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14歳の冬 前編



しゃんどぅは何度も何度も拳を、重い鉄の扉に叩き付けた。
周囲には炎が燃えさかり、火の粉が飛んできて肌を焦がす。
熱気が体を包み、吸い込む空気が肺を焼く。

(開け!!開け!!開け!!)
そう念じながら拳を打ち続けた。
皮膚はめくれ血を流している。
痛みはとっくに麻痺していた。

(必ず…救うんだ!!)
その思いがしゃんどぅを動かし続けていた。



人工電脳島で起きた大火災
その炎は多くの生命と財産を奪った。
原因は自然発火とも放火とも言われているが、真相は公にされていない。
発生時刻は午前3時、多くの住民が寝静まっていた時刻だ。
そのため逃げ遅れたモノが多く被害が拡大した。

群咲しゃんどぅが14歳の冬であった。

多くの偶然に助けられしゃんどぅは、自身の過去と決別し、人工電脳島に移り住んでいる。
そして島に建てられた学園の中等部へと進学していた。

一般の学生として学園に通う一方、しゃんどぅは決して表に出ることのない活動をしていた。
学園防衛隊SDFである。

多額の国家予算をつぎ込み運営されている人工電脳島は、最先端技術と国家機密の宝庫である。
当然、この国に敵意を持つ者たちにとってはかっこうの標的であった。
そのため島には、一般住民や学生を装った諜報部員が潜伏している…らしい。
しゃんどぅのそれらの知識は自ら獲得したものではなく、SDF隊長からの受け売りであった。
そのSDF隊長こそが、学園のトップ月水雷堂(つきみずらいどう)であった。
そして同時に、しゃんどぅの現在の保護者でもあった。

しゃんどぅは雷堂に多くのことを教え込まれた。
非常時の際に生き残るための技術
自らの身を守るための護身術
そして、人が人であるための心構え
何がほんとうに大切なことなのか
雷堂に命がけで教えられた



この島に初めて訪れたとき、しゃんどぅは生きる屍であった。
多くの大人に裏切られ、そして醜い欲望の道具として扱われてきた。
多くの苦しみや絶望を味わい、しゃんどぅはいつしか心を凍らせた。
そうすれば何も感じない。何も苦しくない。
肉体は生きているが、心は死んでいる、そんな状態だったのだ。

しゃんどぅを引き取った雷堂がしたことは、意外にも二人で旅に出ることであった。
二人は最低限のキャンプ道具を背負い、どことも分からない山中を歩いた。

一日中、ただ歩き続けた。
何日も、ただ歩き続けた。
その間、雷堂はしゃんどぅに一切話しかけなかった。

何日も過ぎてしゃんどぅの心に変化が現れた。
(なぜ、この人は何もしゃべらないのだろう)
そんな疑問が沸いたのだ。
雷堂は話しかけはしなかったが、けっしてしゃんどぅを無視していたわけではなかった。
身振りや手振りでいくらかの指示をしゃんどぅに与えていた。

(どうしてなんだろう)
一度沸いた疑問が、しゃんどぅの中で堂々巡りをしていた。
しかしいくら考えても答えは出てこない。

それからも何日も二人は山中を歩き続けた。
ある夜、野営でたき火に当たっていたときしゃんどぅは思い切って聞いてみた。
「どうして、何もしゃべらないの…?」
その声を聞いた雷堂はかすかに微笑みながら
「やっと人間になったか」
そう言った。

二人の旅はそれからも続いた。
雷堂は多くのことを声に出して、しゃんどぅに教えた。
咲いている花の名前、生えている野草の種類、どの植物が薬となって毒となるか。
川にはどのような生き物がいるのか、どの水は飲めるのか、樹木の名前とそこに住む小動物の生態。
どの地形が安全に歩けるのか、毒虫に刺されたときの対処方法、天候の予測の仕方など…多くのことを教わった。

旅の最中、二人は兎などの動物を狩った。
雷堂が投げる石つぶては百発百中だった。
捕った兎は食べた。
しゃんどぅには当初、それがひどく残酷で恐ろしかった。
しかし生きるとはどういうことなのか、生きるために食べることはどういった意味なのか
それらも教えられた。

いつしか季節は冬になっていた。
ある吹雪の夜、しゃんどぅの不注意で火が消えてしまった。
それは暖を取るための火であった。
雷堂はなんどか再点火を試みたが無駄であった。

しゃんどぅは怖くなった
このままでは二人とも凍えて死んでしまう…
しゃんどうは震えた、それは寒さのせいではなかった。
死の恐怖にとらわれていたのだ。

雷堂はしゃんどぅを抱きかかえて膝の上に座らせた。

「しゃんどぅよ、火が消えてしまった。このままでは二人とも凍え死んでしまうだろう」
しゃんどぅは雷堂の胸の中で無言でうなずいた。

「生き残るためにはお互いの体温で暖め合うしかない」
そう言って雷堂はしゃんどぅを強く抱きしめた。
雷堂の体温でほのかに温かかった

「温かいか?しゃんどぅ…」
「う、うん…」
「これが命の温かさだ」

しゃんどぅは泣いた。
なぜだか分からないが涙が次々と溢れる。
いつしか、しゃんどぅは大きな声を上げて泣いていた。

それから数日、二人の旅は終わった。
島に戻ったしゃんどぅは、初めて訪れたときのような生きる屍ではなかった。
生きることとはどういうことなのかを知っていた。

それからいくらかの月日が流れた。
そしてしゃんどぅは雷堂からSDFのことを聞かされた。
それは、多くの人を守ることであった。
あの吹雪の夜に知った命の温かさ、それを守るとはどういうことなのか。
まだ意味は分からないでいた。
しかし、しゃんどぅは雷堂のことを信頼していた。
この人がやることはきっと、あのとき自分を救ってくれたことと同じことなのだと感じた。
しゃんどぅはSDFに入隊することを決意した。


  • 後編に続く