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14歳の冬 後編



しゃんどぅ14歳の冬
人工電脳島の歴史上最悪とも言える大火災が発生した。

深夜3時、SDF緊急召集。
任務は火災から一人でも多くの人命を救うこと。
しゃんどぅは防護マスクと耐火服をまとい、先輩隊員と学園内の施設の救援へと向かった。

学園の構造は熟知していた。
しかし激しく舞い上がる炎と煙によって、思うように身動きが取れないでいた。
最悪なことに、しゃんどぅは床の崩落によって下の階へと落下し、先輩隊員と分断されてしまうのであった。

しゃんどぅは、とっさの身のこなしで骨折などは避けることが出来た。
だが、上階の床の崩落時の衝撃が足元の床を崩落させ、それに引きづられるかのように周囲の壁も一斉に崩れ出す。
しゃんどぅは、その場からすぐさま駆け出す。
かろうじて倒壊に巻き込まれずにすんだが、無我夢中で走り回ったせいで、現在地がどこなのか分からなくなってしまった。
しかも無線通信機を紛失し、他の隊員と連絡がとれなくなっていた。

さすがにまずいな
そう判断したしゃんどぅは、建物から脱出を計ることにした。

流れる煙の方向から出口を予想し、足元に細心の注意を払いながら通路を前進する。
五感を研ぎ澄まし、少しずつ出口へと向かう。

不意に、視界の端に学園の制服が映った。
まさか
しゃんどぅは周囲を見渡すと、崩れかけた部屋の中、半開きのドアの向こうに一人の生徒が煙に巻かれて咳き込んでいた。

「おい!!今助けに行くぞ!!」
生徒はその声に気づいたのか顔を上げた。
そして何かを言っているようだが、しゃんどぅには聞き取れないでいた。
その生徒が何かを叫びながら、天井を指さした…瞬間
その天井が落下、生徒がいた部屋を押しつぶしたのであった。

落下の衝撃で半開きだったドアが歪んで閉じている。
しゃんどうは取っ手を押したり引いたりするが、開く気配はない。
崩れた部屋の壁の隙間から、かろうじて室内が伺えた。

「おーーい!!大丈夫か!!生きてるか!?」
しゃんどぅは大声で呼びかけた。

「う…うぅ……っ」
生徒のうめく声が聞こえた。
室内の様子ははっきりとは分からないが、生徒は崩れた壁や柱の隙間に倒れているようだった。

「無事か!!動けるか!!」
「う…足が挟まって…」
「今行く!!!!」

しゃんどぅは崩れた瓦礫をどかし始めた。
しかし、それらは微妙なバランスで組み合わさっており、うかつに動かせば生徒がいる隙間を潰しかねない。
しゃんどぅは冷静になって瓦礫を見回すと、本来の出入り口を塞いでいる扉を開ければ生徒の元へたどり着けられる道を見つけた

しかしその扉は耐火用の鋼鉄製のようで、かなりの重量があった。
しゃんどぅは崩れ落ちた柱を利用し、てこの原理で扉をこじ開けようとした。
それによっていくらかの隙間は出来たが、体全ては通りそうもない。

ひとりでは無理なのか…?
紛失したことも忘れて、思わず無線機を探しまった。
仮に連絡が取れても間に合わない…
火の勢いはますます強くなり、煙のせいで周囲もろくに見えない。
倒れている生徒が激しく咳き込む音が聞こえる。
しゃんどぅはとっさに防護マスクを外し、崩れかけの壁の隙間から生徒に向かって投げた。
マスクは上手い具合に転がり、生徒の手へと渡った。

「それを着けるんだ!!そうすれば呼吸が楽にな…ごほっ!!」
そう言ったしゃんどぅ自身が思いっきり煙を吸った。
煙が目に染みて涙が溢れる。

あと少しなんだ
しゃんどぅは扉の僅かな隙間に体をこじ入れ、全身を使って押し広げる。
ギシギシと鈍い音を立て、隙間が少し広がる。

もう少し開けば、あの生徒を引っ張り出せる…
必死の思いで力を込めるがそれ以上は開かなかった。

力んだせいもあり呼吸が苦しくなる。
息をすれば煙を吸い込む。
激しく咳き込み、涙を流し、しゃんどぅの思考は朦朧としだす。

俺じゃ誰も救えないのか…?
俺は師匠やSDFのみんなに助けられて生きている…
そんな俺が誰も救えないで死んじまうのか…?

