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「わかんね。けど、あるのかなとも思う」 「俺は確実に、あると思う。なければ困る」 「困る?」 「ああ。俺はこの能力に目覚めたのは、いまの家族に出会ってからだ。しかしそれま でにも、それらしい兆候はあったんだ」  乙女はいったん、黙った。  それから視線をうつむけて、言いづらそうにこう聞いてきた。 「牡羊は、球技が得意だったんだな」 「おう。だから野球やってた」 「しかし得意だと思っていたそれは、実は自覚していない能力の結果だったかもしれ ない。そう思ったことはないか?」  ある。はっきりと。  うなずくのには勇気がいった。自分のずるさを告白しているような気分になったか らだ。  しかし乙女は、俺を責めなかった。かわりに自分のことを説明しだした。 「俺は子供のころからよく、幻覚を見ていた。ありえないものを見て、知りえないは ずのことを知った。だから昔の俺は自分のことを、頭がおかしいのだと思っていた」  なんでも見えちまう力を、それと知らずに使っていたら。  人はそれをどう思うだろう? 「幻覚ってのは、無意識の、遠視だったのか?」 「と思う。自分の親が事故で死ぬサマも遠視した。はっきりと」 「それは……」 「親を失ったショックで幻覚を見るようになったのだと、周りの人間は説明した。だ から毎日、薬を飲まされて、意識が朦朧としていた。俺は、このおかしな頭を正常に 保ちたいと、ずっと考えて生きてきたんだ。正確に、目の前の出来事だけを信じて、 判断しようと。そういう習慣のもとに生きてきた。だから頭を使うなと言われると困 る。それこそ頭がおかしくなる」  違和感を感じた。  淡々と語る乙女。様子も落ち着いている。しかし何かがおかしい。 -[[続き>土3_08]]

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