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まあと11歳

  • 今回はまあとのみで。
  • 一応ゲーム風にできるといいな、みてーな。
  • 分岐入れられれば入れたい。
  • 暗くならない重くならないを心がけてるのに早速やや重い。



「ヤマダじゃん」
 教室に入ると懐しい顔が、僕の顔を見て驚いたように綻んだ。
「なんだよ、戻ってきたのか」
「また暫く厄介になるよ」
「お前も大変だね」

 僕の名前はヤマダ タカヒト。
 両親が転勤の多い仕事をしているので、転校回数は半端無く多い。
 そして、両親が揃って忙しい時は、母の妹であるヒトミ叔母さん家にホームステイをすることになる。
 今回はそのホームステイの回で、この学校に来るのは3度目だ。
 叔母さんには子どもがいないので僕のことは大歓迎で「このまま叔母さんとこの子になっちゃいなさいよ」というのが口癖だ。
 僕もそのほうがいいのかな、と思うんだけど、ややこしい話になりそうなので笑って誤魔化している。
 子どもだってそれぐらいの気の回しはできる。
 叔母さんは今流行のスローライフをしたくて、実家があるこの田舎に引越してきた。お爺ちゃんたちも、僕の両親と同じようにあちこち飛び歩いているみたいで、家にいることはほとんどない。だから都合がいいみたいだ。

 1学年1クラスの少人数の学校だから、僕のことを全員が覚えていた。
 僕もクラスの皆の顔はわかってるので、改めて緊張するなんてことは無い。
「……あれ?」
 教室の前の窓際のほうに、記憶に無い顔を見付けて、僕は首を傾げた。
 もじゃもじゃ頭にダブダブのズボンをはいて、誰の会話にも混ざらず外をぼんやりと眺めている。
「ねえ、アイツ、誰?」
 気になった僕は、隣りの席のマエダに聞いてみた。
「アイツって?」
「窓の列の一番前。もじゃっとした頭の……」
「あー、天戸まあと。去年転校してきた」
 マエダはチラッと僕の顔を見て「かかわんねーほうがいいぞー」とボソッと言った。
「なんで?」
「……まあ、色々あんだよ」
「色々?」
「後で教えっから」
 聞き返した時に担任の先生が入ってきた。
 ザワつく教室にも知らん顔で、天戸まあとは外を見続けている。
 その先に何があるのかと見てみたけれど、僕には何も見えなかった。



 一時間目の授業が終ると、天戸は黒板の前を横切って廊下へ出ていった。
 ひとりきりだったな、と思っていると、クラスの女子たちが集ってきた。
 僕が転校人生なのを皆知っているから、何かと質問したくてたまらないんだろう。




女子たちの質問に答えることにした

 田舎の人というのは多かれ少なかれ、都会に憧れとコンプレックスを持っているものらしく、都会についての様々な流行について質問された。
 芸能人に会ったことがある? だの、○○デーパートのケーキを食べたことがある? だの、ブランド店には行ったことがあるかだの、僕にとっては割とどうでもいいことばかりだった。
 適当に答えた内容に、勝手に満足してくれてるのを見て、僕は天戸について聞いてみることにした。
「あのさ、天戸ってどんな子?」
 一瞬の沈黙。
 それから、仲間同士で何かを確認するような目配せ。
 女子のこういう変な連帯感って面倒臭く無いんだろうか。
「天戸さんって……ちょっと変ってて」
 声を潜めて口火を切ったのは、クラスの中でもリーダー格のウエノだった。
「キツネ憑きとか言われてるって」
「は? 狐?」
 突然出てきた言葉に僕は唖然とする。
「一人でブツブツ喋ってたりとか」
「突然大声で叫んだりとか」
「変なとこ見て慌てたりしてさ」
「なんかちょっとヤバい感じするよね」
 一人が言い出すと、口々に出てくる噂話。
 親が言ってたから間違い無いとか、この間旧校舎で誰もいないのに話てたとか、挙句の果ては夜な夜な五寸釘を藁人形に打ってるんだとか。
 それは噂話というよりも陰口じゃないかと閉口していると、それを察したウエノが苦笑しながら「でもね」と言った。
「火の無いところに噂は立たないって言うじゃない」
 そういうものかね、と思った時、休み時間終了のチャイムが鳴った。
 足早に席に戻るクラスメイトの動きを見ていたら、天戸はもう席に戻っていた。




