFメンバーそれぞれの特性が浮かんでいる。 (それに比べて……アタシはフツーの教師よねぇ?)  というのが、最近のうるを悶々とさせる疑問だった。   「しゃんちゃんに訊くのが一番だと思います」  言ってから(冷たかったかな……)と、少し反省する。  嫌いでは無いのだから、嫌われたくはない。  けれど、やはりまだよくわからない人は苦手なのだ。 「そうよねぇ……」 (……どういうこと?)  その返事に、ちあいは少しイラっとした。  返事が問題だった、というよりは、その声色に含まれた感情のほうにだ。  出来ればしゃんどぅは避けたい、という気持ちが過分に乗った調子に、胃の底のあたりがムカムカするような、嫌な気持ちになる。 「やっぱり……そうか……」  諦めの感情が籠ったセリフに、ちあいはカーッと血液が逆流するのを感じた。  警戒の気持ちが強くなり、心が硬化する。 (この人、しゃんちゃんのことが嫌いなの!?)  そして気付けば勢いをつけて立ち上がっていた。 「せ……、先生は間違ってます!」  ガタンッと派手な音を立てて、椅子が倒れる音を聞き、ぼんやりと空中を彷徨わせていた意識が現実に引き戻される。  見れば、ちあいが顔を紅潮させてこちらを睨みつけていた。 (え? ……えぇ!?)  見るからに怒っている様子に、うるは自分が何かをしてしまったことを察しはしたが、何をしてしまったのかはよくわからない。  しゃんどぅに訊いたほうが早いという言葉を肯定しただけではなかったか。  肯定してはいけないことだったんだろうか?  うるがオロオロしている間にも、両の手をテーブルの上でぎゅっと握り締めたちあいが言葉を投げつけてくる。 「先生はもっと、ちゃんと、わかってくれる人だと思ったのに!」 「え……ご、ごめんね、ちあいクン。センセイ何か悪いこと……」 「しゃんちゃんのことを嫌いな人なんて、わたし、嫌いです!!」  瞬間、何を言われてるのかサッパリわからなかった。  最初にわかったのは、アタシ嫌われちゃったの? という悲しさだったが、その前に言われたことがなかなか飲み込めない。 「ええと……」  混乱する頭を整理しようと試みたが、興奮の余り泣き出しそうになっているちあいに気付き、脳内が更にパニックになる。  宥めようと立ち上がり、腕を伸ばしてみたら、かなりハッキリとした拒絶の態度をとられてクラッとしてきた。 (こ……こんな、純情可憐な子を泣かせるなんてなんたる失態! いや、違う、そうじゃなくて……なんでちあいクンがこんなことになったんだっけ) 「いい人だから、怖がらなくていいって、しゃんちゃんは言ってたのに……先生は、先生は……ううう………」 (こ、これは教師として……いいえ、人として、失格なんじゃない!?)  ボロボロと目にいっぱい貯めた涙が零れるのを見て、うるの意識が一瞬遠退いた。   「ハイハイ、二人とも落ちつくアルよ」  興奮する二人の気を逸らすように言葉をかけてきたのは、先程まで絶賛集中中だったゆっくだった。  その手には茶器のセットと電気ポットが乗った盆を持ち、二人の視線が噛み合わない場所に入る。 「茉莉花茶ね。精神安定の作用あるね。気持ちほっとするよ」  本当は電気ポットは嫌あるけど、仕方無いね。などと言いながら、優雅な手付きで中国茶独特の煎れ方を披露する。  本当はあの勢いのまま、部室を飛び出してしまいたかったのだが、ゆっくがドアまでの途中に入り込んでしまい、それもできなくなったので、せめてうるとは視線を合わせないようにしようと、ゆっくの手元に視線を固定させた。  ダバダバと茶壷にお湯を注いでいるのを見ているうちに、ちあいの気持ちも少しは落ちついてきた。 (でも……でも先生のことは許さないんだから……)  しゃんどぅは大切な仲間だ。  しゃんどぅばかりではなく、SDFのメンバーは特別でかけがえのない、ちあいの大好きな仲間だ。 (いくら……いくら皆がいい人って言ったって、わたしは騙されないもん)  その仲間を嫌う人を、好きにはなれない。 