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「金はねーし、芸もねーし。肩でも揉めっつーんならできるけど」 「時間をくれ。あしたつきあえ。出かける。ついでに書店にも寄って、牡羊に本を買 ってやる」 「いいよそんなの。貸してくれればそれで」 「駄目だ。まっさらな本を手に入れて、自分で読みながらラインを引いて、書き込み をして、折り目をつけて、手垢で汚して、そうしていけば、その本は自分だけのもの になるんだ。そういう習慣をつけるといい」 「夏休み終わるまでに間に合うかな」 「おまえがその本を気に入れば」  というわけで次の日、蠍と出かけた。  蠍は俺を先に本屋に連れて行って、分厚い新書を買ってくれた。  で、本を抱えて次に行ったのは、喫茶店だった。  地味で古い店だ。すみの席に俺が座ると、蠍は俺の隣りに座った。  なんでカップル座りなんだよと俺が文句を言うと、蠍はあっさりと答えた。 「対面に、知り合いが来るから」  そんなこと聞いてなかった。誰だろう?  10分ほど待ってたらそいつは来た。サングラスかけた男だった。でもって、どこ かで見たことがあるようなやつだった。  そいつは俺たちの対面に座ると、蠍に「本当に来るとは思わなかった」と言った。  蠍は、無言だった。  男は俺を見て、こうも言った。 「ずいぶん若いんだな」  そりゃ俺は若いと思うが、それが何だっつーんだよ。  今度は蠍も答えた。 「年は関係ない」 「しかし、蠍の趣味とはぜんぜん違うタイプに見えるよ」 「だから良いんだ」  なにが良いんだよ。  男は次に俺に向かって、「ぼくのこと、知ってる?」と聞いた。  俺は正直に言った。 -[[続き>水3_03]]

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