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第3話 「約束と青春と」

その1 出動


午後一番目の授業を昼寝の時間と決めたしゃんどぅは、いつもの屋上で寝転んでいた。
流れ行く雲を眺めているとやがて心地良い眠気が訪れ、うとうとしていた…が、それは急に破られた。

「あーーっ!しゃんどぅ、こんなところにいた!」
屋上の扉を壊すかのような勢いで開けた静流の大声が響いた。

「んだよ、うるせえな…」
忌ま忌ましい表情でしゃんどぅが体を起こす。

「早く起きろ!事件だよっ!」
「あん?また食堂の新メニューでも公開されたんかよ」
しゃんどぅはあくびをしながらめんどくさそうに言った。

「ばかっ!そんなんじゃなくて」
そこまで言うと静流はあたりを伺い、声を小さくして

「SDFの方だよ」
と言った。
それを聞いたとたん、しゃんどぅの顔からふざけた表情は消えた。

「分かった、作戦室に向かうか」
「早く早く!行くよ!」
静流はしゃんどぅの右手をつかみ、一気に駆け出した。

「おわっと!ちょ…おま…」
しゃんどぅは体勢を崩し、半ば引きずられる形で屋上を後にした。


「お待たせ、うる先生。で、何があったんだい」
「それが…立て篭もりなの…」
「あん?んだそりゃ、うちらじゃなくて、警察の出番だろが」
「色々と面倒なのよ、ちあいちゃん説明をお願い」

ちあいが端末を操作して、モニターの映像を切り替える。
映し出されたのは、校内に設置された防犯カメラの映像であった。
場所は校長室。校長の月水ともと、スーツを着た60代くらいの男性。
そして、手に拳銃を持った3名の黒いスーツにサングラスの男たち。

「校長室…だと?でもって、こっちのオッサンは誰なんだ…」
「しゃんどぅ君、この人を知らないの?」
ちあいが驚いた顔で言った。

「……この人って、誰?」
しゃんどぅが少しすねた表情で言う

「この島の建設推進派筆頭で代議士の鬼頭寛二(きとうかんじ)先生ですよ。…よく新聞やテレビにも出ているじゃないですか」
「……」
俺が新聞やニュースなんかに興味あるわけないだろ
しゃんどぅは言いかけた言葉を飲み込んだ。
そんなことを言えば、やれ高校生として、やれ社会の一員としてなどとちあいのお説教が始まりかねない。

「その方が今日、校長と島に関して意見を交換するために訪れていたんです。それも非公式に」
「非公式に…ねぇ。それがなんでこんな羽目に?」
「実は犯人たちは先生のSPなんです」
「…はぁ?なんだそりゃ」
「鬼頭先生と校長の対談中に突然拳銃を取り出して…詳しくは防犯カメラの映像で見て下さい」

ちあいがカメラの映像を一時間分巻き戻す。一時間前、まだ異常はない。そして三十分前、何の前触れもなくSPの男たちが拳銃を抜く。
一人が鬼頭を、もう一人がともに拳銃を向ける。残る一人が校長室の電話を取り上げ、どこかへ連絡しているようだった。

「その時の音声です」
ちあいが端末を操作し通話の音声を再生する

「我々は、我々の父祖の愛した土地を、海を不当に奪ったこの人工島計画に関わった者を許さない」
低く落ち着いた声であった。犯行による興奮した様子は全くない。
「我々の要求は、ただちにこの人工島の取り壊しを要求する。海を我々の元へ還すのだ」
音声は何度もこの要求を繰り返した

「またこの手の連中か」

しゃんどぅがため息をつきながら言う。
かなりの額の国家予算が注ぎ込まれた人工島の建設であった。
半ば強引に進められた計画でもあったらしい。
自然環境保護を叫ぶ者、国による電脳監視社会を許さないと叫ぶ者、様々な反対団体による嫌がらせもあったという。
中には過激な手段で妨害工作をする者もいたらしい。
しかし、ほとんどの反対団体は島の建設完成ともに消えていった。
が、中には継続して人工島の運営を停止せよと叫んでいる者たちもいた。
それどころか、この犯人たちのように人工島の即時解体を要求する団体もあった。