いつの間にかしゃんどぅは、そばにあった瓦礫で扉を殴打していた。
それで扉を開けることなど出来ようもないのに。

あきらめない
そう思いながら一心不乱に扉を叩く

俺はあきらめない
あそこにいるやつの命も…俺自身の命も…
ここであきらめたら…俺を生かしてくれた師匠や仲間を裏切ることになっちまう…
手にしていた瓦礫は砕け、しゃんどぅは拳で扉を叩いていた。

開け!!開け!!開け!!
そう念じながら拳を打ち続けた。
皮膚はめくれ血を流している。
痛みはとっくに麻痺していた。

必ず…救うんだ!!
その思いがしゃんどぅを動かし続けていた。

こぶし大ほどの塊が天井から落ちてきた。
見上げると、その塊の落ちてきたのはしゃんどぅの頭上、通路側の天井でぽっかり穴が空いて全体が少しずつ下がってきている。
それはまもなくこの天井がくずれるサインのようなモノだった。
このままここにいれば崩落に巻き込まれる。

まだだ…あきらめねー!!
渾身の一撃を扉に放った瞬間、天井が崩れ落ちるのをしゃんどぅは見た。




通路の天井がしゃんどぅを押しつぶそうとした刹那、しゃんどぅに覆い被さるように飛び込んできた影があった。
その影はすさまじいに力よって崩れた天井を支えている。
影は低く唸ると支えていた天井を放り投げた。

「しゃんどぅ無事か!!」
影は学園長にしてSDF隊長の月水雷堂であった。
「し、師匠…」
雷堂はしゃんどぅを支えると持っていた予備の防護マスクを被せた。

「どうしてここへ…」
「お前が他の隊員とはぐれたと聞いて探していた。あまりに姿が見ぬから脱出したと思っていたら…なにか打ち付ける音が聞こえてな」
「そっか…へへ、あきらめないでよかったぜ…それより扉は!!」
鋼鉄の扉は天井の崩れた破片がぶつかり、瓦礫から外れ落ちていた。
しゃんどぅと雷堂は協力して部屋の奥に倒れている生徒を保護した。

小柄な体型と切り揃えられた前髪のその生徒を、しゃんどぅは抱きかかえ急ぎ脱出した。
道すがらその生徒の様子をうかがうと、しゃんどぅが投げ渡した防護マスクを着用しているせいで顔色は見えないが、呼吸は安定していた。
生徒は半ズボンを着用していたため、火傷や軽い擦り傷は見られたが挟まった足も骨は折れていないようだった。
建物から出て振り返ったしゃんどぅは、今まで自分がいたのは図書室であったことに気づいた。



翌日、夕方近くなってようやく火は収まった。
奇跡的に学園生徒の死者はいなかった。

しかしながら島の住民たちは寝静まっていた深夜ということもあり、多くの犠牲者が出た。

任務もひとまず終了となったSDF隊員は、校長室へと集合して各自活動の報告をしていた。
しゃんどうが部屋にはいると、いきなり雷堂に殴られた。

それは図書室で救助する際に、自分の防護マスクを渡していたことについてであった。
雷堂が言うには、結果として運良く二人とも無事であったが、そのようなことをすれば自分も死ぬ危険が高い。
SDF隊員は、なにがあっても死んではならぬ。
雷堂はそれ以上は言わなかった。

あのとき、自分の防護マスクを与えなければあの生徒は死んでいたかも知れない。
しゃんどぅは、そんな反論は口にしなかった。
たぶん、どっちが正しいかなどはないのだ。
あの師匠のことだ
結果として二人とも無事助かったからパンチ一発で済ませてやる
そんなことだろう。

運が良かった
たしかにそうだと思う。
しかし隊員の命を預かる隊長としては、運が良かったではならないのだ。
必ず全員生きて戻る。
それがSDFの信条であった。

それに、そもそも自分が未熟だったから最初の床の崩落に巻き込まれた
そうとも言える。
事実、他の隊員にはそのようなことは起こらなかった。

未熟、未熟、未熟…くそっ!!
しゃんどぅは悔しかった。
未熟ながらも今回は一人の命を救うことは出来た。
しかし未熟でなければ、もっと多くの命を救えたのかも知れない。

しゃんどぅはいつか師である雷堂や、他の隊員たちを超えるような者になろうと誓った。




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