マエダにさっきの続きを訊くことにした

「マエダ、さっきの続きだけどさ」
 意味深な顔をしてマエダに話かけると、女子たちは顔を見合わせて少し離れた場所で立ち止まった。
 マエダは女子に人気があるのに冷たいもんだから、嫌われたくない理由からか、不用意に話かけてくるような子はいない。まるっと1年以上経っても、そのあたりは変っていないようでほっとした。
「さっきのって?」
「天戸まあと」
「ああ……」
 マエダの視線が天戸の席を見る。
 それから声を潜めて「噂話だから信憑性はわかんねーけど」と前置きしてから言った。
「あいつん家の親がさ、あいつをじーさん家に預けてどっかいっちまったらしいんだけど」
「そんなの、よくある話じゃん」
 田舎の学校というのは案外片親だったりするケースが多い。
 離婚して一人では育てきれないので、爺さん婆さんに頼るってパターンからそうなるみたいだ。
 場合によっては、親は生活費のために都会で働いて、子どもは大きくなるまで爺さん婆さんに育ててもらうということもある。
 だから、それほど目立って特殊なケースというわけじゃない。
「天戸んとこって、神社なんだよ。ほら、学校の近くにあるじゃん。マラソンのコースになってるとこ」
「うん、あるね。それが?」
「それもあるんだろうけど、鬼っ子とか言われて置いてかれたって……」
「鬼って……幼稚園のガキじゃねーんだから……」
「だーから、噂だっての」
 僕があまりに呆れた顔をしたせいか、マエダはちょっとムッとした顔をした。
 そこで休み時間終了のチャイムが鳴る。
「そーゆーことで、ちょっと距離置かれてるってハナシ」
「へぇ……」
 納得できたような、出来ないような、変な気持ちで席に戻る。
 今時、そんなファンタジックな話を真顔で信じる奴なんていないと思うけれど、それが田舎独特の信心深さみたいなものなんだろうか。
 次の授業の教科書を引っ張り出していると、天戸が小走りに黒板の前を横切て席に着くのが見えた。




職員室に行く予定があったのを思い出した

 転入に関しての書類を渡さなくちゃいけないことを思い出して、僕は職員室へと向った。
 一時間目の休み時間はそれほど長く無いから、廊下に出ている児童も少ない。
 閑散とした廊下を歩いて一階にある職員室に向い、担任の先生に叔母さんから受け取った封筒を渡す。
 ちょっとした世間話をして「そろそろ教室に戻りなさい」というので職員室を出て教室へと戻る。
 前に居た学校は三階に教室があったため、うっかり屋上へ向う階段に足をかけてしまい、踊り場に到着してみて掲示板が無いことで間違いに気付いた。
 戻ろうとして振り替えった時、屋上に出る扉がある場所に天戸の姿を見付けた。
 僕は話かけようと、階段を一段登りかけた。
「せやから、今日は道具忘れたゆうてるやんか」
 突然の話声。
 他に誰かいたのかな? と首を伸ばす。
 天戸の姿も、扉の前にある手摺りに邪魔されて良く見えない。
「ごめんて。明日は忘れんからな、な、機嫌直してやー」
 一人の声しかしないので、独り言かと思ったけれど、会話形式になっている。
 聞き取り難いぐらい小さい声なのかなと思い、気弱な誰かを思い浮かべ、なんとなく悪い気がして階段を引き返す。
 二階に到着した時に、休み時間終了のチャイムが鳴った。
 バタバタと階段を駆け降りてくる音がして、天戸が僕を追い抜いて走っていった。
 けれど、後から誰かが降りてくる様子は無い。
 気になって見に行こうかと思ったが、担任が階段を上がってくるのが見えたので、諦めて教室に戻る。
 ちょっと変った子だな、という感想を抱くと同時に「かかわんねーほうがいいぞー」というマエダの言葉を思い出していた。




分岐戻り

 一週間もすると天戸が完全にクラスで孤立していることが明白になった。
 嫌がらせをしたり、直接的に苛めたりということは無いようだけれど、存在を無いもののように扱っていた。
 天戸のほうも、それをわかっているのか、休み時間になるとどこかにぷいっといってしまう。
 僕は特別正義感が強いというわけじゃないけど、皆が避けている理由が迷信じみたものだというのに、なんとなく反発を覚えていた。
 誰にも害を成さないものならば、ちょっとした個性じゃないか。
(今日こそ声をかけよう)
 そう決めて登校したものの、休み時間になるとすぐに天戸は消えてしまい、僕は僕で転校生の物珍しさから未だ解放されずにいて、結局給食の時間になってしまった。
 他の誰とも騒ぐことなく、黙々と配膳を済ませ、6人1グループに机を集めたところから少し離されるような感じになった机に据わりじっとしている。
 ……不思議なのは、天戸の表情や態度だ。
 これほど極端に仲間外れをされていたら、もっと萎縮するものだと思うのだけれど、割と飄々とした雰囲気でいる。仲間外れの深刻さなど微塵も感じさせない。
 誰かに助けを求めるでもなく、視線を伏せておどおどするでもなく、ぼんやりと空中に視線を投げて、時々一点をじっと見詰め、そして偶に笑うのだ。
 その様が余計にクラスメイトから阻害される原因なのかもしれないな、と思った。
 黙想が終り「いただきます」と手を合わせた後、天戸は黙々とスプーンを動かし続けた。
 今日のメニューはコッペパンとクリームシチュー、白身魚のフライにヨーグルトサラダ、そして牛乳というもの。
 誰と話すわけでも無いので、食べるペースがかなり早い。
 食べ終わった順に片付けを始めても良いので、うかうかしているとまたどこかに行ってしまうと、僕も急いで片付ける。女の子の話ナカノという女子が何やら熱心に話しかけてくるのを適当に受け流す。
 皿の上のものを片付けた天戸は、コッペパンをリスか何かのように口の中に詰めこみ、牛乳で流しこむ。
 牛乳をじゅーっと吸い込んだら、フィニッシュ。
 手を合わせて、さっさと片付けを始めてしまった。
 同じ班のメンバーは無関心。
 天戸はゴトゴトと机を元の位置に戻すと、スケッチブックと色鉛筆のセットを持って教室を出ていった。
 20人にも満たないクラスだからとても目立つというのに、先生も困った顔しかできないでいる。
 僕は心の中でそっと溜息をついて「ごちそうさまでした」と手を合わせて立ち上った。
 天戸が席を立った時には誰も見向きもしなかったのに、全員の目が僕を見上げていた。


