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カジノ・ロワイヤル 水瓶vs蠍、蟹vs魚 774チップ 2007/09/24(月)18:33
71の続きです。ボツになった一行↓
水「ああ。余談だが、ベートーベン自身は射手座だ」
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射手とのまな板ショーを終えた後、双子は観衆に挨拶だけを済ませて自室へと戻ってしまった。
一段落つくとプレイヤーたちは再び戦いの場に戻る。
射手に精神的ダメージを被った(?)魚も、涙目になりながら蟹とのゲームに戻ったようだ。
水(双子は部屋に戻ったか。彼らしい。双子はメンタル面の調整に気を遣うたちだからな……。
……一方で蠍は。こいつは弱者から徹底的にむしり取っていくタイプだ。
戦力的にはこちらが2、あちらが3ぐらいか。少しシビアにいかなければ)
水瓶はポーカー卓の正面に残った蠍を見据えた。
暗闇の中を走る鉈、いや毒針のような目つきがこちらを静かに観察している。
蠍の毒針は時として自分よりも強い存在をも殺すが、基本的には弱者を狩り続けるためにあるのだ。
実際に双子がいなくなって彼は賭けのレートをせり上げ始めている。
水「君は、そうやってなりふり構わず手に入れたものをみんな他人に捧げてしまうよな。
前からそこのところが解らなかった。僕が機械見たさに世界中を回るのと違って
君の行動力には興味や楽しさというより、とてもパセティックなものを感じる」
蠍「……?」
水「ああ、Pathetic[パセティック]だと英語だから違うか。
Pathetique[パテティック]だな。フランス語。Pathetique。
ベートーベンがピアノ・ソナタの一つに自分でつけた題名としての方が有名だよ。
日本では『悲愴』って訳されてるけど、それは英語訳の方だから厳密には違うんだ。
原題のフランス語訳だと『強い情動』悲しく・強く・勇ましく・傷ましく・感動的
っていうニュアンスになる。……君はベートーベンが似合うよね」
蠍「……ベートーベンだのクラシックだの、よくわからんが
お前と俺との間に深い溝があるっつーことはよくわかったよ」
水瓶の眼はまるで一点の澱みもない水──やわらかな鏡のように蠍の暗い視線を映しこんで、はね返す。
洞察力に長けた蠍でさえ水瓶が本格的にその知性を働かせ始めると
彼が何を考えているのか読めなくなる。例えばポーカーをしながら
同時に頭の中で『悲愴』に聴き入り始めるような感性に、追いつけなくなってしまうのだ。
あまりにも澄明すぎる水の中に甲殻類や魚類は棲めない。
水瓶と蠍が戦っている横で、もう一つの卓では素人二人が泣き出しそうな顔をして戦っている。
表情を歪めるのは主に魚で、戦っているうちに蟹の沈黙から苦痛を感じ取ってしまうらしい。
蟹は蟹でどんどん自分に感化してくる魚にやりづらいものを感じている。
蟹(この人は戦いづらいな。俺は家族や友人以外の人間になら、いくらでも冷たくなれるのに)
「あの……大丈夫ですか」
魚「大丈夫です……ぐすっ。借金だなんて、マグロ船だなんてっ。そんな……」
蟹(なんとなくのせられて話してしまったけど、話すんじゃなかった。この人はいいけど、
この人から他の人に話されたら後で戦うときに厄介になるかもしれない)
蟹はその小さな鋏を振りかざすようにして少しずつ魚を振り回し、
チップを引きちぎって自分のものにしていく。魚は涙腺過多の状態で健気に戦っているが
場の流れは蟹のほうへと流れていた。魚は一戦ごとに確実に弱っていく。自分に力を明け渡しながら。
もう少しで、陥落という情勢になって、蟹は勝負をする手を止めた。
──この男にとどめを刺すか? 自分にそれができるのか?
