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知愛とちあいと



学園七不思議の一つ、図書室の怪異と言われた事件は無事に解決した。
その過程でSDFは図書委員の落合知愛(おちあいともえ)と出会い、その協力もあって事件を秘密裏に処理できた。
知愛はその生まれ持った特別な能力もあり、しゃんどぅからSDFへとスカウトされた。

「まあ、知られちゃったからには、仲間に引きずり込んだ方が手っ取り早いだろ?」
などとしゃんどぅは軽口を叩いていた。

(あの日のことは覚えていないか…)
知愛がしゃんどぅと顔を合わせたのは、この事件が初めてではなかった。



3年前の深夜
大火災のあの夜、知愛はしゃんどぅによって命を救われていた。

図書委員として活動をときどき夜の間も行っていた。
300万冊以上の蔵書を抱え、多くの生徒が利用するため雑務は果てしなくあった。
自分以外の図書委員は閉館間もなく寮へと帰る。
知愛は図書委員長や管理顧問の許可もあってひとり遅くまで作業することがあった。

本が好きだった。
そこに書かれていることを読み、自分の中へと蓄えることが喜びであった。
物心ついた頃から知愛は本に囲まれていた。
知愛はそれらを次々に読破していった。
子供向けの絵本などはすぐに読み尽くし飽きてしまった。
しだいに大人向けの挿絵もなく難しい漢字の多い本にも手を伸ばした。
そんな知愛の姿を見て大人たちは驚いた。

しかし、それ以上に大人を驚かせたのは、知愛が本の内容を丸まると覚えていることであった。
当初、周りの大人はただの偶然や、少し物覚えのよい子ぐらいの認識であった。
これはただごとではないと騒がれ出した。
知愛はそれがイヤだった。
あちこちに連れ回され、いかに本の内容を覚えているかを披露させられた。
しまいには神童などと呼ばれだした。

学校の成績は常にトップであった。
暗記を重視する従来の学力測定は、知愛にとってなんら意味がなかった。
数学も所詮は暗記であった。
解放さえ覚えてしまえば、それを解くのは造作ないことである。

学校の授業もすでに知っていることの繰り返しであったばかりか、ときどき教師は平気で間違えたこと言う。
一度それを教師に指摘したことがあった。
恥をかかされたと思った教師はそれから知愛に冷たく当たるようになった。
そんな教師の態度を見て、同級生も知愛に同様の態度を取る。
最初は知愛のその能力を褒めていた同世代の子供たちも、次第にそれが異常であるとして知愛を避けだした。
そして、知愛はひとりになり本を読むことに没頭した。

やがて知愛は学校へ行かなくなった。
つまらない体験をするくらいなら本を読んでいる方がましであった。

それからいくらかの時がたち、知愛は七竜学園の中等部へと編入した。
知愛の記憶能力を知った学校の推薦であったらしい。
学園案内のパンフレットには図書室の紹介が載っていた。
多くの蔵書を抱えていることがとても魅力的だった。
知愛はすぐに図書委員となり、図書室へ入り浸った。
どこにどの本があるのかはすぐに覚えた。

図書委員ともなれば図書の貸し出しと返却手続きや書架の整理など、多くの雑務もこなさなければならなかった。
初めは煩わしく感じていた作業だったが、いつしか面白くなってきた。
あるべきモノを、あるべき場所へ配置する。
そういった整理作業が自分には向いているのかも知れないなどと漠然と思った。

図書委員の仕事で一番困ったのは、本のありかを尋ねられることであった。
場所はもちろん記憶している。
しかし、それを人に上手く伝えることが出来ない。
ひどく口ごもってしまったり、次に言うべき言葉が浮かばなかったりした。
なので、しだいに近くならば指を指すか、遠ければ先導して連れて行くことにした
その間は無言で。

いつしか知愛は図書委員としての活動に充実感を感じていた。
図書室で多くの本に囲まれると心が安らいだ。
同じ図書委員たちとは上手く会話が出来なかったが、それでも彼らは知愛を認めてくれた。
数多くの特殊能力を持つモノが多い七竜学園では、知愛もよくいる生徒の一部であった。
こうして知愛の図書委員として充実の日々は過ぎていった。

