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紫安としゃんどぅと


  • 小六の春からの分岐


父と母が自分を見るあの目はなんなのだろう。
まだ幼い弟にはいつも優しげな目を向けている。
しかし自分には…
忌まわしいモノを見るかのような、拒絶するかのような目。
それはたぶん、「畏れ」なのだろうと紫安は感じた。

ロンが行くと言ってた七竜学園
それは七竜湾に人工的に作られた島にあるという。
ほとんど日課になった図書館でのネット接続。
紫安は何の気無しに”七竜湾”で検索してみる。

検索結果はほとんどが人工島の七竜島に関するサイトであった。
マウスのホイールを操作し画面をスクロールさせると
『七竜湾伝承』
なるサイトが見つかった。
興味本位でそのサイトを訪れる。

そこは黒い背景にいかにもな書き文字で、おどろおどろしさを表現したオカルトサイトであった。
くだらないな
そう思いながらもいくつかの記事を流し読んでみる。
そこに書かれていたのは主にこんなことであった。

七竜湾を囲む二つの半島は通称『竜の顎(あぎと)』と呼ばれている。
七竜湾には大昔に暴れ回った『邪悪な七匹の竜が封印されている』
そのような場所に作られた七竜島には必ず『七竜の災い』が訪れる。
七竜の力を与えられた人間には『竜の痣』がある。
竜の痣を持つ者が七人集まると『世界が滅ぶ』

いかにもありがちで安っぽい話だな。
そんな設定の漫画がどっかにあったような気もする。

いつの間にか閉館の時間が来ていたようだ。
アナウンスの声にせかされるように図書館を出る。

自宅に帰り無関心な母親に成績表を渡し、紫安は部屋に入った。
着替える際に鏡を見てふと思い出す。
そういえば、この痣ってなんとなく竜のような気がする…
鏡に映る自分の腰付近をよく眺める。
そこにはまるで竜が自分の尾をくわえているかのような痣がある。
ただそれははっきりとしたものではなく、無理矢理こじつければそう見えるといった程度のものであった。

まさかね
紫安はつまらない考えを振り払うように、急いで着替えた。

学校のない夏休みは、自宅にいる時間が増え紫安にとって苦痛であった。
適当に理由を付けては外に出かけた。

その日も夕方まで図書館や河原などで時間を潰して帰宅することにした。
自宅の玄関には父の靴があった。
珍しいな、こんな時間に。
そう思いながら家に上がった。
その瞬間、違和感を感じた。

空調がかかっていないのか、やけに蒸し暑い。
外は日が傾きだして薄暗いにも関わらず明かりが一切ついていない。
何の物音もしない。
両親と弟がいるはずなのに気配が全くしない。

どういうことなんだろ…
紫安の体からイヤな汗が流れた。
変な臭いもする…
紫安は恐る恐る居間へと続く扉を、開けた。

赤い
床も壁も一面が赤かった。
差し込む夕日のせいではなく、何かがでたらめに塗られているかのようだった。

めちゃめちゃ倒されている家具
割れたテレビ
そして、身動き一つしない両親が真っ赤に染まって横たわっている。

「………ッッ!!!!」
恐怖から悲鳴を挙げようとしたその時
紫安の目の前に黒い影が、現れた。
男なのか
人なのか
あるいは魔物なのか
紫安には判断が出来なかった。
見ようとしてもはっきり見ることが出来ない。
なんだかもやもやした黒い影の塊のような存在

「…………」
影が何かを喋った。
聞き取れない。
日本語なのか
外国語なのか
たんなる呼吸する音なのか

黒い影が近づいてくる。
それはもぞもぞち動き、ひとつの形を作って行く。
まるで、黒い竜
紫安の意識はそこで途切れた。



警察による捜査の末、両親を殺した犯人として紫安は逮捕された。
弟はその日、偶然祖父母の家に預けられていて難を逃れたらしい。

現場に残された凶器からは紫安の指紋が検出された。
家にいないで外で時間を潰してばかりいる紫安にアリバイなどもなかった。
また普段から紫安は両親を憎んでいた…などと言った証言があったらしい。

警察の強引な取り調べにより紫安は自供させられた。
そして異常な早さで裁判にかけられた。
判決は有罪
犯した罪は重大であるとして、紫安は少年刑務所へと送られる。
親殺しの汚名は同じ刑務所内において、同じ受刑者から最低の扱いを受ける。

地獄のような日々が繰り返され、紫安の心は、壊れていった。

ある時、弁護士を名乗る男が訪れた。
その男の話によると、紫安の逮捕、裁判には疑問があるとのことだった。
そこには親族の力が介入していたらしい。
忌まわしい子供とされていた紫安を排除し、幼い弟の後見人として藤堂家の遺産と権力を握ろうとしている者がいる。
弁護士の男は、裁判のやり直しが決まった、これで無罪を証明できると力強く語った。
しかし、紫安はもう全てがどうでも良くなっていた。

やり直し裁判により紫安は無罪となった。

だが紫安の心は晴れない。
それどころか冷たく凍り付いていた。
もう誰も信用できない。
こうやって何も感じないようにしていれば、苦しむことはない。
そう思いこんでいた。



紫安は七竜島に行くことになった。
死んだ両親の代わりに紫安の面倒を見ることになった人物がいるらしい。
その人物が紫安の逮捕に疑問を持ち、救い出すために手を尽くしたのだという。

七竜島
かつて交わしたロンとのメールのやり取りを少しだけ思い出した。

学園内に連れて行かれた紫安の前に、一人の男が現れた。
「ぼうず、お前の名前は?」
男が紫安に問いかけた。

名前…紫安という名前
誰からも愛されず、畏れられる忌まわしさの象徴。
もう紫安は死んだんだ
こうやって何も感じないようにしているから
だから自分は紫安じゃない
名前は…

「しゃんどぅ」
唐突にしゃんどぅという言葉が自分の口から出た。
それはかつて、一度だけあったことのある友達が呼んだ名前だ。

「そうか、しゃんどぅか」
男はやや大げさな笑顔を見せた。
「ワシはここの学園長をしている月水雷堂」
そう言って大きな手で紫安の頭をなでた。

ロン、君はここにいるのだろうか
いてくれたら、嬉しい
でも、もしいなかったら
悲しい思いはしたくない
だから何も感じないようにしよう
そうすれば悲しくも苦しくもなくなる

これからはしゃんどぅとして、何も感じないでいよう