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 見ていた山羊が、それで良いというふうに頷いた。 「不安神経症、パニック障害。過呼吸症候群。制限によるものだ」  山羊の説明によると、本人は死ぬほど苦しいらしいが、どこが悪いというわけでも ないんだそうだ。過度の不安が神経を狂わせているだけらしい。  辛い制限だなと言うと、山羊は悩ましげに眉を寄せた。 「からだの問題は、癒えさえすれば問題ないが、心の問題は尾を引く。俺も制限のあ いだは心を失っているが、正直、怖いよ。究極に無防備な自分をさらすわけだから」 「なにかされても、どうしようもないわけだ」 「ああ。まわりの人間を疑ってしまう自分が嫌になる」  心を縛る制限。だから魚よりも、蠍の領域なのだが、どちらも外出している。  薬箱をあさろうかと言うと、山羊は考えるようにうつむいたあと、やはり首を横に 振って、俺の耳元に口を寄せた。 「それよりもむしろ、心配なのはこのあとだ。不安は欝状態を呼ぶ。そうなると乙女 は、自分で自分を傷つけ始める」  薬や、蠍の力が、本当に必要になるのはそのときだから、それまでは騒がしくしな いほうが良いのだという。  牡牛が乙女を抱き上げた。乙女の部屋まで運んでいく。  俺は、扉を開くのを手伝った。乙女が寝かされるのを見届けると、廊下で山羊と話 し合った。  で、俺と山羊と牡牛、三人で、交代で乙女を監視することになった。  ※※※  部屋のベッドに寝かされたあとも、乙女はしばらく苦しんでいたが、やがてふつう の呼吸を取り戻した。  まだ疲れた顔のまま俺を見上げて、こう言った。 「俺の眼鏡は?」  ドアを開いて廊下を覗いてみたが、落ちてなかった。  無いぞというと、乙女は眉をしかめた。 -[[続き>土3_03]]

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