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「家族?」
「まあ、すぐに結論を出せとは言わないから、とりあえずゆっくり休んでなよ。まだ洗った制服も乾いてないし」
 言われて身をさぐると、俺は俺のものじゃない服を着ていた。
 蟹はベッドを離れながら、ついでのように言った。
「僕は仕事に戻るね。牡羊も退屈なら、建物の中だったら自由に歩いてもらってかまわない。だけど勝手に逃げ出そうとは思わないこと。……無駄だから」
 最後の一言が、やけに強く聞こえた。
 しかし蟹は、キツさなど微塵も感じさせない、人の良さそうな笑顔を浮かべたまま、部屋を出て行った。
 俺は助けられたんじゃなくて、捕まった、のか?

 ※※※

 しかし出歩いても良いと言ったのはむこうだ。
 遠慮なく出歩こうじゃねえの。出歩きついでが遠出になっちまうかもしれないけど、それは逃げ出したことになるのかもしれないけれど、仕方が無いよな?
 スリッパを履いてドアに向かう。ノブをねじって引く。
 そして外に出てみると、そこは廊下だった。
 ここは2階らしい。ぐるっと円形に廊下がつながっていて、廊下の片側は手すりになってる。
 手すりの向こうには一階の、やたらと広いロビーが見える。ロビーにはテーブルと椅子がある。椅子の数が多い。
 あちこちに花や絵が飾ってある。花も絵も、種類は様々だ。どちらも俺には名前がわからない。
 一階に下りる階段を探して歩いていると、廊下に面した沢山のドアのひとつが、ふいに開いた。
 黒い服を着た男が、ドアの隙間から、こちらを覗いていた。
 俺は立ち止まったまま、なにを言っていいのかもわからなかったので、ちょっと頭を下げた。
 男は、小さな声で言った。
「……牡羊?」