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「ほんとに何もないんだね。マンガもないの?」 「おじさんの部屋に手塚治虫だったらちょっとある。あとで持ってきてやろうか」 「うん!」 「これから一ヶ月もあるんだから、ゲームもいるんだったら家に電話して宅配便で送って もらう手もあるぞ。どうする?」 「……いや、別にいい。いらない」  山羊は家の話題になると急に堅い調子になって、口ごもりがちにうつむく。 「ゲームはお父さんがやってるし。一ヶ月で帰るんだから、わざわざ送らせるなんて悪いから」  胸元で握り締める手がそっと何かの重みに耐えていた。乙女は微かに目を伏せて甥っ子の 心持ちを案じる。子供ながらに、大人に迷惑をかけたがらない性分なのだろう。一方で、 そうでなければ捨てられてしまうという不安を隠しているようにも見える。  山羊は乙女をおいて自室にこもるとしばらく何もせずに部屋の窓を見上げて壁際に座って いた。乙女も一ヶ月も同居する以上、四六時中構っているわけにもいかない。しばらく一人 居間でごろごろしてテレビを見ていた。一時間尺の番組が二本ほど終わったころ、山羊は 自室から出てきて居間のテーブルの端に座った。  静かに喋り始める山羊の声色は、ようやく乙女を家族としてみなし始めていた。 「僕、なんでお父さんがここを出て都会で暮らすようになったのかわかる気がする」 「……ん? どうして」  乙女が寝転がったまま顔を山羊のほうへ向ける。山羊はぼんやりとテーブルの上を見ていた。 「ここ、暇なんだ。本当に何にもすることがないからじっと考えちゃうんだ。  僕の家があるとこはゲームがあって、夜中でもアニメがやってて、マンガもいっぱいあって、 夜中でもコンビニに歩いていけて、起きててもずっと楽しいことだけして時間を飛ばすこと ができる。暇だーって思ってる暇もないんだよ」  乙女が思うところがあって黙っていると、山羊が乙女を見ながらためらいがちに言葉を 続ける。 「僕は、こんな風にじっと考える時間もあったほうがいいと思う。でもお父さんは考える 時間が長いのが嫌いなんだ。考えすぎて急に怖くなっちゃうのが嫌なんだ。きっと」 -[[続き>夜の楽しみ3]]

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