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 雨のせいでしっとりとした片手をジーンズのポケットに押し込みながら、もう片手に差した
傘の先に商店街の風景を見つける。
 子どもの頃から変わらない街並みと人々。いつもこの時期になるとモールの中にテントが
張られ、商店街で買い物をした客に笹竹の引き換えチケットが手渡されるのだ。毎年たくさん
のカップルと家族連れがテントの前に長い列を作る。
 今年は獅子と二人で過ごす初めての七夕なんだ……買い物をして人々の列に並びながら蟹が
小さくキラキラ星の口笛を吹いていると、少しずつ列が動いてテントが近づいてくる。
 雨の中に人々の熱気が仄白いけむを巻いていた。蟹は揺れる人の列の中に愛する男の背中を
見つける。それまで温かった微笑がぱっと輝き、彼は遠くから声をかけようと口を開けた。

「──え?」

 口まで開けたのに、彼の喉は男の名を搾り出しはしなかった。
 列の先で傘をさし不慣れに肩をこわばらせている背中。威張るライオンのようだといつも
思う。同じ傘の中に違う人影があった。
 隣に、長い髪の女がよりかかって腕組みをしている後姿が見えた。



 ああひどいや。
 獅子。俺のことだましたの。



 思考が一足飛びにすっ飛んで、そんな結論に達したとき肺から文字通り泡が吹き零れそうに
なった。抜け殻のままでもいいから行って真実を確かめるべきだった。家族親戚かもしれない。
友達かもしれない。獅子にその気はなかったかもしれない。
 だけど目の中に水が一瞬であふれ。今にも零れ落ちそうになっているこの状態で自分に
それを確かめることができるだろうか。