SS > Yuk > 11歳ゆっくの続き


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タイトルを思いつく能力がありません。

  • 誰かタイトル決めてくれ。
  • 小さいうそを細かに吐きながらお送りします。



 昨日エイリアスを切って転送させておいたサーバーに、SSHで110ポートへアクセス、コード変換を入れてから、ログインしてlistを取る。ダミーで幾つか紛れ込ませているメールのファイルサイズは覚えているから、それ以外があればつまり、あの子からのメールが来ているということだった。

 書くものも持たず伝える術にも乏しいあの時の九龍には、普段持たされていた名刺は確かに一番有効な手段だった。今でもそれは間違いなかったと思っている。
 けれどそう確信を深める度(それはひょっとしたら後悔を上塗りする為の心理であったろうが)、あの子に大きな迷惑を掛けたのじゃないかと、メールのやり取りを繰り返す度に九龍の心の底で澱の様に溜まっていた。
 自分はどうやらあまり一般的でない機関に属していて、他の人々と積極的に関わることは褒められることではないらしい。九龍もそのくらいのことは判っている。たまに出かけることになるような時は誰か大人が着いてくるし、周りに居る同じような状況の人間達を見るに付け、そう思わざるを得ないところがあるからだ。
 けれど、つながりを持ってしまった。相手からではなく、自分から手を伸ばしてしまった。
 だから、自分は出来る限りの対策は取らなくちゃならないという一種の義務感を九龍が抱いたのは、ある種当然の心理だ。
 涙ぐましい無駄な努力なのかもなあと思わないでもない。結局外部へ出るまでに使っているのは普段どおりのマシンと回線だから、きっとログも取られているし定期的に監視もされているんだろう。
 ―――定期的じゃないにしろ、ルータやスイッチのパケットだって、いちいち細かく見たりしてるのかも。
 そう考えてから、根気の要る話だなとなんだか奇妙におかしくなった。
 九龍は自分では自分に価値がどれだけあるかなどと考えたこともないし、仮に何かあったとしても、そこまで手を掛けられる理由まではさっぱり判らないから。
 ―――あの大人達は、何かにムキにでもなってるのかな?
 特別面白いことがあるなら別だけれど、そうでないパケットの流れを見続けるだなんて絶対やりたくない仕事だし、本当にやっているのだとしたら大層なことだ。
 だがそれを大人達が大真面目にやっていそうなのが、どうにも笑えてくる。

 今日使っているボックスには13通。7番目が見知らぬサイズの、そう、しゃんどぅからのものだ。
 ――― RETR 1。
 気が急くのをなんとか押さえ、九龍はリズムを変えずに一つ一つのメールを順に辿る。
 ――― DELE 2。RETR 3。スパム。DELE 3。RETR 4。普通のメール。まずIDを拾って、1行ずつスクロール。少し時間をおく。DELE 4。
 ダミーで入れているメールはよそから拾ってきたものが殆どだから、時々スパムも混じっている。自分で仕込んだのだから判りきっているそれらも、あくまでも普通にメールを閲覧するときのように、メールボックスに入っている順番に開いていく。返信の必要そうなものについてはRefferのためのメッセージIDを拾う。
 そこまでする必要はないかもしれないと思うけれど、常の九龍はそうしている。だからここでそれを違えることの理由はない。
 ――― RETR 7。
 見慣れたヘッダ。
 区切りの空行。それから本文。1画面で容易に収まってしまう程に、しゃんどぅからのメールはどこかそっけない。けれど、なんだかそれが特別な温度でも持っているようで、九龍はうれしく思う。
 だんだん暑くなってきた天気のこと。前に九龍が送った内容へのレス。それから。

  今日学校で、中学受験の話になったんだ。
  ロンは中学校、受験とかするの?

