SS > うる > 主人公(男)スカウト直前


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「とぁー!!」
「え、ちょ…!?危ないっ!!」
「へ?」

本校舎といくつかの寮を繋ぐ石畳の途中にある十字路に差し掛かった時。
まず最初に見えたのはこちらに向かってなにやら叫ぶ紫色の人の姿。
そして次に見えたのは…というか、何が見えたか把握する前に顔面に物凄い衝撃を感じ、何事かと思う間もなくボクは意識を手放した。



    **************************



「ちょっと!」
「あ痛ァっ!?!」
「・・・・・・オイオイしずる、そう乱暴にすんなって」
「乱暴じゃないわよ、ちょっと頬っぺた叩いただけじゃない」

(その頬っぺたが・・・物凄く痛い・・・)

そろりと手を当てると、頬にはひんやり。
手のひらには何かもさっとした触感。
きついメンソールの臭い。
湿布だ。

目を開けてみると部屋は真っ白で、ここが保健室であるという事が、まずわかった。
・・・けれどもすぐ目の下まで貼ってある湿布が結構目に沁みて目を開けていられない。
ボクは痛みを我慢し、湿布を一端はがして少し目から離した部分に貼りなおす。
(ううう痛い・・・・・・)
けれどそれでようやく目をしっかり開けられるようになった。
寝転がったまま、改めてベッドのわきを見る。
そこにいたのはさっき一瞬見た紫色の人と、見知らぬ膨れっ面の女の子だった。

「や、手加減したのは見てわかるけどさ、でもその叩いた頬に今彼湿布貼ってるわけじゃん」
「そうだけど、叩かれるのがイヤなら避ければ良かったじゃない」
「・・・・そうな」

女の子がフン!とそっぽ向いて、紫の人が力なく・・・ちょっぴり面倒そうに同意した。
ボクが目を覚ました事に気付いていないのだろうか。

「あの・・・・・・」

思い切ってどちらにともなく声をかける。

「なによっ!」

そっぽ向いてた女の子がツインテールを遠心力になびかせグリン!とこちらを向き、力いっぱいにボクを睨む。

「ご、ごめんなさい」
「「は?」」

   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

断じて!決してボクは苛められっ子じゃない。
別に常に謝るとかそんな癖も習慣もない。
しかし、その可愛らしい容姿からは想像できない眼力に思わず反射的に謝ってしまった。

その結果。
女の子だけじゃなく紫の人にまで変なものを見る目で見られるハメになってしまった。

布団に潜っていですか・・・
穴がないので布団に潜りたいんです・・・
二人の視線にいたたまれない気持ちになったボクは、布団を持ち上げようと掛け布団を強く握る。

「あははははは!!」
「ひぃっ!」
「あははは!ひぃって言ったわ!聞いたしゃんどぅ!あはっ、はははははっ!面白い子っ!あはははははははっ!ねぇ聞いた?聞いたっ?!」

突如女の子が笑い出した。
すっかり萎縮していたボクが彼女の笑い声に驚き小さく奇声を発してしまったところ、さらにツボには待った様子で、痛がる紫色の人の背中をばしばし叩きながら息も絶え絶えに爆笑している。

「しずる痛い・・・そしてびびる通り越して脅えてるよ、その大声やめてやれよ」

自分も相当背中が痛いだろうに、ボクの心配をしてくれる紫の人がかっこよく見えた。

「ぷぷっ、だって、あはははっ、はぁ、あー笑った、君、いい人だね!」
「いや、訳わかんねーし。そして訳わかんないオレはもう行く。疲れた・・・・・」
「あぁ、はぁ・・・・・・」

まだ小さく噴出しつつ、何故かいい人!いい人!と連呼する女の子。
その彼女の発言に仕方なくといった様子でツッコミを入れるだけ入れて、ドアの方へと歩いてゆく紫の人。
何もかも置いてきぼりのボクは、とりあえず聞いているという事をアピールするためだけに曖昧に、返事のような返事じゃないような声を出す。

「あ、わたしも行く!」
「謝ってから来い!」
「そうか!あのね、それ、忍者っぽく木の上から重力を使って繰り出す、威力抜群の飛び蹴りの練習してたらちょうど君が通りかかって、顔面にヒットしちゃったの。ごめんね!」

