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「血の海だ。大きな家の玄関に、中年男性が倒れている。腹部から血を吹き出してい て、あきらかに死んでいる。この彼が今「おやじ」とつぶやいた。彼は走る。家の廊 下を走ってあちこちの扉を開いている。誰も居ないのを確認してから2階に移動した。 またひとつのドアを開いた。その部屋に二人の人物の姿を確認。男と女。男は若い。 女は中年女性。彼は、中年女性に対して、おふくろと叫んでいる。女はぐったりして いて反応しない。若い男が彼に言う。おまえの能力を知っている。今すぐその力を利 用して、とある人物を殺してこい。でなければこの女の命は無い」  つまり山羊は、この男の体験した、過去の出来事を読んでいるのだ。  俺は思わず言った。 「脅されてんじゃねーか!」 「ああ。彼も、この脅しに逆らうことはできないと判断している。そして自分の能力 を思い返している。なにかを取り寄せる力のようだ。食事や、美術品や、楽器を」  へんな力だな。じゃあ、あの綺麗な銃は美術品になるのか。弾も。  山羊が俺に目を向けた。 「彼はいま、その男から、乙女に関する説明を受けている。きみの話は出てないな」 「じゃあ、こいつの狙いは乙女で、俺はあのとき、たまたまそばに居ただけか」 「あと彼の心が苦悩に満ちていることも言っておく。このへんで良いだろう」  一方的に言い切って、山羊は手をあげた。  その手を体のわきにだらりと垂らして、山羊はそのまま、動かなくなった。  すかさず蟹が椅子を持ってきて、山羊を座らせていた。まめな男だ、蟹って。  俺はボーっとしちまった山羊を見ながら、これが山羊の制限なんだなって気づいて いた。腑抜けになっちまうらしい。  けど、すごい能力だ。使われた相手は、その時点でプライバシーをゼロにされる。  険しい顔をした乙女が、俺の横に寄ってきた。 「礼を言う。おまえのおかげで助かった」  しゃきっとした口調。あの寝る前に見たヨレヨレの感じはどこに行ったんだ。 「いいよ、ンなの」 「礼のついでに聞くが、おまえ、なんでこいつを直接持ち上げて、屋上から落とさな かったんだ? 俺はあのとき、おまえがそうするに違いないと踏んで、おまえを送り 出したんだが」 -[[続き>土9]]
「血の海だ。大きな家の玄関に、中年男性が倒れている。腹部から血を吹き出していて、あきらかに死んでいる。この彼が今「おやじ」とつぶやいた。彼は走る。家の廊下を走ってあちこちの扉を開いている。誰も居ないのを確認してから2階に移動した。またひとつのドアを開いた。その部屋に二人の人物の姿を確認。男と女。男は若い。女は中年女性。彼は、中年女性に対して、おふくろと叫んでいる。女はぐったりしていて反応しない。若い男が彼に言う。おまえの能力を知っている。今すぐその力を利用して、とある人物を殺してこい。でなければこの女の命は無い」  つまり山羊は、この男の体験した、過去の出来事を読んでいるのだ。  俺は思わず言った。 「脅されてんじゃねーか!」 「ああ。彼も、この脅しに逆らうことはできないと判断している。そして自分の能力を思い返している。なにかを取り寄せる力のようだ。食事や、美術品や、楽器を」  へんな力だな。じゃあ、あの綺麗な銃は美術品になるのか。弾も。  山羊が俺に目を向けた。 「彼はいま、その男から、乙女に関する説明を受けている。きみの話は出てないな」 「じゃあ、こいつの狙いは乙女で、俺はあのとき、たまたまそばに居ただけか」 「あと彼の心が苦悩に満ちていることも言っておく。このへんで良いだろう」  一方的に言い切って、山羊は手をあげた。  その手を体のわきにだらりと垂らして、山羊はそのまま、動かなくなった。  すかさず蟹が椅子を持ってきて、山羊を座らせていた。まめな男だ、蟹って。  俺はボーっとしちまった山羊を見ながら、これが山羊の制限なんだなって気づいていた。腑抜けになっちまうらしい。  けど、すごい能力だ。使われた相手は、その時点でプライバシーをゼロにされる。  険しい顔をした乙女が、俺の横に寄ってきた。 「礼を言う。おまえのおかげで助かった」  しゃきっとした口調。あの寝る前に見たヨレヨレの感じはどこに行ったんだ。 「いいよ、ンなの」 「礼のついでに聞くが、おまえ、なんでこいつを直接持ち上げて、屋上から落とさなかったんだ? 俺はあのとき、おまえがそうするに違いないと踏んで、おまえを送り出したんだが」 -[[続き>土9]]

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