 受験? その単語だけ脳に刻んで、もう一度だけ全部にざっと目を通し、それからいつものように名残惜しい気分でDELEをタイプする。DELE 7。RETR 8 ―――。

 110から抜けてすぐ587に入るつもりだったが、その前に確認が必要になった。メールサーバーを抜け、経由していた幾つかのサーバーからも抜けていって、それからいつものように、他の必要そうに見せかけたコマンドに紛れ込ませつつ自分のアドレスへのエイリアスと転送を掛けなおしてログアウト、即座にLANケーブルを抜いた。
 ノートの蓋を閉じ、ベッドで腹這いのまま、顔を右手に向けた。
「ミツキ、質問、いいか?」
「うん、どうぞ」
 ミツキは同室の日本人だ。九龍と反対側の壁際のベッドで背凭れに体を預けて、なんだか針金をかちゃかちゃしている。確か年が10ばかり上なことは知っているけれど、九龍はミツキが何をしている人なのかは知らない。多分向こうも同じだろうと思う。
 九龍にとって大事なのは、ミツキは九龍に一番近い、日本語の実践相手であるということだ。
 早速訊ねようとして、音がわからないことに気づいた。腹這いのままもぞもぞと前にすすんで、手を伸ばして紙とペンを机の上からもぎ取る。
「これ、なに?」
 閉じたノートの蓋の上で 受験 と書いて、ミツキに見せた。ちらりと目で紙を見たミツキは短く返事をする。
「受験」
「ジュケン。なに?」
「難しい学校とか、新しい学校に入る為に、試験を受けること。examination for entering」
「I see. Thanx, ミツキ」
 ミツキは英語のほか、九龍の母語も多少使うことが出来る。でもミツキが九龍にそれを使うことはあまりない。九龍はその方がためになると思うから、特別母語を使って欲しいとは思っていないし、要請したこともない。
 大体はそうして必要なことをやりとりすれば話は一度終わるのだけれど、ミツキもヒマを持て余していたのだろうか。九龍に相槌を返してから、質問を投げた。
「no probrem. ロン達の習慣には無いの? 受験」
 ジュケン、と、覚えたての音と文字を脳で反芻しつつ、九龍は応える。
「あるよ。けど、字違うます。ゼンゼン」
「違“い”ます」
「ちがい、ます」
「うん。同じような字を使っていても、やっぱり通じないことも多いんだね」
「うん、多いネ。けどそれ、ボク楽しいよ」
 喋っている間もミツキはかちゃかちゃと針金をいじっていて、九龍にはやっぱりそれはよく判らない。
「ロンは今、いくつだっけ?」
「いくつ。歳? 11よ」
「今年11歳になったの?」
「今年は12歳なるよ」
 喋りながら、九龍は再びノートパソコンの蓋を開いている。サスペンド状態だったマシンが、メモリから環境を引き戻し始める。
「中学校、ロンはどうするのか聞いた?」
 ミツキの手の針金が、別の物に変わっていた。そういえば最初に会った頃に一度、それが知恵の輪なんだと聞いたことを思い出す。
「日本の中学、泊まることなたよ」
 ミツキの眉間に少し皺が寄って、目が少し彷徨った。マシンが立ち上がったので、LANケーブルを刺しながらミツキを見て、九龍はまた少し日本語を間違えたのかな、と思う。
 唇を湿しながら、ミツキは確認の為の英語を口にした。
「ロン、you will pass in a domitory and study in junior high school?」
「yes. I'll...」
 そのまま英語で続けようとした九龍の言葉は、ミツキに遮られる。
「うん、それは“泊まる”じゃなくて、“寮に入る”とか“寮で過ごす”とかだ」
「リョウ?」
「まあ、ここみたいなもんだね」
 そっかと納得して、ロンは目をモニタに向けた。SSHで潜って潜って、目的のサーバーに辿り着いたら今度は587へ。ehlo、auth。
「そうすると、ロンは遅くても来年の春にはここからいなくなるね」
「多分もう少し早いなるよ」
 返信が必要なのは、4番目と7番目と11番目のメール。まずは4番目から。MAIL FROM、RCPT TO、DATA。
「ボク、試験運用必要ね。仕事してた使うよ。研究もあるね。秋か、冬にはここいないあるよ」
「ロンが作った何かを、そこで使うの?」
「うん」
 次はしゃんどぅへのメール。どう打とう。天気の話? 今日は外を見ていないし、学校の話をいきなりしたらおかしいだろうか。でも他に何かあったかな?
「そのテストの為に、ロンは早く行くんだ」
「うん」
 学校の話の他に、思いついた2・3のセンテンスを足して、ピリオド一つ。エンター。送信成功のログを見てから、今度は11番目の返信を作る。
「じゃ、またしばらく一人かな」
 手だけでなく思考も止めて、九龍はミツキを見た。ミツキの針金は止まっていた。



