SS > Yuk > 帰省戻りのゆっく編


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ゆっくが帰省から帰ってきたようです。

  • 中二まるだし。
  • しゃんどぅの動かし易さに正直驚いた。
  • あとゆっくの日本語がひどすぎる件。
    • 実は「唐突に敬語になる」が結構なツボだった…!
  • っつか、いつの話だ。



「アレ? しゃんどぅしか居てないアルか?」
 扉の方から聞こえてきた、ここ暫く耳にしていなかった声とその妙な日本語とに、しゃんどぅは苦笑混じりに振り向いた。
「まだオレだけだ。けどまーそろそろ他のやつらも来んじゃね? おかえり」
「ただいま。わざわざ土産持てきてやたのに、運悪いやつらネ」
 恩着せがましい口調は、けれどその声音と大分ギャップがある。しゃんどぅは、それが単純に劉九龍―――“ゆっく”の言語習得過程上の問題であると知っているから、殊更指摘して回るようなこともしない。
 ただ、対人関係で問題出そうだよなーとぼんやり思うことはあるけれど。
「土産。要らねえアルか」
 ずい、と出された紙袋をひとまず受け取ると、縦横20cm四方高さ3cm程の菓子箱が入っていた。いつものことだ。ゆっくはほぼ必ずと云っていいほど、国に行った土産にこれを持ってくる。
「やっぱ月餅?」
「要らないとき、しずるにくれるイイよ」
「一人一箱?」
「うん。しずるの3箱あります。したよ」
 確かに、ゆっくが持参した紙袋のうち、明らかにサイズの大きなものがひとつある。前までは皆と同様1箱だったから、ゆっくなりに気を遣っての最後の“したよ”なのだろう。
 ゆっくは、その大袋を軽く持ち上げじっと見てから「…足りないカ?」不安そうに呟いた。
「や、うん、そーな」なんと返答したものか、言葉に詰まる。「けど基準をどこに置くかの問題だからなーこれは…」
「まあ、適当に分けるヨロしいよ」
 取り敢えず全員分置きに来たのだと、ゆっくは月餅の入った紙袋をどさどさと無造作に長机に置き、それから普段座っている場所へと腰を下ろした。
「落ち着くねー。やぱここに座る一番楽ネ」
 向こう暑ぃし散々よーくそめんどくせアルよと愚痴をこぼすたびにずりずりと尻が前に落ちていく。
「つか座ってねーよそれ」
「椅子の上居てるから座てるねー」
 座面の一番前にはかろうじて腰骨が乗っている状態で下半身がだらんと伸び、結果長机の向こうには目から上程度しか出ていない。リラックスというには、なんだかあまりにも溶け過ぎている。
「面白ぇ事とかなかったん?」溶けるたびに愚痴しか出てこないのに些か閉口して、しゃんどぅは訊ねた。「くそめんどくせーだけなんか」
「あー、ボク帰省云うけど違うネ。だから、面白い何もないです」
「あ?」
 ゆっくの言葉をそのまま初期状態で解読しようとした場合の正解率の低さは、今までの経験上よく判っている。
 理由は勿論その語彙の少なさで、だから推理の為に情報量を増やしていくしかない。そしてそれは、ゆっくに何がしか喋らせないと始まらないわけで。
 しゃんどぅは、手っ取り早い単語を疑問系で口にした。
「里帰りだったんだろ?」
「里…アー、うん、国行くね。けど、んー」
 溶けるのはさすがに限界に来たようで動きは無かったけれど、替わりとばかりに、ゆっくはんーあーと唸り始めた。
 …そろそろめんどくせえし、出かけちゃおうかな、オレ。
 しゃんどぅが、匙を投げようと振りかぶった時。
「あ、ちあい! いいとこ来たね!」
 唐突に挨拶の隙間さえなく名を呼ばれて、ちあいは部屋の戸口でびくりと身を竦めた。突然の出来事に、ちあいはどうしても戸惑いを隠せない。
 んあ、と首を向けたしゃんどぅを見て、それから今の声がここ暫く校内に(どころかこの国に)居なかったゆっくのものだと認識出来て、ちあいは漸く「…どうかしたの?」ほぅと小さく息を吐いた。
「あ、おかえりなさいが先かな。おかえり、ゆっくちゃん」
「ただいまねー、土産あるよ土産」ゆっくは紙袋をバンバン叩きながら、溶けていた体を起こした。「ちあい、質問。forced summon、なんて云う?」
 突然流暢な英単語が聞こえて、しゃんどぅの耳が小さくぴくりと動いた。日本語はまだまだ不慣れとしか云いようが無いゆっくだけれど、国に根付いた姿勢の賜物か、あるいは単純に必要に駆られてだったのか(国際誌に論文を出す必要が云々という話はSDFメンバーの度肝を抜いたことがある)、英語はかなり流暢に喋ることが出来る。その落差に妙な違和感を感じるのも無理からぬ話だ。
