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九龍とゆっくと




劉九龍は母国へと帰省するための旅客機の中にいた。
高度は1万メートル、水平飛行中であった。
乗客はまばらで、読書をしたり仮眠を取ったり、みな思い思いに過ごしている。

九龍はCA(キャビンアテンダント)の運んできたコーヒーに口を付け、今回の帰省について考えていた。
急な帰国命令であった。
これまでにも年に数回、定期報告のために帰国することはあったが、このような急な帰国…それも緊急かつ強制的なものはなかった。
母国に何かあったのだろうか…?
窓の外から雲を見下ろし、ぼんやりと考えていた。

「お客様、ここから先は立ち入り禁止です」
一人の男が操縦席へ入ろうとしたのを、CAが慌てて止める。
男は懐に手を入れると拳銃を取り出した。

「動くな…」
「……!!」

何事かと思った乗客が一斉に見る。
男はいつの間にかもう一丁の拳銃を取り出し両手で持ち、一方をCAに、一方を乗客全体に向けた。
高度1万メートルの機内に緊張が走った。

男は単独犯ではなかった。もう二人機内に仲間がいた。いずれも拳銃を構えている。
犯人の要求はよくあるモノだった。
自分たちは反政府組織の一員である。
先日逮捕、拘留された組織の幹部の釈放と身代金であった。
自分たちは死ぬことを恐れない、全員を道連れにしても構わない。
そう脅しながら、強い口調で要求を繰り返した。


九龍は面倒なことになったなと思いながら、携帯端末wassrを取り出し、犯人の死角で操作しだした。

一時間ほどが経過した。
乗客たちの緊張が限界に近づいていた。
犯人たちの要求は断固拒否されたらしく、激しくいらだっている。
まさに一触即発の状態であった。

「おまえ…何をしている!!」
犯人の一人が九龍に拳銃を突きつけた。
九龍は立ち上がった。
「動くな!!座ってろ!!」
男が銃を近づけるが九龍は眉一つ動かさない。

「いいアルか…押すよ?」
九龍はwassrを取り出した。
「どういうつもりだ!!」
「おまえら言た。自分ら死ぬの怖くない。違うか?」
「なんだと…?」
「この飛行機のコントロール、ボクいただいたネ。おまえたち大人しくしないと…死ぬアル」
「ふざけるな!!」
男が銃の引き金に指をかけたその時、機が急に傾いた。
乗客、犯人もろとも体制を崩した。機はすぐに元の態勢に戻った。

「わかたアルか?」
「…くっ…どういうことだ!!」
「だからボクの仕業アル。言うた」
「それをよこせ!!」
男が九龍の端末に手を伸ばした。
九龍はその手を払うと、男の鳩尾に掌底をたたき込む。
男の頭が下がった所へ、顎目掛けて膝蹴りで迎える。
男の脳は揺さぶられ意識を失う。
「おまえついてるアルよ。ボクの仲間の静流だたら顎砕けてるね」

「う、動くな!!」
出入り口付近にいる男が銃を九龍に向けた。
「アイヤー、そこ、危ないアルよ?」
九龍は手にしていたwassrのボタンを押した。
すると突然、ドアが開いた。
気圧の違いから、機内のものが一斉に外に飛び出して行く。
犯人の男は放り出されまいと、必死にそばの座席にしがみついている。
九龍はwassrを操作しドアを閉める。そして男に一気に駆け寄り、武器を奪い首筋に手刀を打ち付ける。
「おまえもついてるネ。静流なら首の骨、折れてるヨ」

「どうする、まだやるアルか?」
九龍は残る一人に声をかけた。
「こ、この…化け物め!!」
男が銃を撃った。幸いなことに弾は誰にも当たらなかったようだ。

「撃ったアルな…」
九龍は助走を付けて飛び、宙を駆け、男の心臓目掛け跳び蹴りを食らわせる。
男は衝撃で吹き飛び壁にぶつかった。
蹴りの衝撃からほんの一瞬血流が止まり意識を失う

「ほんとなら心臓貫く百戦百勝脚アルが、これで許したるアル」
そして、九龍は何事もなかったかのように自分の席に戻った。
ふと思い出したかのようにCAを呼び出し
「あ、そうそう機のコントロールは戻したアル、安心ネ。それとコーヒー下さいヨ」
そう告げた。



空港に着くと出迎えの黒いスーツにサングラスの男が待っていた。
男の名前は李(リー)母国での九龍の保護者代わりといったところか。
詳しい素性は九龍も知らない。
李というありふれた性がかえって偽名を思わせる。

「聞いたぞ、大活躍だったそうだな」
「別に」
九龍は素っ気なく答える。

「荷物はそれだけか」
李は九龍が肩から提げている鞄を見る
「端末一台あればどこでも仕事できる」
九龍は顔も見ずに答えた。

空港の真っ正面に横付けされた車に二人は乗り込んだ。
「どうだあの島での生活は」
「特に、どうってこともない」
九龍はつまらなさそうに窓を眺めながら言った。


「ロン、俺を助けてくれよ」
あの日、しゃんどぅが言った言葉を思い出していた。
七竜学園で起こった奇妙な事件。
しゃんどぅはそれを解決するために帆走していた。
しかし操作は行き詰まり九龍の元へ手を借りにやって来た。

事件の解決後、九龍は学園防衛隊SDFに誘われ仲間となった。
静流、ちあい、まあと、しゃんどぅと過ごす時間は楽しかった。
今ではかけがえのない仲間だと思っている。

だから、母国に悟られてはいけない。
もし九龍がかけがえ無い物を手にしたと知ったら…きっと何らかの障害が起きる。
確信は無いが、九龍は強くそう感じでいる。
だから、つまらなさそうに振る舞う必要がある。

「例の生徒はどうだ」
李が冷たい声で言った。
「下らないやつだよ、毎日無意味にだらだらと過ごしている。見張る価値もないやつだよ」
九龍の胸が少しだけ痛む。
嘘をつくのが苦しい、だが悟れてはいけない、九龍は手をぎゅっと握った。

「そうか」
李はそれっきり何も聞いてこなかった。

車はいつの間にか高速道路を走っていた。
この後のスケジュールには、煩わしい報告や会議がひっきりなしに入っている。

早く帰りたいな

この国は九龍にとって母国ではあるが、もはや思い入れはなかった。

はやくしゃんどぅに会いたいな

SDFなら劉九龍ではなく『ゆっく』として過ごせる。
その名前で呼ばれるのもいつしか心地よくなっていた。

『ゆっく』はいつしか、学園に帰ったらどのように過ごそうか…そのことばかりを考えていた。



  • いつだか言った中国拳法うんぬんを書いた。
  • 李は11歳の時にも出てた人だろうかと夢想