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『雪の山荘』サウンドノベル風・羊視点4 ななす 2008/01/14(月)13:17 何か助かる方法はないかと思って、俺は自分の服を探った。メモ、ちっこい鉛筆、つながらない携帯電話……だめだ。 シャツ胸ポケットから蜂蜜スティックが出てきた。蟹がくれたヤツだ。蜂蜜じゃなくて、あの唐辛子パイがあればさぞ体が温まっただろうに。 待てよ……蜂蜜? 俺は唐突に、鴉のクロスケのことを思い出した。 何年か前、この別荘の近くで怪我をしている鴉を拾ってきて、みんなで手当てしたことがあった。傷は治ったけどあいつはここをエサ場と決め込んだらしく、居着いてしまった。 エサをもらってるクロスケを見て、乙女が「一度群れを離れると、傷が治っても戻れないものなんです」と目を伏せて、寂しそうな口調で言った。いつも堅苦しくてクールな乙女らしくなくて、印象に残ったんだけど……。 いや、それは今はどうでもいい。 クロスケは意地汚い。オレ達がおやつを食っていると、どうやって気配を嗅ぎつけるのか必ずやってきて、おこぼれをねだった。犬より鼻がいいんじゃないかって思ったくらいだ。とくに甘い物は好きだった。 そして、ここが重要なんだが……物足りないと、あいつは別荘の誰か他の人を探して、エサをもらうまでやかましく鳴いてまとわりつくんだ。魚はよくおやつを強奪されて泣いていた。獅子ニィと俺は負けなかったし、天秤ニィは最初からおやつを取られそうな場所には出なかったけどな。 俺たちがいない間も、川田が時々エサをやっていたって聞いたことがある。 窓を閉ざした別荘の中には、俺の声は届かないかも知れない。でも森にいるはずのクロスケなら……。 俺はポケットに入っていた手帳を破り、「いつかの穴にまた落ちた、助けて 羊」と書いた。クロスケを呼んで、このメモを足に結びつけるつもりだった。携帯ストラップを使えば、しっかり固定できるだろう。他に助かる方法はない。 蜂蜜スティックの封を切り、少しでも匂いがするよう、高く掲げた。 羊「クロスケーっ! クロスケ、おやつがあるぞー!! 甘くて美味いぞーっ!」 クロスケがまだ生きているのか、こんな吹雪の夜に俺の声を聞きつけて飛んできてくれるのか。それはわからない。でも俺はあいつの食い意地に賭けた。 羊「助けてくれ、クロスケーっ!!」 どのくらい叫んだだろう。 羽音が聞こえ、黒い物が俺の目の前に舞い降りた。 俺の顔と、蜂蜜スティックを見比べているのは、一回り大きく、一層ふてぶてしい顔つきになったクロスケだった。しわがれた声にも貫禄がある。でも視線が蜂蜜スティックに吸い付いているのは、昔のままだ。意地汚い。俺でなくて魚だったら、否応なしに強奪したに違いない。 こいつならきっと、窓をぶち割る勢いで騒いで、人を呼んでくれる。 羊「すぐだ。すぐ蜂蜜をやるからな。ちょっと待てよ、クロ」 呼びかけながら、寒さにかじかんだ手で、俺は手紙をクロスケの足に結びつけた。 ―――――― 以上です。
『雪の山荘』サウンドノベル風・羊視点4 ななす 2008/01/14(月)13:17 何か助かる方法はないかと思って、俺は自分の服を探った。メモ、ちっこい鉛筆、つながらない携帯電話……だめだ。 シャツ胸ポケットから蜂蜜スティックが出てきた。蟹がくれたヤツだ。蜂蜜じゃなくて、あの唐辛子パイがあればさぞ体が温まっただろうに。 待てよ……蜂蜜? 俺は唐突に、鴉のクロスケのことを思い出した。 何年か前、この別荘の近くで怪我をしている鴉を拾ってきて、みんなで手当てしたことがあった。傷は治ったけどあいつはここをエサ場と決め込んだらしく、居着いてしまった。 エサをもらってるクロスケを見て、乙女が「一度群れを離れると、傷が治っても戻れないものなんです」と目を伏せて、寂しそうな口調で言った。いつも堅苦しくてクールな乙女らしくなくて、印象に残ったんだけど……。 いや、それは今はどうでもいい。 クロスケは意地汚い。オレ達がおやつを食っていると、どうやって気配を嗅ぎつけるのか必ずやってきて、おこぼれをねだった。犬より鼻がいいんじゃないかって思ったくらいだ。とくに甘い物は好きだった。 そして、ここが重要なんだが……物足りないと、あいつは別荘の誰か他の人を探して、エサをもらうまでやかましく鳴いてまとわりつくんだ。魚はよくおやつを強奪されて泣いていた。獅子ニィと俺は負けなかったし、天秤ニィは最初からおやつを取られそうな場所には出なかったけどな。 俺たちがいない間も、川田が時々エサをやっていたって聞いたことがある。 窓を閉ざした別荘の中には、俺の声は届かないかも知れない。でも森にいるはずのクロスケなら……。 俺はポケットに入っていた手帳を破り、「いつかの穴にまた落ちた、助けて 羊」と書いた。クロスケを呼んで、このメモを足に結びつけるつもりだった。携帯ストラップを使えば、しっかり固定できるだろう。他に助かる方法はない。 蜂蜜スティックの封を切り、少しでも匂いがするよう、高く掲げた。 羊「クロスケーっ! クロスケ、おやつがあるぞー!! 甘くて美味いぞーっ!」 クロスケがまだ生きているのか、こんな吹雪の夜に俺の声を聞きつけて飛んできてくれるのか。それはわからない。でも俺はあいつの食い意地に賭けた。 羊「助けてくれ、クロスケーっ!!」 どのくらい叫んだだろう。 羽音が聞こえ、黒い物が俺の目の前に舞い降りた。 俺の顔と、蜂蜜スティックを見比べているのは、一回り大きく、一層ふてぶてしい顔つきになったクロスケだった。しわがれた声にも貫禄がある。でも視線が蜂蜜スティックに吸い付いているのは、昔のままだ。意地汚い。俺でなくて魚だったら、否応なしに強奪したに違いない。 こいつならきっと、窓をぶち割る勢いで騒いで、人を呼んでくれる。 羊「すぐだ。すぐ蜂蜜をやるからな。ちょっと待てよ、クロ」 呼びかけながら、寒さにかじかんだ手で、俺は手紙をクロスケの足に結びつけた。 ―――――― 以上です。 -[[小説メニューへ>小説]]

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