 廊下に他の人の姿は無かった。
 給食中なので他の教室もかなり賑やかだ。
 天戸は窓の外を眺めながらのんびり歩いていた。
 いつものように小走りじゃないのは、誰もいないと思っているからだろうか。
 声をかけようとして、その横顔が楽しそうに微笑んでいるのを見て、僕は思わず言葉を飲み込んだ。
 何だか急に自分のしていることが間違いなのではないか、という気がしたからだ。
 躊躇っているうちに、天戸は階段を降りていってしまう。
 僕は何の覚悟も出来ないまま、尾行するように、こっそりその後を追った。


 天戸が入っていったのは、校舎の裏側にある旧校舎だった。
 旧校舎は木造で、横に長い一階建ての建てものだ。
 中に入る前に、一度立ち止まり、周囲を確認するようにしてから中に入っていく天戸の姿に、僕は妙に好奇心を掻き立てられた。
 こうなってくると、ひっそりと後をつけてきた罪悪感も、探偵ごっこめいた楽しさには勝て無い。
 僕は息を殺して、順に窓から中を覗いて行った。
 3つめの教室の中に、天戸の姿を見付けて、一度しゃがんで息を整える。
 そうした後に再び覗いてみると、教室の後ろにあるランドセルを仕舞う木製のロッカーの上に座って足をブラブラさせて、何だか楽しそうに空中を見詰めて笑っている。
 その姿に、僕の脳裏に天戸に関する噂が過り、背筋がゾッと粟立った。
 僕は幽霊の類は信じているわけでは無いけれど、それでもやっぱり恐い感じがすることはあるし、いるんじゃないかなとどこかで思っているとは思う。
 だからこうして、僕には見えない何かと楽しそうに話しているような天戸の姿は、やっぱりなんだか恐しい。
 どうしようかと考えて、やっぱり話しかけようと、僕は旧校舎の入口へと足を運んだ。

 施錠されているけれど、先程天戸が入っていった場所を思い浮べながら、戸の足元部分を押してみた。
 すると、そこだけ板が立てられているだけで、固定されていない。
 上手く音を立てないように板をズラし、体を斜めにしたり縮めたりしながら穴を潜る。 
 天戸は小柄だから苦もなく入っていったけれど、僕にはちょっと厳しい。
 音を立てないように注意してなんとか潜り抜けると、古くて埃っぽい臭いがムッとたちこめていた。
(なんだか……時間が止ったみたい)
 そんなことを思いながら、ギシギシ鳴る床の上を細心の注意を払って歩いていく。
 校舎の裏側にあるせいで、昼間だというのになんだか暗い。
 部分的に差し込む光に埃が舞っていて、綺麗だと思うと同時に、その奥の闇に恐怖心が煽られる。
 二つ目の教室の中程まで来た時「そやなー」という、このあたりでは耳にしない言葉が聞こえた。
 それが天戸の声だと理解するのに少しの時間が必要だったのは、教室で天戸の声を一度も聞いたことが無いからだった。
(こんな声してたんだ)
 関西訛があるなんてことも、だから当然知らなかった。
「うんうん、ええでー、ちょっとまってなー」
 天戸の声だけが聞こえるけれど、それは会話形式になっていて、僕の心臓はやけにドキドキと騒ぎ出す。
 どうしてこういう時「恐いことを考えない」と思っているのに、テレビCMで見たホラー映画の白塗りで目が落ち窪んでる顔なんて思い出すんだろう。しかもどんどん恐いシーンを脳が繰り出してくる。


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