 けれどその英語の語彙力をそのまま日本語に対応できるかというとそれは勿論別個の話で、そういうときにいつもちあいが駆り出されているのだ。ちあいの能力を買っているといえば聞こえはいいが(そして機械翻訳より意図を汲んでくれる分自分にもみんなにもいいだろうとゆっくは云うが)、つまりは丸投げだ。
 けれど、ちあいはその都度、実に真摯に応対する。
「えっと。強制…招集?」
「だそうネ」
「ね、って」
 ちあいの言葉尻に載せてゆっくが振り向いて、しゃんどぅは思わず鸚鵡返しに口にしてしまった。
「だから、ボクそれね」ゆっくは芝居がかった仕草で肩を竦めた。「行きたいので行く違うよ。ボク、ここ居るの国費ですから、呼ばれたら行くしかないネ。行てもゼンゼン面白いないよ。めんどくさい話ばかりアル」
「…ああ、そういうこと…」
 この《島》に居る子供たちは、多くが“集められた”子供たちだ。けれどそれと同時に“送り込まれた”者たち(この場合、往々にして子供に限らない)も居る。ゆっくも、後者のうちの一人だ。
「ボクの場合、別に人質居るわけ違うから、まだ楽よー」
「なんだその不穏な単語」
「フオンナ?」
 反射的にゆっくはちあいを見る。ちあいの方もある程度予測していたらしい。
「dis... ん、threatenedの方がいいかな。けど本当に?」
「threatening、フオンな。お、bu wen? うん、まあそうアルね、同じ同じ」
 最後の“同じ”は、ちあいに対してのものらしく、ゆっくはうんうんとちあいにうなずいて見せた。ちあいが目を見開く。
「家族居ると皆大変よ。ボクそれ余裕アルから運いい人だたねー。自分だけで良いアルよー」
 ふっふーんと鼻歌混じりに部屋を出て行こうとするゆっくに「いや、どこ行くの」としゃんどぅが訊くと「お茶淹れるね。そろそろ皆も来る頃よ」振り向き返事だけ残して、さっさと給湯室へと行ってしまった。
 暫し取り残されてぽかんとしていたが、来て早々ゆっくに捕まっていたちあいに、しゃんどぅは座るように促した。
 そして、改めて訊ねる。
「ちあい、さっきの…すれとにん? アレなんだ、不穏?」
 ただ単に不穏がどうこうというのを訳したのなら、その後のちあいとゆっくの会話は明らかに不自然だ。それが引っかかっていた。
「日本語だといろんなのを全部合わせて不穏になるでしょ」云い淀み、一呼吸置いてからちあいはつづけた。「…threatenは、脅迫とか、そういうの」
「…ふはー」
 まったく意図せず、しゃんどぅの口から妙な呼気が漏れた。
「文化違いすぎにも程が…っつか、待てよ今、ゆっく、確か」
 世間話以上に軽い口調に乗せて、なんだか妙に重い話をさらりとこなされた、気が。
「や、でも全然別で。そもそも官僚かなんかの家でーとか…」
「あ! おやつ発見!」
 え、と声のする方に向けば、そこは窓だ。その奥に見えるのは青空と木々の緑だ。そして窓枠に手を掛けているのは。
「…しずる、どうやったん」
「何が? それよりその紙袋と中の包み、お菓子でしょ?」
「しずるちゃん、ここ2階…」
「うっわすっごい沢山ある! どしたのこれ! あれ? これでもどっかで見たなあ?」
 ちあいとしゃんどぅの疑問も“おやつ”の前にすべて吹き飛ばし、ひらりと窓枠を飛び越えたしずるは、早速包みの一つを手に取っている。
「しっずるー、ウチらの分ちゃんと残しとく気ぃあるんやろなー?」
「しずるクン、独り占めはずるいわよー?」
 次いで、給湯室で準備をしているゆっくに会ったのだろう、茶器を持ったまあととうるが部屋に入ってきた。
「んー、でもほらいっこにこさんこ沢山? 残る残る!」
「アイヤー!」騒いでいた声が聞こえてきたのか、ゆっくが焦って駆け込んで来た。「待つある! しずるの分3箱持てきたよ! それで我慢するね!」
「あ、これゆっくの月餅かー。じゃ取り敢えず開けるね!」
「取り敢えずじゃねーアル! 茶入るまで待てねーアルか!」
「ちょ、危ねえからまずその薬缶降ろせゆっく!」
 口から湯気の出ている薬缶を振りかざしていきおい現れたゆっくを止めに行き「なあ」しゃんどぅは次いで訊ねた。
「さっき云ってたの、マジなんか?」
「何ネ。しずるの月餅は3箱アルよ」
「そーじゃなくって……あー、もういいや」
 止めていた腕を放し、しゃんどぅは大きく息を吐いた。面倒臭いこともさることながら、聞き出すことにかなりの体力を使いそうだ。
「それがいいネ」
 気にした様子もなく、ゆっくは長机に向かい薬缶を置いた。
「少なくとも」茶盤に蓋碗に茶杯に、ゆっくは手際よく準備を整える。「ボクは、手の届く範囲は守るよ。…それじゃダメか?」
「―――いや」
 聞き慣れない、淀みのない日本語に、しゃんどぅは思わず、唇を湿した。
「…いんじゃね。それで。別に」
 応えに、ゆっくは気持ちよく笑って見せた。


尻切れついでに。