そして14歳の冬の日、あの大火災が発生する。
その夜、知愛は新刊の図書を運び込む作業を遅くまで続けていて、いつの間にか図書室で眠っていたのだった。

激しく鳴り響く火災報知器の音で知愛は目を覚ました。
初めは何が起きているのか分からなかった。
何事かを確かめるため、書架エリアと前室をつなぐ扉を開けた。
それがいけなかったことに後に知愛は気づいた。

七竜学園の書架エリアは空調、温度や湿度管理のため広めの前室を設けていた。
普段ならばそこにモノは置かれていないのだが、知愛が新刊を一時的置いていたのだった。
火災の炎はその新刊や壁の内装材を燃やしていた。
しかしながら閉じられた空間であったので、完全には燃え切らず不完全燃焼を起こし一酸化炭素が溜まっていた。

そこへ知愛は書架エリア内の新鮮な空気を送り込んでしまった。
結果、くすぶっていた炎に急激に酸素が取り込まれ、一酸化炭素は爆発を起こした。
爆発の衝撃で知愛は飛ばされ、体を壁に打ち付け気を失ってしまった。

どこかの天井が崩れる大きな音で知愛の意識が戻ったとき、炎はすでに書架エリアへと燃え移っていた。
煙のせいで周囲はよく見えなかった。
呼吸をするたびに苦しくなって咳き込んだ。

もう助からない
直感的にそう思った。
自分が大切にしてきた多くの本も燃えてしまっている。
周りの生徒とも上手く馴染めずに過ごした日常。
図書室で仕事をしているときと本を読んでいるときだけが楽しかった。
仮にここから助かったとして、図書室のない日々を送ることが出来るだろうか。
それはきっと、ひどくつまらないモノだろう。
ならば、もういっそ、ここで死んでもいいかもしれない。

「おい!!今助けに行くぞ!!」
突然、誰かの声が聞こえた。
こんなときに誰かが来るはずもない…
そう思ったが、間違いなく誰かがこちらに向かってくる。
何かマスクのようなモノをしているため顔は分からない…生徒だろうか。

「来ないで…もういいから」
知愛は言った。もうつまらない日常には戻りたくなかった。
ふと天井を見ると、今にも崩れ落ちてこようとしていた。
向こうから来る人は、それに気づいていないようだった。

「危ないから!!来ちゃダメ!!」
知愛は天井を指さし声を上げた。
その瞬間、天井は崩れ落ちた。

そこから先を知愛はあまり思い出せないでいた。
投げ渡されたマスクをいつの間にか顔に着けていた。
死んでもいいなどと思いながらも、本能では死にたくなかったのだろうか。
たんに、着けろと言われたから着けただけのような気もする。

おぼろげに思い出せるのは、誰かが必死に何かを叩き続ける音。
まるで、生きることをあきらめない強い意志を思わせる音であった。
そして自分を抱きかかえる腕の感触と、マスクの向こうに見える力強い瞳の輝き。


入院中の知愛の元には図書委員の仲間が見舞いに訪れた。
これから図書室の復旧に向けて忙しくなるから、ぜひ手伝って欲しいとのことだった。
自分の大切な場所をもう一度作り上げる
知愛には新たな生きる目標が生まれていた。
そして一度は死んでもいいと思ったことを悔いた。
決して、もう思わない。



それから数年がたったある日の図書室
知愛は突然後ろから声をかけられた。

「なあ、図書室ってのはここでいいのか?」
誰だそんな当たり前のことを聞くのは
そう思い無視することにする。

「おちあいちあい…ってのはアンタなんだろ?」
時々そうやってからかわれたことがあったのを知愛は思い出した。
面白くないので追い払おうと決め、声の方を向く。
そこには髪の毛の一部を猫の耳のように逆立てた生徒がいた。

「学園七不思議って知ってるか?」
どこかとぼけた感じを装いながらも、力強い視線だった。
それは、あの日、自分を救ってくれた人と同じ力強い瞳の輝きだった。