  • つづくよ!
  • つうかこの針金野郎誰だ(前回に引きつづき


後編という名の追加分。


「いや、…そうか、そうなるのかな」
 ミツキの独白に、なぜか奇妙な空虚さと寒気を感じて九龍は身体を縮めた。半身を起こしてぺたりと膝をつく。
 モニタでは11番目のメールに対するつくりものの返信が中途のまま止まっていた。
 つくりもの。ふと浮かんだその言葉に、何故か妙な引っかかりを感じる。
「…すぐ、ボクのあと、くるよ。この部屋。一人ないよ」
「こないよ」
 ミツキは、ずっとこの部屋にいる。理由はわからない。そして手慰みの様に、針金をかちゃかちゃと鳴らしている。
 九龍がこの部屋に来た5年前から、ずっと。
「ロン、君はどこまで知ってるの?」
「…な、にを?」
「いや、知らないんだな、君は。多分知らないことが大事なんだね」
「…ミツキ、わからないね、なに?」
 次第に焦りの様な物が沸いてきて、九龍は助けを乞うようにミツキに尋ねる。けれど、それは言下に拒絶された。
「私一人で喋るから」ミツキは九龍を見ようともしない。「ロン、パソコンしていなよ」
 針金の代わりだろうか。ミツキは先程から、手の中でパチパチと何かを弾いて鳴らしている。
「私は見つかったのが大分遅かったしどうやら価値もなかったみたいでね。取り敢えずって云う形でここにいる。たまに妙な仕事が廻ってくることはあるけれど、私にはどうでもいいことだったから云われるまま適当にやってた。そういう無気力さが買われたってことなのかもね。私の部屋に、ロンが来ることになった」
 身動きも取れず、九龍はミツキの言葉を聞いている。パチリパチリと鳴っている音も止まる気配がない。常よりいくらか早口な日本語に、そして定期的に鳴っているその音に邪魔され、九龍は理解が追いつかない。
「だからね」
 けれど、聞き返せない。先の拒絶で心が萎縮している。
「ロンがいなくなったら多分、私は要らなくなるんだ」
 要らない。ミツキが?
 反射的に九龍は口を開いていた。
「なんで? 要らない、ないよミツキ」
「ロン」漸くミツキが九龍を見た。うっすら苦笑を浮かべている様に見えて、九龍の呪縛がほんの少し解ける。「自分で外に行きたいって云った?」
「…ううん。学校行く決また。から、行け、云われた…」
「そういうこと。ロンが悪いことは何もないよ。うん。そうか、私がいやなのは一人になることじゃなくて」
 パチリ。
 ミツキの手が止まった。漸くそこで九龍は音の正体に気づいた。爪だ。ミツキが弾いていた爪の音。
「一人で、終わりを待つのが嫌なんだな」
「ボクいれば、ミツキ要らない無いね?」
 要らない、という響きが嫌だった。胸の奥がぎゅうと掴まれる気がする。
 理由はわからないし覚えもない。けれど、根源的な何かが九龍に嫌悪を齎している。慌てて言い募る。
「ボク、云うよ。学校行かない、ここで仕事する云うよ。要らない無いよ」
「ロン、ねえ学校、なんていうの?」
 話を逸らそうとしているのだろうか。今までの独白も全部無かったことにするかのように、ミツキは全く関係なさそうな事を口にする。九龍はその言葉に被せる様に口を開く。
「ミツキ、行かないよボク」
「あの人達から聞いてないの? 学校の名前」
 顔は向いているのに、ミツキの言葉は全く九龍を見ていない。九龍の息が胸が詰まる。
 詳しいことは何一つわからないけれど、ミツキが“要らなくなる”のは、自分がこの施設にいなくなるからだということはどうやら間違いない。けれどそれを拒絶しようとしている自分の言葉を、何故かミツキは聞き入れようとしてくれない。
 ―――何を伝えたら、ミツキに届くんだろう。
 頭が混乱する。論理的な思考がさっぱり出来なくなっている。酷く不安定だった。
「…しちりゅう」受け答えの糸口をなんとか掴もうと、まず、訊かれた事に答えた。「島、行くよ。名前、七竜ね。学校、新しい出来」
 と。
「…ああ、ロン、君…」
 ぽつりぽつりと探るように出された言葉を、ミツキは溜息と共に遮った。
「ミツキ?」
 ミツキは目を閉じ顔を伏せた。九龍はしばらくじっとしていたが、次第に耐えられず、ミツキの側に歩いていった。
 変な風に足を固定してしまっていたから少し痺れていて、九龍はよたよたとミツキのベッドに辿り着く。
 ミツキの頭の側で立って、九龍は待った。
「…お願いがある。ロン」
 俯いたまま、ミツキは呟いた。九龍はうんと頷く。
「その島で、君に会って欲しい人がいる。私も一度しか会ったことはないけれど、そこにいる筈なんだ。誰よりも私に近しい人が」
「ちか…しい?」
「うん。私とね、…同じ人がいるんだ」
 ミツキは、指を組んでぎゅうと握りしめた。知らず、九龍の指にも力がこもる。
「伝えて欲しいんだ。私がここにいたことを」
「…ミツキの事、云うね? ボク」
「うん。頼むよ。それだけでいいから」
「…わかたよ。でも、ミツキ、ボク」
「いいんだ」
 顔を上げたミツキは、にっこりと九龍に笑いかけた。
「うん。大丈夫。もう大丈夫だよ。ロンがちゃんと伝えてくれれば、それで私は大丈夫」
「ミツキ?」
「ごめんね、変なことを云った。要らないとか、もうそういうのは無いから。安心していいよ、ロン」
「ミツキ」
 嘘を吐かれている。けれど、それを覆す術を自分が持っていないこともわかった。
 悔しさか知らず肩を落とし俯いていた九龍の頭に、ふわり、手が置かれた。
「頼むね、ロン」ミツキの熱が、九龍に伝播する。「私を、見つけて来て」