「よーっす、ただいまー……って、なんで全員立ってんの?」 「しゃんちゃん!」 「しゃんクン!」 「しゃんどぅ!」 「や、うん、オレだけど……」  部室に戻ったところを、三人全員がふりかえり、それぞれ呼び方は違えど、ほぼ同時に名前を呼ばれて、しゃんどぅは入口の前で硬直した。  なんだか嫌な雰囲気が漂っていることだけはわかるが、茉莉花茶の甘い匂いが、刺々しい空気を少し柔らげている。 「しゃ……しゃんちゃーーーーーーーん!」  半ベソをかきながら突進するちあいを、ひょいとゆっくがかわす。  どーん、と大した衝撃では無いにしても、全力でちあいが飛びついてきたのを抱き留めてやり、何があったのかと、ゆっくとうるに視線を送ろうとした時。 「たっだいまー!!」 「タコ焼き買うてきたで。本場もんより劣るけど、しゃーないわな」 「うわあ」  背後の扉が開き、しずるとまぁとが騒々しく入ってきた。 「ちょ……っ、何抱き合ってんの!?」 「あ、ちーちゃん泣いとるやないの。何したんや、しゃん」 「……正直、一番知りたいのはオレだ」  いきなりな展開で流石のしゃんどぅも現状把握が追いつかないのだろう。天を仰いで盛大な溜息を零した。 「で、何があったわけ?」  しずるの言葉に、しゃんどぅの背中に隠れるようにして、茉莉花茶を啜っていたちあいがビクンと跳ねる。  うるとの間に何かあったのであろうことは、二人の態度を見れば容易にわかるが、何があったのか、ということまではわからない。  ちあいは頑なに隠れようとするし、うるはうるで困惑と後悔の最中にいるようで、結果として三人の目はゆっくに集る。 「……詳しいことはわからないアルよ。ちあいが言った、しゃんどぅ嫌いな先生は、私は嫌い」  うるの視線がゆっくを捉える。  しずるが疑問符を頭上に飛し、しゃんどぅは何か考える様子で顎を引く。 「なんや、先生、しゃんのことが嫌いやったんか」  まぁとが驚いたといった具合いに、あっけらかんと口にするのに、ちあいが微かに頷き、うるがぎょっとする。 「な、なんでそんな!?」  うるが腰を浮かせかけるのと同時に、しずるがガバッと立ち上がり、 「この間か! この間、うる先生になんかしたのか!」  と、凄い剣幕でしゃんどうに食いかかる。 「ちょい、落ち着け」 「なんでそうなるんや」  展開のわからないまぁとの質問に、しずるがビシーッとしゃんどうに突き付ける。 「うる先生が嫌いになるようなことをしたんだろー!」 「アイヤー、しゃんどぅ、それは駄目あるね」  と、ゆっくが非常に残念そうに嘆く。 「してないわっ! むしろ、何かされそうになったのはこっちだ!」 「何かってなんやの」 「ああ、もう、ちょっと落ち付け。話しが進まねぇ」  パンパンと両手を叩いて場を沈めるしゃんどぅに、とりあえず一旦その場は静かになった。 「ちあい。ゆっくの言ったことは本当か?」  しゃんどぅの問いに、ちあいははっきり頷く。 「んじゃ……、うる。この間のこともしかして気にしてる?」  やっぱりなんかしたのか! と色めき立つしずるを、まぁとが抑える。 「この間のことって……」 「東屋の」 「……」  気まずそうに視線を外すうるの仕草を答えと取って、しゃんどぅが、深々と溜息をつく。 「ちあい、それ、お前の誤解」 「え……」 「うるはオレのことを嫌ってるんじゃなくて……オレに嫌われてるんじゃないか、ってほうだ、たぶん」  そんな事かという顔をしているしゃんどぅに、全員が不可解な顔を向ける。 「何がわかったアルね。説明するよろし」  今回一番の被害者は、現場に居合せたのに話がさっぱり見えないゆっくだろう。  わかったわかった、と手を振りながら話す手順をさっと纏めて、茉莉花茶を一口飲んで口を潤す。 「もう皆忘れているかもしれないが、ちあいはすんげー人見知りするだろ」 「そういえばそうやなー。最初の頃なんか本棚の向う側から話しかけられてたわー」  うんうん、とまぁとが大袈裟に頷く。 