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[22-18] 水月2-1 ななし 2008/03/31(月)15:53

水月の続きで双子と天秤。
乙女の扱いが酷くてすいません。

快活というのは、電話の向こうの彼のためにあると思った。

――そういや先生、双子いないのか?
「双子? 来てないよ? 牡羊さん最近会ってないの?」
――全然会わねーんだよ、こりゃ天秤先生のとこだ! って
「はは、あれは僕より射手とワンセットですよ」
――あいつ最近掴まらなくね? 全然テレビ出てねーのに
「うーん。僕も最近忙しかったし。映画は先月撮り終えたらしいけど」
――おぉ、またデートかぁ? このタラシ!
「ふふ。今度会ったら牡羊さんのこと伝えておきます」
――おう、頼むよ。先生、仕事の邪魔して悪かったな。
「いや。牡羊さん、非番だからってお馬さんはほどほどにね」
――うっせ! じゃあな!
「じゃあまた」


そっと受話器を置き、意識せず張り付いていた笑顔を剥す。我ながらよく喋った。
何か気付かれはしなかっただろうか。明るく快活なお巡りさんに。
熱血で人のために走り回り、子供のようにカラカラ笑う彼は、
全く「あれ」とは正反対だ。凝ってしまった頬を擦りながら振り返る。
書斎の奥、寝室に息を潜めている「問題」。牡羊との通話で追いやっていた澱みは、
すぐにぬらぬらと纏わりついて、足取りを鈍らせた。
防音を施してある寝室のドアと同じく気分は重い。
そっと開くと、中は夜に置き去りにされたように暗かった。
雨戸も遮光カーテンも下ろされては、目が慣れるまで少々時間が要る。
「問題」は窓とベッドの隙間に、隠れるように膝を抱えて蹲っていた。
ベッドを乗越えて端に座る。空気が更に頑なになる。

「双子」

声を掛けると、ますます深く潜る様に身を縮込ませる。
「今日はどうする? 泊まってく?」
なんでもないように尋ねれば、糸が縺れた人形のように肩が不自然に揺れる。
こうなると生きているかすら怪しい。
実は双子は人形かもしれない、という妄想が頭を掠めた。
脈を確かめようと不健康な蒼白い首筋に触れると、鋭く叩き落とされる。
目を離す度に深まる恐慌に、溜息が出た。
双子は人を選んで庇護を強要する。こちらも乞われるまま与えている。
双子は何も言わない。それでも言外に滲ませる願いに気付いてしまった。
けれど、このまま何もかも擲って外界を拒絶するには、
二人それぞれを取り巻く柵が大き過ぎた。結局中途半端なまま選べずにいる。

決めかねる一因は双子の分裂だ。双子の中には常に二人いて、
一方では束縛を唾棄すべきと切り捨て、また一方で孤独を怯え、忌み嫌っていた。
それを知って身動きが取れなくなった。どちらを満たしても足りない。
顎を掴んで無理矢理上向かせ、顔色を確かめる。
艶のない長い前髪の奥、濃い隈に縁取られた瞳。
一瞬かちあったその色は、全てを吸い込むように暗い。

「なにが知らないだ。嘘吐きめ」

すぐに目を伏せ吐き捨てる。呟きには普段出さない苛立ちが濃く混じっている。
自意識過剰の盗み聞きに呆れたことはおくびにも出さず、
顔に掛かる前髪を分けて額に撫でつけてやる。
嫌な顔をするくらいなら本気で怒れば良い。
ポーズばかり上手くて、この年下の友人はどうしようもない。
肯定と否定が瞬時に切り替わり、自分で巻き起こした嵐に翻弄されている。
掴んでは放し、溺れ掛けては救いを乞う。
安定すれば波乱に身を投じ、死ねやしないと泣いている。どうしようもない。
けれど、自分が双子に甘いのは嫌というほど自覚している。
それが双子のためでないことも。
「誰がそうさせたの。なら他へ行けよ。お前、眠れないから来たんだろ?乙女――」
「うるさい」
遮り、噛み付くように睨まれた。
血走り、零れない涙で潤む目が、真っ直ぐこちらを射抜くのは珍しい。
双子の過剰反応は分からないでもない。
一昨年、乙女がマネージャーになって以来、双子の精神状態はよろしくない。
あの銀行員のような風貌を思い出す。
堅物を絵に描いたような、神経質に髪を撫で付けた年下の眼鏡の男。
常に双子のそばで監視している。
乙女は双子のことを商品としか見ていないし、
双子は乙女の全てを否定するしで始末に負えない。
そんな二人が四六時中一緒で上手く行くはずもない。

いや、仕事は上手くいっている。それが双子の背負い込み癖に拍車を掛けるだけで。