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26 :風と木の川田さん:2008/07/07(月) 09:03:52 ID:???0
七夕にまかせて書き逃げスマソ。獅子蟹。


 七月七日だというのに、薄鼠色に湧きたった空からは次々と大きな雨粒が滴り落ちていた。
傘を差し、素っ気なくジーンズにビーチサンダルを履いただけの足で黒いアスファルトを
踏んで歩いていくと道端に咲き誇ったくちなしの花が甘い匂いを青年の身体にまとわり
つかせる。
 蟹座の男は梅雨か夏に生まれる。
 いつだったか、獅子が自分を名指しして「おまえも夏生まれか」と物珍しそうにいっていた。
自分と違っていつも暑苦しいオーラのあるあの男を夏生まれだと言って疑う奴はそういない
だろう。蟹は仕事のある日はともかく、今日のような休日に雨が降るのは嫌いではなかった
が、獅子のほうがその感性を理解できるかどうかはほとほと怪しかった。

 ──ああ、笹竹と短冊と飾りを用意しなきゃ。だけどこの雨じゃ乙姫と彦星が会えるか
どうかも怪しいもんだな。

 最近、獅子とくっついているせいか、蟹はより水っぽい環境に惹かれるようになった。
獅子といるときの自分はまるで頭の芯から水蒸気がのぼっているようだ。どこかで水分を
補給しないとすぐにからからになってしまいそうで、バランスがとりづらくなっている。

「獅子は短冊になんて書くかな。ずっと俺と一緒に……とかだったらいいけど、書いてくれ
なさそうな」

 だってその願いは自分が先に書いてしまうからだ。あの鈍感な獅子でさえ気づくような
見え透いた形で。獅子はいつも自分の願いを知るとその湿っぽさに鼻先で溜め息をついて
あきれ、それから演技的に大きく両腕を広げて「こっちへ来い」と言う。
 まだキスより先へは進んでいなかった。片手で足りるほどしか交わしたことのないキスの
数を数えて、今日もまたそれを増やすつもりでいる。見栄っ張りなのにそんな行為のときだけ
儀式的に固まる獅子の、不慣れな堅さが好きでたまらない。
 蟹は苦笑しながら商店街へと歩いていった。