飛び蹴り・・・飛び降り蹴り・・・?
いやその前に飛び蹴りの練習って・・・・・・

「よし謝った!部活行っくぞー!!」

混乱しているボクをおいてきぼりにして、バターン!と派手な音を立てて保健室のドアが閉まる。
それに続いて先ほどの紫の人の声がうっすらと聞こえて、ツインテールの女の子の「細かいわねー!」という声が聞こえた。
・・・まるで嵐のようであった。

「あ、名前聞けばよかった」

会話の中で呼び合っていた気もするが、それどころじゃなかったので覚えていない。
名前を聞き忘れたことを何となく残念に思いながら、とりあえず痛い頬にはもうちゃんと湿布が貼ってあるし、起き上がって軽く身体を動かしてみる。
他に痛めた所はないようだ。

「ふう」

長時間気を失ってはいなかったようで、腕時計を確認するとまだ、呼び出しがあった指定時間にはなっていない。
途中図書館によってから行こうと、早めに寮を出たのが幸いした。

早め早めの行動の大切さを噛締めながら立ち上がり、一度大きく伸びをする。
うん。
頬っぺた以外は痛いところなし!
図書館は明日にするか。
ぼんやり考えながら保健室を出ようとドアノブに手をかけた。
瞬間。

   ガンッ!!!!

「あ痛ァッ!!!」
「あら・・・???」

こちらから開ける前に外側からドアが開けられ、顔面をしたたかに打った。
思わずしゃがみ込んで一番ダメージを受けた鼻を押さえる。

「あらあらあら・・・・ごめんなさい、大丈夫?」

大丈夫ではなかったが心配をかけまいと「大丈夫です」と顔を上げてすぐに視線を床に戻す。
そこにいたのはボクを呼び出していた張本人、鳳うる先生。

「うふ、パンツ見えた?」
「いえ、いえ、あの、いや、いえ、いや、いえ、その、スミマセンでした」

本当に見ていない。
本当に見えていない。
でも謝っておく。
謝ってしまった。
そんな癖も習慣もないと思ったが、案外あるのだろうか。
それよりもいたたまれない。
逃げるように保健室のドアをくぐろうとした。

・・・・・・が。

「冗談よ、冗談。その可愛いお顔が台無しになる前に手当てしましょうね」

顔の手当てって・・・
どんな顔して向き合えば良いのかわかりません。

「結構です」と言って逃げようとしたボクの右肩をしっかりと掴んで、「遠慮しないで。大丈夫よ、見えてもパンツじゃなくてストッキングだものね」とにっこりトドメを刺す鳳先生に、有無を言わせず保健室へと引き戻された。


その数分後。

「うーん、スーツの下にナース服着込んでおくべきだったわね。失敗♪」なんて冗談か本気かわからない事をウキウキと言う鳳先生に、「鼻血出てる?出てないかしら?出ると困るから詰めるわね」と脱脂綿を両方の鼻の穴に、「まだ入りそう?きゃっ、入った☆じゃあもうひとついけるかしら?」と嬉々として詰め込まれる事を僕はまだ知らない。



     *************************



「ねーしゃんどぅー、彼、防衛隊に入れない?」

少女は堪えきれないように、声を弾ませて隣を歩く紫色の髪を持つ少年を見上げる。

「入れない?もなにも・・・やっぱ話し聞いてなかったのな」
「何が?」
「アイツだよ、昼休みの召集で言ってた新隊員候補」
「え!」
「てっきりそれ知っててあの態度なのかと」
「全然知らなかった」
「そっかー」

知らなかったと断言する少女の言葉をさらりと信じ、その勘のよさを少年はしきりに感心する。

「でも嬉しいなー彼はイイよね~」
「さっきうるに連絡しておいたし、きっと今頃それについて話してると思うぜ」
「仲間になってくれるといいね」
「そうだなー、アイツなら上手くやってけそうだよ・・・な」

  ピピッ… シュン――

隊員がコレを押せば、扉は開く。
この扉の奥の通路は、未知なる世界へ続いている。

 ―――学園防衛隊。

その地下コントロールルームへ行くために押すヒミツのボタン。
あの少年もきっと近いうちにコレを押す事になるだろう。

ささやかな確信を胸に抱いて、ツインテール少女・明石に続き、群咲は小さく微笑みながらその階段を下っていった。




   -つづく(本編へ)-




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