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 ──行けよ。行って訊ねればすぐに終わるよ。そうしろよ。
    どうして行く前から最悪の答えしかないって思い込む?

 駄目だと思った。今この場では、最悪の事態になったときに耐えられない。男の前に女と
男を並べてどちらが恋人として正当性があるかなんて、どちらが周囲により認められるか
なんて、”獅子がどれほどそれを重要視するかなんて”、わかりきったこと。
 涙ですぐ振り切れるような理性じゃなく、もっと強い心が欲しかった。何かあったときに
どうしようもなく理性が停止する自分は男としても弱い。獅子が嫌いそうなこの気持ちの、
とめどない溢れよう。

 蟹はそれ以上顔の筋肉を動かさないようにして、人々の列から出ると獅子のいる方向に背を
向けた。そのまま地面を見て足を動かしていく。動悸と息切れに知らず胸を押さえていた。
 誰にも迷惑をかけないようにと凝固させていた涙腺が、商店街を出た途端に鼻にまで抜けた。
しょっぱい匂いを止めようと口を押さえ、そのまま傘を握った手で目元を隠す。
 口の端から噛み殺した呻きが漏れた。

 ──ねえ獅子、あれは一体なんだったんだ。
    さっきから、一番よくない想像ばかりしている。怖いよ。