「ちょっと警戒心が強めで、人の声色から色々察して先回りしようとする癖が、あるわけだ。自己防衛本能だな」  ぽんぽんと、見上げてくるちあいの頭を軽く叩く。 「それが今回は誤作動というか、誤解に繋るわけなんだが……」 「この間のことっていうのは?」  有耶無耶にはさせないぞ、という気迫を持ってしずるが問いかける。 「それが誤解する原因になったわけだが。この間、うるにちょっと嬲られまして」 「いかがわしい!」  すかさず突っ込みを入れるまぁとに、ゆっくが笑い出す。 「そのことで、うるはオレに対して若干……どころじゃなく、結構な負い目を感じてて、それがオレを避けるようなニュアンスになったんだろうな、というあたりだと思うが?」  問いかけられて、ちあいは戸惑った表情でうるに視線を向ける。  何か言い出そうとしては、飲み込むのを繰替えすちあいの様子に、見兼ねたまぁとが口を挟んだ。 「うるっちは、しゃんのことが嫌いなん?」 「そんなこと無いわよ! この間しゃんどぅクンに悪いこと言っちゃったから……どちらかというと嫌われてるんじゃないかって……思ってて……」 「それで、オレとサシは嫌だなー、って思って返事したりしたんだろ」  うるが首肯するのを見て「それをちあいが誤解したアルか」と、ゆっくが納得する。 「……ごめんなさい……」  耳まで真っ赤にしたちあいが、小さい声で謝罪する。 「先生が……しゃんちゃんのことイヤって感じに思ってるんだと思ったから……」 「き、気にしないで。元はといえばアタシが悪いんだし!」  先程までのうなだれはどこへやら、何故か興奮気味に顔を輝かせるうるに、しゃんどぅ以外のメンバー全員が、首を捻らせた。 「ところで、なんでそんな話になったの?」  タコ焼きを頬張りながら、しずるがうるに質問する。  すると、うるはちょっと照れたような困ったような表情をして、もじもじとテーブルの下で手を揉み合わせ出した。 「うちも気になるわ」 「ちあいは知ってんだろ?」  しゃんどぅに振られ、ちあいはチラッとうるのほうを見てから「なんで顧問になったのかって」と小声で言った。 「顧問になった理由が知りたいアルか?」 「……だって、アタシってすごくフツーじゃない?」  うるの言葉に、今度はしゃんどぅを含めた全員が首を捻る。 「皆凄いのに、フツーなアタシが何で顧問になったのかなって……」  言いながら「誰でも良かったけどね」と言われるのではないか、と、チラリと思ったが、口に出してしまった以上、どんな言葉でも受け入れるしかないと思い直す。 「フツーだからだよ」  答えたのはしゃんどぅだった。  飽きれたように見えるのは、この間の話の後だからだろう。 「ここにいるメンバーに足り無いのがフツーだからな。バランスは重要だろ」 「でも、そんな……他の先生方だって……」  もごもごと言い募るうるに、しゃんどぅが苦笑を浮べる。  ここにいる他のメンバーからしてみれば、普通であることが何よりも珍しいことだということを、そして得られるものではないということを、うるはわかってないのだろう。 「この島の教師の実に9割近くがこの島出身者だろ。オレがSDFに必要だと思うのは、この島の感覚の人間じゃない、ってことだよ」 「あー、外の人だからうる先生は面白いのかー!」  しずるが妙に納得した声で応じる。  この閉鎖空間の中で育った人間と外から来たものでは、色々な部分での差がどうしても生れてしまう。  教師陣の9割が戻ってきてしまうということ……どんどん帰省する人数が減っていくこととイコールである問題……が、どういうことかを想像してみれば、ここが如何に特殊な場所であるかに考えが至るはずだ。 「まぁ……そのうち、うるにもわかるようになるさ」  それが良いことなのかはわからないが。  その言葉を飲み込んで、しゃんどぅは茉莉花茶を飲み干した。 END

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