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さらにお邪魔します 名無しですよ 2005/10/20(木)01:34 乙女国にて、蠍王子のお忍び。 蠍→射手なのかなあ。なんとなく乙女と仲良し蠍。長文スマンです。 「蠍…?」 昼下がりの宮廷図書館。穏やかな光を受けて読書に勤しんでいた乙女は、自分の横にふらりと現れた影を仰ぎ見て目を疑った。 普段は自国どころか宮殿から出ることもめったにない蠍国の王子はどこか硬い面持ちで頭を下げ、不躾な訪問を短く詫びる。その周囲に臣下がいないことに気づいて乙女は眉をひそめた。 「どうしたんだ、供も連れずに」 「調べたいことがある。各国古代史の文献室を開けてもらえないだろうか」 「…構わないが、古代草書文原文だぞ。読めるのか」 「ある程度は」 核心のみで会話をする蠍の癖は相変わらずだと嘆息し、乙女は小さく頷いて読みかけの本を閉じた。 「持ち出しは厳禁だが、物によっては写しや口語訳があるから声をかけてくれ、さっきの場所にいる」 「かたじけない」 首だけ乙女に向けて蠍は言い、迷わずに一つの文書保存棚に向かった。乙女国の蔵書は量もさることながら質のよさと分類の正確さが群を抜いているために、蠍は何度かここに足を運んでいる。正式な訪問手続きを取るとこんな場所に入り浸ることもできない上についでとばかりに公務を増やされるので、いつもこんな方法で入り込んでは乙女に呆れられている。 『前もって連絡しろと言っているだろう』 『…すまない。今度からはそうする』 『…と前にも聞いた気がするが。私もいつもここにいるわけじゃない、一応気に留めていてくれ』 基本的に公務の接待が苦手な蠍を知っているだけに乙女も強くは言わないし、そんな乙女に蠍が感謝しているのも確かなのだが、まるでけじめをつけるように同じような会話を繰り返す。今日も帰るときには似た言葉を交わすだろうと蠍は小さくため息をつきながら紐で綴られた本を掻き分けた。 (創世記…魚の守護とその対…獅子国起源と羊のルーツ…違うな、古代地図と十二始祖の象徴…ああ、これだ) 探していた本の、探していた頁で、蠍は深く息を吐く。 つい、先日。 蠍の宮殿に侵入した青年がいた。 忍び込んだ雰囲気も見せず、好奇心と叡知と透徹な意思とに満ちた明るい瞳で、対峙した蠍を見ていた。 『おもしろい宮殿だな、ここ。裏道の方が多い。迷ったみたいなんだけど、…ここアンタの部屋?』 蠍が口を利けなかったのは、勿論驚いていたせいもあるけれど、その胸に飾られた布止めの紋章が記憶にあったからだ。 狼をモチーフにした、独特のレリーフ。周りに描かれた小麦と葡萄。 今は地図からも消えた国の記憶がそこには息づいていた。 『お前…』 『あ、すごい足音。近衛兵?なんかマズそうだから俺もう行くわ。じゃ』 軽く言って、出てきた隠し扉からまたひょいと消えた。 『王子! 第三層下手四番扉から侵入者があったようです!』 報告に来た家臣の声に我に返るまで、蠍はその場に立ち尽くしていた。 (間違いない…射手国の紋章。しかも狼の瞳の蒼宝玉は王家の象徴だ) その紋章を身につけた青年が意味することを蠍は考える。 (射手国の滅亡自体が不自然だったと言ったのは誰だった?) その時は気に留めるだけだった発言は、確か…牡牛国の収穫祭に招かれたときにどこかの王子が言っていたと思い出す。 『僕はおかしいと思うんだよね、どうして射手国が攻め込まれなければならなかったかという理由がどこにも残されていないんだよ』 (………双子、か) その話はそこで流れてしまったが、どこかで気にかかっていた。 「…………おい、蠍?」 掛けられた声に引き戻され、蠍は大きく身を震わせた。 「…驚いた、乙女か」 「考え事もいいが、そろそろ日が落ち始める。今日中に帰るのか?」 「あ、ああ。悪い乙女、結局気を使わせて」 前髪をかきあげて蠍は綴りを閉じた。その拍子に胸に当たった物に気づき、それが臣下から持たされた物だとようやく思い出す。 「そして、すまん、渡すのを忘れていた」 乙女は手渡された物を見て小さく笑った。 なつめやしの焼き菓子。蠍には似合わない手土産だが、乙女の好物の一つでもあった。 「ありがたく受け取っておく」 そういいながら、乙女は蠍が凝視していた紋章を思い起こす。乙女もあの時蠍と共にいて、双子の言葉が聞こえる場所にいた。 「蠍」 「何だ?」 「射手国の文献はあまりうちにはない。山羊か魚ならあるいは…。生きた情報なら天秤に多いだろう」 「……………。」 真顔になった蠍に乙女は頷く。 「動くときはちゃんと連絡してから行けよ、魚はいつも城下で歩き回ってるし、山羊は静かに怒るからな」 「知ってる」 肩をすくめて蠍は小さく笑った。 「正直、調べてどうしたいのかもわかっていない。けど…」 確かな予感があった。底知れぬ引力を持った何かが心を惹きつける。 「知りたかったんだ」 けれど予感は同時に、波乱と破滅をも暗示している気がした。 蠍は口をつぐみ、乙女に今一度謝意を告げると図書館を後にして愛馬へと向かった。 乙女国の黄昏はいつものように穏やかで、甘い風が吹いていた。

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