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* 小六の春:分岐B:終業式 -平穏ルートよりはちょっとだけヘヴィですがまだ甘い。  一学期の終業式が終り、いつも通りの可も不可も無い成績表を受け取り帰路につく。  帰り道の途中で図書館に寄ろうかと思ったが、なんとなく気後れしてやめた。  ロンが進学する中学校につての返事を貰ってから、ずっとその学校のことが気になっていた。  中等部からの入学が可能な私立学園。  人工的に造られた島にあり、全寮制となっているという。  自分というものの行き場の無さをいつも感じているこの環境を抜けて、自分を知っている人のいない場所で、好きなように自身を表現できる可能性はとても甘美だった。  けれど、この窒息しそうな環境の中で与えられている権利というものについてを悟り、言葉を閉ざす他無かった。 「ただいま」  玄関を開けていつもとは違う様子に違和感を覚えた。  普段だったらこの時間には帰宅しているはずの無い父のものがある。 (何かあったのだろうか?)  チラッと思った時に、母がぎこちない笑みを浮べて「おかえりなさい」と迎え入れてきたことで、心の上にさざ波が立った。  平素と同じ風を装う風をしているが、全く違う。  それを指摘せずに、リビングに入ると父もまた、固い表情に笑みを貼りつけたような顔でこちらを見た。 「荷物を置いたら、すぐに戻ってきなさい」  言われた言葉に素直に頷く。  嫌な感じは足元から這い上り、心臓をじわじわと締めつけるように強くなっている。  何かミスをしただろうか。  部屋へ向う階段を登りながら、考える。  両親があんな顔をするようなミスをしただろうか。  日記にもおかしなことは書いていないはずだし、成績も目立つことが無いようにコントロールしているはずだ。  何も、変ったことは無い、はず、だった。  部屋に入って荷物を置き、少し躊躇ったが成績表を取りだして、来た廊下を戻る。  気取られないように平素と同じ顔をして、階段を降りきると、両親はソファにも座らずにいた。 「紫安、こっちに来なさい」  言われるままに歩を進めながら、どうしたら良いかと両親の表情を探る。  けれど、張り詰めた空気を察知することしかできない。  父に近付くと、引き寄せられて両の肩に手を置かれる。 「紫安、よく聞きなさい」  乾燥した固い声で父が語るのを、じっと見詰める。 「今日から、お前はお婆ちゃん家の子になるんだ」  父の言葉が理解できず、一度瞬くと、母が隣りに立って言った。 「今日から、紫安は『藤堂』じゃなく『群咲』になるの」  媚びた声だった。 「すぐにお爺ちゃんが迎えに来るから、ここに座っていなさい」  なるほど。  動揺するでもなく、その言葉をそのまま飲み込む。  そういうことになったのか。  あのパーティで聞かされた大人達の言葉が心の上を撫でて行く。  父方の祖父母は、両親や母方の祖父母にも増して、自分のことを良く思っていないことを知っている。  両親が向ける研究対象としての興味も、藤堂の祖父母の持つ野心からの期待も、心地良いものではなかったが、群咲の祖父母の持つ負の感情よりはずっとマシだった。  そこにやられる、ということが、どういうことか。  じんわりと、脳に染みこんでいるのを感じるうちに、外に車が止まる音がした。 「行きなさい」  命令。  愛着のあるものなど、これといって無かったが、それでもこれまで育ってきた環境にあった何かを持って行くことすら許されないのかと、ぼんやりと思う。  それとも、何も持っていって欲しくは無い、ということなのだろうか。 「……これ」  手にしていた成績表をテーブルに置き、無感情に玄関に向かう。  脱いだばかりの靴を履いて、玄関の扉に手をかけ、そこで振り向いて両親を見上げる。  見慣れない表情の両親の顔をじっと見た後、ゆっくりと頭を下げる。  凄く静かだな。  そんなことを思った。  見慣れた街を抜け、高速道路に入る。  静かだと思うのに、酷く雑音がするようにも感じた。  運転席に祖父。助手席には祖母。  二人とも一言も言葉を発しなかった。  固い表情で頑なに前を見ているような横顔を盗み見、何か言うべきかと言葉を探し、何も見付からず窓の外を眺めた。  二時間ほどして、群咲の家に到着して車を降りる。  蔵を改装したところに部屋を作ったと言われて、頷きながら歓迎されてないことを思い知る。  捨てられる前に捨ててしまうほうが、きっと苦しくはない。  あの時も思った言葉が脳裏に焼き付く。  言葉少なに母屋に向う祖父母に、意を決っして言葉を投げかけた。 「1つだけ、我侭を許して貰えませんか」  怪訝な顔で振り替える祖父母の前で、膝を折る。  こうすることが、誠意の表現なのだと、図書館で得た知識を頼りに頭を下げる。  選択できるということが自由だということだ、と何かの本に書いてあった。  紛いものの自由でも構わない。 「中学受験をさせて欲しいんです。お金は将来、必ず返します」  どうせ、邪魔なのだから、と思う。  疎まれているのは知っている。  厄介払いの道を与えてやろう。  だから、解放して欲しい。  この檻から。 END

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