「ロン、向こうに着けば、お前はただの学生のうちの一人になる。けれどお前が優先するべきはこの機関だ。忘れるな」
「…解ってるよ。けど、とにかくまずはシステムの構築と入れ替えなんでしょ。そっちに先に集中させてもらうからね」
 数ヶ月後。本格的に移り住む日取りも決まり、九龍は下準備に追われていた。
 あの日から、ミツキには会っていない。それどころか、どこにいるのかも解らなかった。
 内部のネットワークからカメラのログを漁ったけれど、その姿の一つも、映ってはいなかった。
「ねえ」
 常から世話役か目付として脇にいる李の袖口を引っ張り、顔を向けさせた。
「向こうで、ひとつ頼みがあるんだけど」
「何だ。物資なら都度送ると云ったが」
「違うよ。会ってみたい人がいるんだ」
 眉を寄せる李に「我も一応、行く場所のことくらい調べてるんだよ」小さく呟き、笑って見せた。
 5年の歳月を共に過ごした。互いに互いの詳しいことは、多分知らなかった。
 必要だったのはその場所と時間だけだったから。

 あの日。ミツキは笑って云った。こう云えば、見つかるはずだからね。

「“月水”の一番新しい人。…その人に会わせて」

 約束を果たす為に。




やりたかったこと
コマンドラインでメールの送受信
料理属性の付加
なんかトラウマっぽいこと
「ボクが日本ね」「日本いれば安全、ダイジョブね」
やれたこと
コマンドラインd(ry
多少トラウマっぽいこと
取り敢えず、しゃんどぅはどのルートでもダイジョブね(辻褄的な意味で
-【急募】残りの要素orz