蟹「……」
魚「蟹さん。参加料を出さないとゲームが……蟹さん?」
蟹は無言のまま席を立つ。そのまま彼はチップを清算し、魚を残して一人賭博場を出て行ってしまった。
魚はチップの少ない状態で呆然として蟹の去った方向を見つめる。それから、自分の手持ちを見直す。
魚「俺、助かった……の、かな?」
事態はそれほど甘くなかった。横の卓では蠍の眼が一部始終を見つめている。
ゲームが一区切りついて水瓶に少しのチップが流れ、蠍が席を立つ。
水瓶は蠍の思惑を読みながらその場を動こうとはしなかった。
彼の主義が、弱った初心者を餌食にすることを良しとしなかったのかもしれない。
蟹が消えてのち、魚の卓の前には蠍が座り込んでくる。
魚が一瞬身をすくませて息を呑む。蠍は今度こそ毒針をたわめながら、吸い込まれそうな低い声で囁く。
蠍「ゲームを続けようじゃないか」
こんなとき、蠍はなぜか笑う。この暗い魅力に負けて参加料のチップを出してしまった時点で
かよわい存在はみな捕食されてしまうのだ。
-[[続き>カジロワ29_73]]
カジノ・ロワイヤル 水瓶vs蠍、蟹vs魚 774チップ 2007/09/24(月)18:33
71の続きです。ボツになった一行↓
水「ああ。余談だが、ベートーベン自身は射手座だ」
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射手とのまな板ショーを終えた後、双子は観衆に挨拶だけを済ませて自室へと戻ってしまった。
一段落つくとプレイヤーたちは再び戦いの場に戻る。
射手に精神的ダメージを被った(?)魚も、涙目になりながら蟹とのゲームに戻ったようだ。
水(双子は部屋に戻ったか。彼らしい。双子はメンタル面の調整に気を遣うたちだからな……。
……一方で蠍は。こいつは弱者から徹底的にむしり取っていくタイプだ。
戦力的にはこちらが2、あちらが3ぐらいか。少しシビアにいかなければ)
水瓶はポーカー卓の正面に残った蠍を見据えた。
暗闇の中を走る鉈、いや毒針のような目つきがこちらを静かに観察している。
蠍の毒針は時として自分よりも強い存在をも殺すが、基本的には弱者を狩り続けるためにあるのだ。
実際に双子がいなくなって彼は賭けのレートをせり上げ始めている。
水「君は、そうやってなりふり構わず手に入れたものをみんな他人に捧げてしまうよな。
前からそこのところが解らなかった。僕が機械見たさに世界中を回るのと違って
君の行動力には興味や楽しさというより、とてもパセティックなものを感じる」
蠍「……?」
水「ああ、Pathetic[パセティック]だと英語だから違うか。
Pathetique[パテティック]だな。フランス語。Pathetique。
ベートーベンがピアノ・ソナタの一つに自分でつけた題名としての方が有名だよ。
日本では『悲愴』って訳されてるけど、それは英語訳の方だから厳密には違うんだ。
原題のフランス語訳だと『強い情動』悲しく・強く・勇ましく・傷ましく・感動的
っていうニュアンスになる。……君はベートーベンが似合うよね」
蠍「……ベートーベンだのクラシックだの、よくわからんが
お前と俺との間に深い溝があるっつーことはよくわかったよ」
水瓶の眼はまるで一点の澱みもない水──やわらかな鏡のように蠍の暗い視線を映しこんで、はね返す。
洞察力に長けた蠍でさえ水瓶が本格的にその知性を働かせ始めると
彼が何を考えているのか読めなくなる。例えばポーカーをしながら
同時に頭の中で『悲愴』に聴き入り始めるような感性に、追いつけなくなってしまうのだ。
あまりにも澄明すぎる水の中に甲殻類や魚類は棲めない。
水瓶と蠍が戦っている横で、もう一つの卓では素人二人が泣き出しそうな顔をして戦っている。
表情を歪めるのは主に魚で、戦っているうちに蟹の沈黙から苦痛を感じ取ってしまうらしい。
蟹は蟹でどんどん自分に感化してくる魚にやりづらいものを感じている。
蟹(この人は戦いづらいな。俺は家族や友人以外の人間になら、いくらでも冷たくなれるのに)
「あの……大丈夫ですか」
魚「大丈夫です……ぐすっ。借金だなんて、マグロ船だなんてっ。そんな……」
蟹(なんとなくのせられて話してしまったけど、話すんじゃなかった。この人はいいけど、
この人から他の人に話されたら後で戦うときに厄介になるかもしれない)
蟹はその小さな鋏を振りかざすようにして少しずつ魚を振り回し、
チップを引きちぎって自分のものにしていく。魚は涙腺過多の状態で健気に戦っているが
場の流れは蟹のほうへと流れていた。魚は一戦ごとに確実に弱っていく。自分に力を明け渡しながら。
もう少しで、陥落という情勢になって、蟹は勝負をする手を止めた。
──この男にとどめを刺すか? 自分にそれができるのか?
蟹「……」
魚「蟹さん。参加料を出さないとゲームが……蟹さん?」
蟹は無言のまま席を立つ。そのまま彼はチップを清算し、魚を残して一人賭博場を出て行ってしまった。
魚はチップの少ない状態で呆然として蟹の去った方向を見つめる。それから、自分の手持ちを見直す。
魚「俺、助かった……の、かな?」
事態はそれほど甘くなかった。横の卓では蠍の眼が一部始終を見つめている。
ゲームが一区切りついて水瓶に少しのチップが流れ、蠍が席を立つ。
水瓶は蠍の思惑を読みながらその場を動こうとはしなかった。
彼の主義が、弱った初心者を餌食にすることを良しとしなかったのかもしれない。
蟹が消えてのち、魚の卓の前には蠍が座り込んでくる。
魚が一瞬身をすくませて息を呑む。蠍は今度こそ毒針をたわめながら、吸い込まれそうな低い声で囁く。
蠍「ゲームを続けようじゃないか」
こんなとき、蠍はなぜか笑う。この暗い魅力に負けて参加料のチップを出してしまった時点で
かよわい存在はみな捕食されてしまうのだ。
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