36 :超能力SS2:2008/07/08(火) 21:17:42 ID:???0

 あーだるい。だるいけど、眠っているわけでも、起きているわけでもないみたいだ。
 意識がぼうっとして、溶けたみたいになって、急にはっきりして、また消える。
 その繰り返しの中に、俺は誰かの顔を見た。
 大人の顔だった。優しそうな目をしていた。そいつが俺にこう言った。
「大丈夫だからね。すぐに治してあげる」
 冷たく心地よい良い手が、俺のひたいに触れる。続いて頬に。首、肩、胸、腹。
 あんまり気持ちよくて、俺はぐっすり眠ってしまった。
 そして目覚めると、知らない天井が見えた。
 あわてて身を起こす。俺は俺のものじゃないベッドに寝ていた。
 あたりを見回すと、そばに椅子があって、そこに、夢うつつに見たあの、優しそうな男が座っていたのだ。
 なんとなく助けられたんだってわかった。だから俺は礼を言おうとした。
 しかし男のほうが先に、大人の顔のまま、俺に話しかけてきたのだ。
「ねーねーねー、ぼくえらい? ぼくえらいでしょ」
 礼を言おうとした口が固まっちまった。
 男はニコニコしながら、椅子の下の足をばたばたと振った。
「治ったでしょ? ちゃんと治ったでしょ。痛くないでしょ」
 俺はびっくりしながら、やっと、言った。
「い、痛く、ない……」
「やったあ。ぼくえらい。ちゃんとお医者さんしたよ」
 ぱちぱちと拍手。そして抱きついてきた。
 なんだこりゃ。
 へどもどしていると、部屋のドアが開いた。
 入ってきた男は、俺と、この変なのを見ると、あわてて近寄ってきた。
「魚、魚! 病気の人に抱きついちゃ駄目だよ」
「病気じゃないもん。ぼく治したもん」
「うん、魚はちゃんとお医者さんできたんだね、えらい、えらい」
 頭を撫でられて、魚と呼ばれた変なのはキャッキャッと喜ぶ。
 どうやら頭がおかしいらしい。

最終更新:2008年12月10日 22:21