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[22-19] 水月2-2 ななし 2008/03/31(月)15:54

――双子はそんなことしてはいけない
――それは双子のイメージじゃない

衣装一つにしても、双子の希望は通らない。
双子は不自由の中の自由を探して沈んでいった。
酒を飲みながら、アイドルじゃあるまいし、
そう笑った頬が微かに引き攣っていたのを覚えている。
それから半年足らず、双子が荒みに荒んでこの部屋に逃げ込んでくるのは二度目だ。
渡した覚えのない合鍵で、人でも殺しそうな顔で玄関に立っていた双子は、
許可するまで靴を脱がなかった。そういう最後のところで選択を迫るのは、
強引に飛び込めるほどの自信がないからだ。今なら解る。
率直に言って憐れだ。
双子はいつだってアイデンティティ・クライシスの泥沼で許しを乞うている。
付き合いは十年来だというのに、気付いたのはほんの数ヵ月。
観察眼が命の作家がこれだ、と我がことに呆れると同時に、
双子に染み付いた嘘の上手さに愕然とした。
乙女は双子の売り方を心得ている。
世間のニーズと双子の隙間を埋めるため、誰よりも冷静に観察している。
イメージ戦略は完璧で、依頼が吹雪のように舞い込んだが、
露出が増える度に双子の心は冷えていく。
乙女の計算は根底が間違っている。双子はテンションを一定に保てない。
ムラっけが強すぎる相手に維持を求めるのは間違っている。
だが畑違いの人間は、気付いたところでただ眺めるしかない。
射手なら、或いは。いや、双子に迷う隙を与えた時点で射手も同じ穴のムジナか。

「ああ、酷い顔だ。お前それでよく仕事になるね」
「……オフだよ」
両手で頬を挟み、覗き込むように向かい合う。
言い訳になっていないことに気付きながら、それでも虚勢を張る双子は痛々しい。
立ち向かう強さが足りないから、影を踏まれる前に走るしかない。
双子は鼠車を必死に回して安定を保つ。
いつか心臓が破れて、濁流に呑まれるのを知りながら、止まることが出来ない。
「ついでに失踪中ね。僕の後輩の脚本蹴ったって?
 たまたま居合わせたけど、乙女くん謝り倒してたよ。
 たまには礼の一つも言ってあげたら?」
「なんで。それがあいつの仕事だろ」
あんた俺に役なんかくれたことないし、関係ないだろ、
そう口を尖らせ嘯く双子を、憐れみを持って頭を撫でてやる。
誘い水を掛けないと愚痴も言えない。臆病が凝り固まって貝になっている。
自ら閉じた世界で、孤独だと喚いている双子を知っているのは、恐らく他にいない。

腹の底がざわつく。

「どうせ蹴られるのに?」
「わかんないじゃん」
少し調子が出て来た双子が笑う。ベッドを叩いて隣りに座るよう促す。
渋々を装って大人しく立ち上がった。
けれどすぐに糸が切れたように双子が崩れ落ちて来て、ベッドに縺れる。
開放のための手順は正しかった。
受止めた身体は未成熟かのように痩せて固く、相変わらず軽かった。
肩口に顔を埋めて震えている背中を撫でる。
面倒な性格の俳優は、父性とも母性ともつかない本能の隙を突いて、
小狡い庇護を強請る。
「ねぇ、腹減ったろ。牡牛の店行こうよ」
囁いてやや長めの黒髪を一筋掬うと、仄かに汗の匂いがした。
香水でも石鹸でもない、生の匂いに頭が痺れる。
自分の書いた小説に迷い込んだ気分だ。
「うるさい。仕事しろ。構うな」
こっちが苦しくなるほど必死にしがみついて、可愛くないことを言う。
この心体の不一致が双子を双子たらしめ、また双子を苦しめる。皮肉だ。
お前がそうやってもがくほど、汚い欲が掻き立てられる。
お前を守りたい一方でお前がもっと苦しめばいいと本気で願っている。
「気になって仕事にならないよ」
「……らせろ」
「え?」
瞬間、押し退けるより早く両肩の付け根を膝で押さえ込まれた。
胸に座り屈み込む双子の顔が、吐息が触れるほど近くにある。
普段の爽やかさなどかけらもなく、ドロリと澱んだ獣の目をしていた。