「一時間以内に解答をしない場合、人質を、殺す」
再生された音声が不吉な言葉を残し途切れた。
そして犯人の男が校長室の花瓶に銃口を当てて引き金を引いた。
銃声とともに花瓶が粉々に砕け散った。威嚇のつもりだろうか。

「一時間…ってあと三十分かよ」
しゃんどぅが時計を見ながら言った。

「ええ、だから警察やテロ対策の専門組織を呼んでいる時間はないの。そして何より騒ぎを大きくは出来ない」
うるが腕を組みしながらで言った

「報道機関に大きく取り上げられでもしたら、沈静化している反対派の活動が活発になってしまうかも知れませんね…」
ちあいが唇を噛みしめて言う。

「でー、けっきょく私たちはどうすればいいの?一気に突入してやっつけるの?」
細かい話が苦手な静流が腰に手を当てながらそう言った。
一暴れできそうとあって少し目が輝いている。

「いくらお前でも拳銃持った三人相手に二人を守りながらなんて無理だろーが」
「うむむむむむ…」
静流が悔しげに唸る。

「ちあい、ちょっとこいつらの個人情報を探ってみてくれるか」
「えっと、犯人の身元を調べるってことでいいですか?」
「ああ、島に入った時の記録から辿れると思う。頼むわ」
しゃんどぅの指示でちあいが端末を操作しだす。ちあいが調査をする間にしゃんどぅは、繰り返し防犯カメラの映像を見た。

「しゃんどぅ!こんなのんびりしてる時間あるの!?」
静流がじれったそうに問いかける

「どうにも、気になるんだよ」
「何がー?」
「不自然な点がある」
静流が首をかしげる。

「あ、ここから先はセキュリティが…」
不意にちあいが声を上げた。

「突破は無理そうか?」
ちあいは確かにいくらかのハッキングが出来るが、それほど高い技術を持っているわけではなかった。

「えっと…わたしの腕では…あ! いけます突破できました」
「そうか突破できたか… データ出してくれ」
「はい、これですね」
しゃんどぅがモニターを見ると、SPの三人と思われる人物の顔写真と経歴が表示されていた。
軽く目を通したが、不審な点は見あたらない

「彼らの名前と出身からさらに割り出してみました。三人とも、元々この島の近くの出身で代々続いた漁師、網元の家系のようですね…」
人工島の建設によって、代々続いた海を、家業を奪われた。それが犯行の動機だろうか。

「土地の買収や漁業権の保証などによってかなりの大金を家族は手にしていますね…」
それから数年後に、三人それぞれの父母は死亡したようだった。
そして始まったのは親族による醜い遺産争い、その裁判記録もモニターに表示されている。
何度も変わる名字、奨学金によって卒業した学校の記録など苦労の跡がみられる

「清廉派で人格者と言われている鬼頭先生は建設推進派であった責任のような物を感じて、この人たちを側においたのでしょうか…」
不幸な境遇を憐れむかのように、ちあいがぽつりとつぶやいた

「おい!しゃんどぅ何か分かったのかよー!?」
静流がわざとしゃんどぅの耳元で叫ぶ
「うるせえよ!! まあ、分かったよいろいろ」
「あー!!時間時間!!」
静流が時計を指さす
時計の針は、犯人たちの指定した時刻の十五分前を指していた

「よし、行くか静流。ちあいはここでバックアップだ」
「分かりました」
あまり体力がなく、動くことが苦手なちあいに対するしゃんどぅの配慮であった。

「しゃんどぅ、静流ちゃん、気をつけてね…」
うるが不安げな顔を二人に向けた

「心配すんなって、こんな茶番とっとと終わらせてくるから」
気負った様子もなく、しゃんどぅと静流は部屋を後にした。





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最終更新:2009年04月13日 16:01