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雨の日の幽霊」(2007/10/10 (水) 18:33:00) の最新版変更点

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ナナシニコフ 2005/09/02(金)19:17 現行スレの、魚=幽霊にSSスイッチが入り、萌の赴くまま書いてしまったので投下。 蟹魚SSです。十二宮荘ネタも入ってます。 ++++++++++++++ 「雨の日の幽霊」 今日は朝から雨だ。庭の紫陽花は咲き誇り、鉛色の空に白く映えた。 また来るだろうかあの幽霊は。蟹はのんびり考えながら水煙に煙る庭を眺めた。 数週間前のその日も朝から雨が降っていた。蟹は遅めの朝食を済ませると、自分が世話をしている庭の草花を見渡した。紫陽花が白い花を咲かせ始めている。そんな光景に目を細めかけたが、視界の端、紫陽花に半ば隠れる様にして佇む人影に気づきぎょっとした。いつから居たのだろう。ここには部屋の中を通らなければ入れない構造になっている、とすればこのアパートの住人のはずだが、佇む人物に見覚えはなかった。それとも、住人の知り合いが泊まっていき、寝ぼけて外に出てしまったのだろうか?そんな事を考えたのも、その人物がパジャマにスリッパという格好だったからだ。だが、住人にせよ違うにせよ、雨の中傘もささずに居る相手をほおって置くのも気分が悪い。蟹は窓を開け、パジャマの男に声をかけた。「すいません」聞こえなかったのか、紫陽花を見つめたまま男は微動だにしない。しかたなく傘をさして外に出る。「あの・・・。」言いさして奇妙な事に気づいた。この雨の中傘もささずにいたはずの相手の服も髪も全く濡れていない。よく見ると雨粒は男の身体を素通りしている。幽霊、そんな単語が浮かび、叫び声を上げそうになる口を慌てて押さえた。そのままゆっくりと後退りする。なんとか無事に部屋に帰ってきた蟹は部屋中の鍵をかけると、その場にへたり込んだ。なんだったんだアレは。蟹はもう一度おそるおそる庭を見渡したが、人影はすでに無かった。 そんな衝撃的なファーストコンタクトの後、雨が降るたび幽霊は表れた。ふと気づくと庭に佇み、知らぬ間に姿を消す。初めのうちこそ怖がっていたが、紫陽花を見ているだけで害もないと分るとしだいに慣れ、相手を観察する余裕も出てきた。それによって分った事は背丈、年齢ともに自分と同じくらい。色白。髪は染めてない。(たぶん)紫陽花好き。いつもパジャマだが、前回とは違うものを着ている事が多い。でもスリッパは同じ。幽霊も着替えるんだなと妙な所に感心しながら庭を見回した。いつもの定位置、ブロック塀と紫陽花の間に幽霊を見つける。今日は薄緑色に白い水玉柄のパジャマを着ている。ふと淡い水色の水玉シャツを着こなしていた天秤を思い出しす。もしかしたらこの幽霊も天秤と似たような職業に生前は就いていたのかも知れないと思うと、少し感傷的な気分になった。 梅雨は明け、紫陽花の季節は終わった。それとともに幽霊も姿を見せない。ほっと安堵しつつも何故か一抹の寂しさを感じた。部屋に寝転びながら見上げた庭では、炎天の青空にふさわしく炎の様な百日紅が満開だ。 やはり百日紅は好みじゃないんだろうな、最近気がつけば雨の日の幽霊の事を考えている。そんな思考を中断させるように蟹は勢いよく起き上がった。今日は新しい入居者が来るのだ。うだうだしてもいられない。 「今日は魚です。」快活な声とともに入ってきた入居者の顔を見て驚いた。あの幽霊じゃないか。いつもなら鍵を渡すだけだが、今回はお茶を出して引き留めた。訊きたい事がたくさんある。 「あの、魚さんは兄弟いるんですか?」過去形になりそうな所を慌てて修正し、心の中であなたにそっくりな、と付け加えた。「いいえ、一人っ子です。でも兄弟が居たら良いなと思った事はたくさんありますよ。管理人さんは御兄弟いるんですか?」幽霊の時の無口な印象とは打って変わって生身(?)の魚さんは明るく、わりと口数の多い人の様で、探りを入れるまでもなく色々話してくれた。それによれば、最近までややこしい病気で入院していた事。天気の良い日は院内の中庭で草花のスケッチをして過ごしていた事。そして、雨の日は外に出れない代わり、病室から見えるこの庭の紫陽花に慰められた事。このアパートに空きがあるのを知った時は、運命の様なものを感じて即決した事。 「お茶有難うございました。それじゃ、また。」そう言って魚が帰ってしまうと、蟹はテーブルに突っ伏し長い溜め息を吐いた。今日は驚くことが多すぎた。幽霊は生きていた。じゃあアレは入院中の魚さんの生霊だったのだろうか?そういえば昔ドッペルゲンガーなる現象を聞いた事がある。強い想念が本人の姿でうろうろするとかいう話だった。蟹は顔を上げ、紫陽花を眺めた。今は緑の葉だけが風に揺れている。 生霊でもドッペルゲンガーでも良い、とにかく本人が生きてて良かった。来年、紫陽花が咲いたら今度は一緒にお花見(桜じゃないけど)をしよう。蟹は自分の思いつきに満足げに微笑んだ。 おしまい。

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