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 雲の立ち込めた空が徐々に光を失って茶色く澱んでゆく。
 星は見えなかった。いつまでも公道で泣いた姿勢でいるのもみっともないと思って、立ち
上がる。蟹は手で顔をぬぐいながら泣きはらした赤い目をあさっての道路の先へと向けた。
 いつか確かめなければならないことだけど、今その勇気はない。
 逃げ出そうと足を踏み出した先に新たな人影が歩いてくる。今日はみんな商店街の笹竹を
目当てに歩いてくるからだ。向こうの人物が自分を見つけて大きく手を振ったのを見て、蟹は
とっさに顔に残った涙をのこさず手の甲に擦り落とした。

「蟹~! やったあ。笹はまだもらえそう?」

 道の先から魚が柔らかい笑顔で駆け寄ってくる。蟹はどんな顔をしたらいいのかわからなく
なって、片方の口角を吊り上げたひどい笑顔を作った。魚も遠くから距離を詰めてくるうちに
気づいたようだった。自分が泣き出しそうでたまらない顔をしていることに。

「どうしたの。何か辛いことでもあった?」

 よりかかりたかった。きっと魚は無条件で受け入れてくれる。察しが良すぎて何か言う前
から「獅子のこと?」とアタリをつけてくる。話したいのにそれ以上奥まで踏み入られるのが
怖くて、蟹は無意識に空いた手で魚を拒絶する手振りをとった。

「今日はもう帰る」
「蟹、大丈夫? あとでそっちの家行こうか?」
「大丈夫だから。そっとしといて」

 蟹は肩を落としたまま、魚と正反対の方向へ歩く形で彼と別れた。「なにかあったらすぐ
電話して」と大声で声をかける魚に、必死で手を振って答えた。